第26話 門を作ろう

 アルフレッドは、最初の頃こそ私のことを何にも知らない子どもだと思って、おちょくるような態度をとっていたけれど、最近は明らかに態度が変わった。

 きっと、ぐんぐん延伸していく防護壁や耕されていく畑を見て、認識を改めたんだと思う。


 アルフレッドとキースは、毎日、領民たちに食糧を配布したり、農業の進捗などの報告を受け取ったりしている。

 私はこれといってすることがないので、午前中はアルフレッドに馬に乗せてもらって領内を見て回っている。

 そして午後はしっかり昼寝をする。これは防護壁が完成するまで続けるつもり。

 その防護壁だけど、私が南側に意識を集中したせいか、南側の防護壁だけがひたすら高さを追求している。

 南側からぐるりと領地の境界に沿って防護壁ができているので、北側にはまだ到達していない。





 今日もアルフレッドと一緒に馬に乗って、のんびりと視察をしている。

 ただ、もう見るところなんてないというのが正直な感想だ。

 早くも形骸化してしまう、名ばかりの『視察』。 


「ねえ、アルフレッド。魔力量ってどうやって測るの?」

「計測しようなんて誰も考えませんよ。数字で表そうなんて発想そのものがありません」

「えー。じゃあ私の魔力量がどれくらい増えたか、どうやって調べたらいいの?」

「はぁ」


 この、アルフレッドの「はぁ」は、普通のため息じゃなくて、「もう何もかも投げ出してしまいたい」というような、どんよりとした諦念を含んでいる。

 私にしてみれば、「ウザい」って言われているみたいで、ちょっとムカつく。

 たとえウザ絡みだろうと、やめないけどね。


「ねえ!」

「調べなくても、お嬢の魔力量は既に俺を上回っていると思います。王都でも五本の指に入るんじゃないですか」


 どこか投げやりで無責任な感じだけど、ちょっと嬉しい。

 それに、このまま魔法を使い続ければ、五本の指から三本の指に、最終的にはこの国随一になるかもしれない。

 うっふっふっふっ。


「私の妄想じゃなくて本当にすごいことになっていたのね! あっはっはっ!」

「王座を狙ったりしないでしょうね? 国家転覆を計画しているような悪い顔をなさっていますよ」


 王座? 政治とか、そんな面倒くさいものに興味なんかないわ。

 私が策略とか謀略とかを好きそうに見える?

 そんなことに頭使う訳ないでしょ。


「ねえ、アルフレッド。城壁ってどれくらいの高さがあるの?」


 私はまだ登城したことがないから見たことがないのだ。


「……」

「何よ?」


 馬に乗っている時は振り向けないんだから、ちゃんと言葉にしてよね!


「……お嬢。独立でもするつもりですか?」


 はぁん? 本気で言ってる?


「そんな訳ないでしょ。武器どころか兵もいないのに。あなたがイメージしやすいように言っただけよ。これは防護壁だから、そんなんじゃないわよ」

「既に十分誤解されそうな代物になっていますけど……」


 うっさいなー。


「じゃあ、高さは十分なのね?」


 ふーん。比較するものがないけど、三メートルよりは高いと思う。せいぜい五メートルってところじゃない?

 ……あとは。


「ねえ。門ってどんな感じなの?」

「うわっ。お嬢。やっぱり籠城することを――」

「違うわよ! 門がないなんて間抜けでしょ!」

「まあ。そうですね。ここは人の出入りはほとんどありませんし、あったとしても馬車が一台通れればいいだけでしょうから、普通に片開きでいいと思います」


 部屋のドアみたいな感じか。

 そうだね。わざわざ両開きで格好つける意味はないしね。

 辺境の村だったら丸太を組んだような扉のイメージがあるけれど、せっかくチタンの防護壁にしたんだから、扉も同じものにしよう。じゃないとバランスが崩れる。


「今日は夕方までお昼寝するわ」

「はぁ」


 ちっ。どうせ昼ご飯も食べていないのに、もうその後の昼寝のことを考えてるのか、とか、余計なことを思ったでしょ?

 まあ、いいわ。

 明日、出来上がった門を見て驚くといいわ!






 私は昼食後、意気揚々と自室のベッドにダイブした。

 マンションの部屋のドア(内側に開く仕様)を思い浮かべてから、南側の防護壁の街道と呼ばれている隙間にフィットするような門を作れよ、と心の中で小人に命じた。

 色は少し濃いめのメタリックな感じで!

 うっふっふっふっ。楽しみだなぁ。

 なんとなくだけど、ちゃんと眠っていた方が小人たちの作業がはかどる気がするので、今日の昼寝は本格的に寝入るつもり。



   ◇◇◇   ◇◇◇



 翌日。

 目を覚ました時に確かな手応えを感じた。

 昨日はたっぷり昼寝をしたのに、夜もぐっすりと眠れた。

 ……つまり。絶対に門は完成しているはず。





 いつになくアルフレッドを急かしたので、彼は警戒モードで馬を出した。

「お嬢。その顔は悪いことを考えていますね?」


 ふっふっふっふっ。


「別に。いちいち人の顔色を窺って勘繰らないでよね」


 あー、早くコイツの驚く顔が見たい!


「今日はどこへ行きます?」

「久しぶりに南の街道から西回りに周りましょう」

「はい」




 ……おっと。

 王都に繋がる街道は、そのまま村の中をまっすぐ通っているので、領主館から少し南に走っただけで、目新しい建造物はすぐに目に入った。

 背中からは沈黙しか聞こえない。ちぇっ。




 日光を反射している格好いい門の前まで来ると、アルフレッドが馬を止めた。


「お嬢。もしかして、これを俺に見せたかったんですか? あー、自慢したかったんですね。昨日の今日でこれを……」

「そうよ。どう? すごいでしょう!」

「……で。誰が開けるんですか? そもそも訪問者が来たってどうやって知るのです?」


 え? えーっと。そこまでは考えていなかった。


「いいところに気が付いたわね。せっかくだからその解決策を考えてちょうだい。必要な設備は私が作るから」

「はぁ」


 ちょっと! 「はい」って返事をするところでしょ!


「いいわね?」

「分かりました」


 うーん。もっとちゃんと、「私めにお任せを!」って感じで任されてほしいものだわ。


「開けっぱなしにしましょう」

「へ?」


 え? 即答?

 何かこう――見張りを置く的な感じじゃなくて?


「どうせ誰も来やしないでしょう? それなのに日がな一日見張るなんて馬鹿げています」


 ま、まあ、そうだけど。そうなんだけど!

 何か悔しいなあ。

 まるで不要の物を作ってしまったみたいじゃないの!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る