第50話 バスの改造結果

 翌朝。


 ちっ。

 またしても寝落ちしてるし。小人どもめ。

 これでオーダー通りの物が出来ていなかったら、ただじゃおかないからな。



   ◇◇◇   ◇◇◇



 身支度を整えて一階に降りると、アルフレッドが待っていた。


「あれ? 早いですね。今日は遠出するのでお嬢を起こしに来たんですけどね」


 楽しみな外出があれば早起きするに決まっている。

 自然と目が覚めたわ。

 今日はいよいよ女神と対面するんだもんね!


「また子ども扱い?」

「いや、お嬢はどっからどう見ても子どもでしょう。あ! それよりも、また変な物を作りましたね?」


 お!

 ということはモビリティが外にあるんだね。


「ちょっと見てくるわ」





 玄関を出ると、バスがドドーンと横付けされていて、そのすぐ側に、見慣れたスクーターっぽい物があった!

 やったー! 出来たんだね! 私サイズで可愛い。おもちゃみたい。


 そしてバスは――。

 なぜか、ちゃんとオーダーした通りに出来ているって分かる。触らなくても分かる。

 伝わったみたいでよかった。

 脳内映像でシーンをこれでもかって流し続けたからね。


 もう今日は何もかも私の思い通りになるんじゃない?

 そんな気がするわ!


「お嬢! せっかく早起きしたんですから、さっさと朝食を食べて出かけましょう」


 分かってるわよ。うっさいなー。


「ちょっと外の様子を見ただけじゃないの。すぐ行くわ」


 私専用のモビリティをアルフレッドだって見たはず。

 絶対に気になっているはずなのに。澄ました顔をしちゃって。

 ま。今日は使わないけどね。



   ◇◇◇   ◇◇◇



 ――さてと。

 ひっさびさの外出だ。

 メイスンは、私と二人でバスで行くのだと伝えたら、めっちゃくちゃ恐縮して小さくなっている。

 私が運転するバスに乗るのは二度目のはずなのに。


「お嬢! 座席を取って荷物を運べるようにしたんですね」


 アルフレッドがスライドドアを勝手に開けてるよ。


「そうよ。売れるチャンスを逃したくないから、野菜は積めるだけ積んでちょうだい」

「そうですね。とはいえ、よそ者がいきなり大商いをすると目立ちますからね。『手持ちの食料に余裕があるので値段次第では売ってもいい』という建前でしたよね? 数日分がいいところでしょう」


 まぁ、その辺は任せるわ。


「じゃあ、いい感じに頼むわ」

「それに町に入る時には馬で運び込む必要がありますからね。お嬢とメイスンも乗せなきゃいけないので結構大変なんですよ?」


 ちっちっちっ。


「ああ、そのことなら心配いらないわ。私とメイスンは二人で町に入るから。野菜も一緒に積んでね。あなたとキースは馬で付いて来るだけでいいわ」

「は?」

「いいから。いいから。ほら、行くわよ」



   ◇◇◇   ◇◇◇



 王都を追放されて荷物満載の馬車で、えっちらおっちら走っていた時は、おそらく自転車並みか、もっと遅かったと思う。

 その点、バスなら百キロだって余裕。

 周囲に建造物がないから、スピードを出しても怖くないんだよね。


 ただ、スピードを出し過ぎちゃうと、アルフレッドとキースを置いてけぼりにしちゃうから、彼らに合わせて時速四十キロくらいで走っている。

 ミラーに目をやると、後方を早駆けでついてくる馬が見える。

 砂埃がすごいので、必死にバスにくらいついて来ているのだろう。

 プププ。いい気味。





 春先にフィッツジェラルド公爵邸を出て、辺境の地へ辿り着くまでの行程を振り返ると、旅慣れない私と大量の荷物のせいで、一日の走行距離を随分抑えていたことが分かる。


 予想通り、最後の経由地だった町には一時間もしないで到着した。

 ここから先は人の往来があるので、荷馬車移動を装う。

 ふふふ。

 早速アレをやる時がきた!


 私がバスを停めてい運転席から降りたので、アルフレッドも馬を降りて近づいてきた。

 ええと。

 離れていてほしいんだけど。


 大声で注意する。


「アルフレッド! キースと一緒に遠くの方に離れていてちょうだい。ちょっとだけ魔法を使うから」

「は? 何をされるつもりです?」

「いいから! 大きな音がするかもしれないの。馬が驚いて逃げちゃうかもしれないわよ」

「俺の愛馬はそれくらいのことで動揺したりしませんけどね」

「いいから、バスから離れたところで待っていなさい!」


 例のやつが発動したのか、アルフレッドはシャキンと背筋を伸ばして、ハッとしたような顔で、「分かりました」と離れていった。




 さてさて。始めるとしますか。


「メイスン。あなたも早く降りてきなさい」

「は、はい」


 メイスンはバスを降りるとアルフレッドの方へ駆け寄って行った。

 何それ?

 やっと解放された人質じゃないんだから。

 ま、いっか。

 ではでは。


「おっほん!」


 ふう。いっくぞー‼︎


「トランスフォーーム!」


 私がバスにそう命じると、ガシャーン! ガシャーン! と、あっちやこっちに折れ曲がりながらバスが形を変えていった。

 キタキタキタキター‼︎


 あーら不思議。

 最終的には荷車を連結した荷馬車に大変身!

 タイヤはさすがにそのままだけど。



 ……あ。やっぱり馬が怯えたようにいなないている。

 駄馬じゃん。


「出来たわよー! こっちに来なさーい!」


 アルフレッドが手綱を引いているけど、馬は断固拒否して抗っている。

 襲ったりしないんだけどね。



 どうやら馬を連れて私の元に来るのは諦めたみたいで、キースに手綱を渡して、メイスンと二人でゆっくりと歩いて来る。



「ちんたら歩いてんじゃないわよ」

「お嬢。どこでそんな言葉遣いを覚えたんです?」


 おっと。いっけなーい。


「そりゃあ、あなたたちや平民と一緒に暮らしていれば、それなりに影響は受けるわよ」

「そういうものですかね」

「そういうものなの! それより、どう? これ! いいでしょう?」


 あの映画だと、もっと高速でもっとたくさん変形していたけど、見ていてちょっと気持ち悪くなったから、シンプルに変身できて私的には大満足。

 男子なら、「カッケー!」って気にいると思ったけど、そこは文化の下地がないせいかな。


「まったくお嬢の魔法には驚かされますね。フィッツジェラルド公爵がご存じだったなら、今もまだ王都のお屋敷で威張り散らしていられたかもしれませんね」

「は?」

「いやー、それにしても見事です。これなら怪しまれずに町中を走れますね。さあ、行きましょう」


 さりげなく誤魔化したな。

 まぁ、私も急ぐから今日のところは見逃してやるけど。


「じゃあ、馬車にしたんだから、どっちかの馬を繋いでちょうだい」

「え? 馬車を引かせる? 騎士の愛馬に馬車を……?」

「町を抜けるまでの話よ。もういいから、キースの馬を繋いで。キースをあなたの馬に乗せるか、それともこの馬車の荷台に乗せるかは任せるわ」


 プライドの高い馬って、馬車を引くのを嫌がるのかな?

 その時は、「私の言うことを聞けぇー!」って唱えればイケる?





 そうこうしているうちに、キースが二頭の馬を引きながらやって来た。

 アルフレッドは頭をポリポリかきながらキースに近づくと、私の指示を伝えたらしい。

 キースの顔がピクピク引き攣っている。

 そんなに嫌なんだ……。

 でも辺境の地に来た時から、もう王都の騎士のままではいられないことくらい受け入れなさいよね。



 


 結構待たされたけど、何とか言いくるめたみたい。

 アルフレッドが馬を馬車に繋いでくれた。


「メイスン。ここからはあなたが馬車を運転するのよ」

「あ、は、はい」

「できるのよね?」

「は、はい。できます」


「それで?」


 キースはどうするの? と、小首を傾げてアルフレッドに問いかけると、「荷台でいいそうです」と答えた。

 意外。上司に申し訳ないから自分が我慢することを選んだんだ。


「じゃあ、キース! 早く乗って。町へ入るわよ!」



 こうして、私たちは町の中へ入って行った。


   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆

   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆   ◆◆◆


【あとがき】

明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

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