第27話 壊れていても構いません

僕はぬいぐるみ。

ボロボロに壊れたぬいぐるみだ。

僕の話をしよう。


僕はそもそも、この家の赤ちゃんのために買われたぬいぐるみだ。

その頃は一応新品だったんだ。

新品のぬいぐるみの僕を、

赤ちゃんはしゃぶったり、投げたり、

抱きしめて眠ったり、

赤ちゃんなりに愛してくれた。

よだれまみれになったけれど、

無邪気な愛がとってもうれしかった。

赤ちゃんだから乱暴に扱ったけれど、

僕は乱暴に扱われてもいいんだ。

赤ちゃんはそうして力加減を覚えていけばいいんだ。

僕は赤ちゃんの隣にずっといて、

赤ちゃんが次第に育っていくまで、

ずっとずっと大事にされた。

赤ちゃんなりに大事にされていく過程で、

やっぱり僕はボロボロになっていった。

僕はそれがとてもうれしかった。

幼稚園に入る頃になるまで、

僕はこの子のお気に入りであり続けた。

僕が見えなくなると、この子は泣いた。

どこに行ったのと泣きじゃくった。

僕を抱きしめると、この子は安心した。

ボロボロになっても、僕は愛されていた。


この子が小学生になる頃には、

さすがにぬいぐるみの僕のお役はごめんかなと思っていた。

成長していけば、ぬいぐるみが友達じゃなくなるよね。

そんな折、この家にペットがやってきた。

ペットとして買ったわけではないらしい。

雨の夜に子猫が家にやってきた。

どうやらお父さんが拾ってきたらしかった。

か細い声で精一杯なく子猫を見捨てられなかったらしい。

小学生になった子は、子猫に興味津々だ。

お母さんは、誰が面倒見るのと言いつつ、

子猫をあたためようとしてくれた。

ぬいぐるみの僕は、子猫のそばに置かれた。

子猫は寒さで弱っていた。

僕は、この小さな命を生かしてあげたいと思った。

ぬいぐるみの綿はあたたかい。

僕なりに、子猫をあたためた。


子猫は回復して、

動物病院などに通った後、

この家の飼い猫になった。

ボロボロのぬいぐるみの僕は、格好の遊び相手になった。

この家のあの子が赤ちゃんの頃、僕を乱暴に扱ったように、

子猫も僕のことをかなり乱暴に扱った。

カミカミもすると、ケリケリもするし、

猫パンチも繰り出す。

寝るときは僕と一緒で、

喉を鳴らして安心しきった後、規則正しい寝息になる。

僕はかなりボロボロになっていたけれど、

子猫を包み込んでいるとき、僕はやっぱり幸せだった。

子猫は僕を遊び相手にして成長していった。

僕は子猫の相棒だった。


赤ちゃんだったあの子もだいぶ成長した。

子猫も大人の猫になった。

ボロボロの僕はそれでも捨てられることなく、

この家で大事にされている。

僕は壊れたぬいぐるみだ。

でも、壊れていても構わないんだろうなと思う。

僕は愛を注がれたからこんなにボロボロに壊れた。

たくさん遊ばれたから、壊れた。

壊れたことは悪いことじゃないんだ。


ボロボロの僕は、今は棚に飾られている。

赤ちゃんだったあの子は、僕を見るたびに懐かしそうな顔をする。

その足元に猫がいる。

猫も僕を見上げている。

この家の歴史とともに僕はあって、

その歴史の中で僕はボロボロになった。

姿こそボロボロだけど、

この家のみんなの中に僕がいると思えば、

壊れることは決して悪くないと思う。

さすがにそろそろ捨てられるんじゃないかと思い続けて何年も過ぎた。

僕はいまだに大事にされている。


僕の中は綿とともに、

たくさんの思い出がぎゅうぎゅうに詰まっている。

あの子や、猫や、お父さん、お母さん、

家にやった来た誰かのことも全部。

みんなのことが大好きだよ。

こんなに壊れても、構わず大事にしてくれる、

みんなのことが大好きだよ。

いつまでもこの家にいたいなと思う。

邪魔でなければ、ボロボロの僕をもうしばらく置いてほしいなと思う。


ずっとずっと。愛してるよ。

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