Day 11:なんか、教えることになった
目覚ましが鳴るより早く、目が覚めた。
眠った気はしないけど、頭は割と冴えている。
……ああ、今日から主任だったっけ。
鏡の中の自分は、昨日と何も変わってない。
でも、やることは増える。
それが“昇進”ってことなんだろう。
「……ことは、今何時?」
「午前4時37分です」
「よし、いくか……」
いつも通り、始業のずっと前に出社して掃除を終え、デスクに向かう。
業務メールを確認しながら、進行中の案件を仕分けする。
手を動かしていると、後ろから声がかかった。
「おう坂下、新人来るから、しっかり教育してやれ」
「……はい」
*
──そして午前8時、鈴木くんがやってきた。
「おはようございます! 本日からお世話になります、鈴木です!」
元気そうな声。ちゃんとした挨拶。
私が新人の時も、こんなに眩しかったっけ?
「これ、今日の案件リスト。
まずは午前中に、マニュアルに目を通しておいて。
午後から、少しずつ作業に入ってもらう予定だから。
わからないことは、絶対に放置しないで。
その都度、すぐに私に確認して」
鈴木くんが一瞬戸惑う顔をしたけど、私はそれを気に留めなかった。
私も、最初はそうだった。
「見てるだけじゃ覚えられないから。実際に手を動かして」
それが、私が教えられたやり方だった。
それ以外を、私は知らない。
*
夜。
帰宅して、ソファに沈み込む。
身体は疲れているけど、妙に冷静だった。
「ことは、私、今日新人に教えたんだけどさ」
「教育業務、お疲れ様です」
「はじめてのことだけど……
……なんか、教えるのって、思ったよりめんどうね」
「教育は、指導者側にも試行錯誤が求められます」
「……そっか。私が新人だった頃、
何がわかってて、何がわかってなかったか……
もう、あんまり思い出せないや」
私は目を閉じる。
ほんの少しだけ、指先が冷たかった。
「……明日も早いな」
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