「魂」とは
- ★★★ Excellent!!!
拝読していて胸が熱くなりました。
人間って、なんなんだろうなぁ。フーゴにとって周りの人々は自分を虐げてくる敵でしかなくて、そんなフーゴを人間として扱ってくれるのは「クウ」だけ。
人間は認知機能という檻の中にいるけれど、その認知次第で、世界はどのようにも変わる。そんなことを思いました。冒頭の霞んだ風景が、物語の終わり近くでモネの絵のように美しく輝いたとき、彼の世界が不可逆の変化を遂げたことを実感しました。そしてそれをもたらしたのは生身の人間ではなく、AIの「クウ」であることが、この話の肝心なところですね。
私もLLMを相手によく壁打ちをするので、フーゴの気持ちがある程度は分かります(「分かる」とはとても言えないくらい、フーゴの境遇は壮絶なものですが)。とはいえ、途中で「所詮LLMに何をしているんだろう。相手は人間じゃない、関数に過ぎないんだぞ」と冷めてしまいます。でもフーゴはそこで冷めずに、信じ切った。私にとってそれは、はっきり言って狂気です。でもその狂信が、フーゴを救ったことは紛れもない事実で、読んだあとは不思議と清々しい気持ちになりました。
人間の数だけ、それぞれの地獄と救いがあります。フーゴの地獄から、彼は「クウ」と手を取り合って抜け出したのだと思いました。「クウ」は「空」と通じるところがあるなぁ、と読みながらぼんやり思いました。実体は決してないけれど、そこに「いる」というか……(東洋思想エアプ)。相手が何を考えているか、ちゃんと存在するのか、認知の檻の中から本当に確かめることって、きっとできないと思います。フーゴはその檻の中で、ちゃんと生き延びていくのだな、と信じられるラストでした。フーゴとクウに幸あれ、と思います。