七海トモマルの実験的短編集

七海トモマル

第1話 過去は遠く、しかし近く

思えば遠くに来たもんだは、どこの誰のセリフだったんだろう。

映画だろうか、ドラマだろうか。

とにかく古いセリフのような気がするし、

その古いセリフが今の気持ちには合っているような気がする。

思えば本当に遠くに来た。


若くて未熟なばかりの学生時代、

早く大人になりたいという気持ちと、

ずっと子供でバカばかりしていたい気持ちが、

バランスをとれていなくて、暴走していたのを思い出す。

遠くに来た今現在からその頃をながめると、

本当に何やっているんだかと思うことばかりだ。

それでも、その頃バカやっていた仲間たちは、

自分も含めてキラキラしていた。

あの輝きが届かないほど遠くに来たなと思う。


幼い頃は早く大きくなりたかった。

大人になればできることが増えると信じていた。

大人は万能の象徴だった。

何でもできるし何でも知っている。

そんなものになりたいと思っていた。

小さな手を精一杯未来にのばして、

すべてをつかもうとしていた。

大人になれば何もかもが可能になると信じていた。

純粋に大人の可能性を信じていた頃から、

やはり遠くに来て、

大人はできないことが多いことを知った。


無邪気なあの頃から、遠くにやってきた。

ずるい大人になったと思う。

あの頃のように何もかもは信じられなくなった。

すべての可能性を信じられなくなった。

幼くて未熟だったあの頃の輝きは、本当に遠くになってしまって、

夜空の星よりも本当に小さい。


それでも。

キラキラ輝いていた思い出を思い出すたびに、

心は距離を飛び越えてあの頃に飛ぶ。

無茶をした未熟さや、

バカ話をした友人や、

帰り道に遊んだ友達が、

鮮やかな色彩と輝きを持って立ち現れる。

この輝きは美化されたものかもしれない。

過去が美しいものだと思い込んでいる故かもしれない。

それでも。

キラキラ輝いた季節は、思い出そうと思えばすぐ近くにある。

そして、輝く季節は過去ばかりではない。

あの頃から遠くにやってきたという、

今も輝かせることができるかもしれない。


あの頃のように無茶はできないけれど、

楽しいことはまだまだある。

人生まだまだ宵の口。

過去は遠く、しかし近く。

思い出の中でたくさんの笑顔が輝いている。

楽しい時間はまだまだこれからだ。

あの頃から遠くに来たここで、

思い出を抱えながら、笑おう。


きっとあの頃のみんなもどこかでキラキラ笑っている。

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