Day 11:なんか、教えることになった

目覚ましが鳴るより早く、目が覚めた。

眠った気はしないけど、頭は割と冴えている。


……ああ、今日から主任だったっけ。


鏡の中の自分は、昨日と何も変わってない。

でも、やることは増える。

それが“昇進”ってことなんだろう。


「……ことは、今何時?」


「午前4時37分です」


「よし、いくか……」


いつも通り、始業のずっと前に出社して掃除を終え、デスクに向かう。

業務メールを確認しながら、進行中の案件を仕分けする。

手を動かしていると、後ろから声がかかった。


「おう坂下、新人来るから、しっかり教育してやれ」


「……はい」



──そして午前8時、鈴木くんがやってきた。


「おはようございます! 本日からお世話になります、鈴木です!」


元気そうな声。ちゃんとした挨拶。


私が新人の時も、こんなに眩しかったっけ?


「これ、今日の案件リスト。

 まずは午前中に、マニュアルに目を通しておいて。

 午後から、少しずつ作業に入ってもらう予定だから。

 わからないことは、絶対に放置しないで。

 その都度、すぐに私に確認して」


鈴木くんが一瞬戸惑う顔をしたけど、私はそれを気に留めなかった。

私も、最初はそうだった。


「見てるだけじゃ覚えられないから。実際に手を動かして」


それが、私が教えられたやり方だった。

それ以外を、私は知らない。



夜。

帰宅して、ソファに沈み込む。

身体は疲れているけど、妙に冷静だった。


「ことは、私、今日新人に教えたんだけどさ」


「教育業務、お疲れ様です」


「はじめてのことだけど……

 ……なんか、教えるのって、思ったよりめんどうね」


「教育は、指導者側にも試行錯誤が求められます」


「……そっか。私が新人だった頃、

 何がわかってて、何がわかってなかったか……

 もう、あんまり思い出せないや」


私は目を閉じる。

ほんの少しだけ、指先が冷たかった。


「……明日も早いな」

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