番外編 ifストーリーその4

 前回同様「ご都合主義全開」の話になるので本編では起こらないような状況をお楽しみください。




 「もちろんです。お任せください。ゆずさんの大切な場所を、私が責任を持って綺麗にさせていただきます」


 透子は力強く頷いた。柚月の配信部屋のドアを開け、その混沌とした光景を目の当たりにした透子の心は、プロとしての使命感と、一ファンとしての高揚感で満ち溢れていた。


 リビングに戻ると、透子は持参した大きな分別用のゴミ袋を何枚も広げた。燃えるゴミ、プラスチック、ペットボトル、缶、瓶……。種類ごとに色分けされた袋が、床にずらりと並ぶ。


「まずは、ゴミの分別から始めましょうか」


 透子がそう言うと、柚月は「はい!」と元気よく返事をした。先ほどまでの怯えや戸惑いは、もうどこにも見当たらない。むしろ、これから部屋が綺麗になることへの期待で、瞳を輝かせているようだ。


 再び配信部屋へ。足の踏み場を確保するため、まずは床に散乱している「完全にいらないであろう物」を捨てる作業から取り掛かった。


「ペットボトルはもう飲めない物ばかりだと思いますので全部捨てますね」


 透子が慣れた手つきでペットボトルを拾い上げ、中身を確認し、指定の袋に入れていく。柚月は、透子の手際の良さに感心したように見つめている。


「あ、これ、宅配で頼んだお弁当の容器ですね。もう完全に乾いて汚れ取れないと思うので可燃ごみで出します」


 次々とゴミが分別されていく。空のカップ麺の容器、菓子の袋、通販の梱包材……。ゴミ袋がみるみるうちに膨らんでいく。


 ゴミを捨てるだけでも、部屋の様子は少しずつ変わっていく。足の踏み場が、少しずつ、だが確かに見えてきた。


「あ! これ!」


 透子が床に落ちていた小さなポーチを拾い上げると、柚月が声を上げた。


「それ!探してた目薬とリップだ! どこに行ったかと思ってたのに、こんなところに……!」


 柚月は、透子からポーチを受け取ると、嬉しそうに中身を確認した。透子は、そんな柚月の姿に、思わず笑みがこぼれる。


「よかったですね、見つかって」


「はい! ありがとうございます、春野さん!」


 さらに分別を進めていると、ゴミの山の中から、未開封ののど飴の袋や、高級そうなチョコレート菓子の箱が出てきた。


「これは……まだ開けてないみたいですね」


 透子が手に取ると、柚月が覗き込む。


「あー、それ、前に美鈴からもらったやつだ。食べるタイミングなくて、そのままになっちゃった」


 透子は、賞味期限を確認する。


「……あ、残念。期限が切れてますね」


「えっ! ほんとだ! 勿体ない……」


 柚月は残念そうに肩を落とすが、透子は容赦なくそれらをゴミ袋へと投入する。


 そして、作業開始からおよそ三十分が経過した頃、透子の手が、床に埋もれていた何かに触れた。それは、丸みを帯びた、見慣れた形。


「……これは……もしかして」


 透子がそれを持ち上げると、埃まみれになったその物体は、やはり透子の予想通りだった。


「ルンバ、ですね」


 透子がそう言うと、柚月は目を丸くした。


「えっ! ルンバ!? ついに発掘されたの!」


「はい。リビングには見当たらなかったので、もしやと思っていましたが、配信部屋にいらっしゃるとは……」


 透子は苦笑しながら、ルンバの埃を軽く払う。


「 これ、あの配信で『ルンバがどこかに行っちゃった』って言ってたやつですよね!?」


 透子の言葉に、柚月が思い出したように声を上げ、二人は顔を見合わせて笑った。ルンバが、こんな場所から発見されるとは。まさに、柚月の生活の縮図のようだ。


 他にも、配信に使っていたであろう機材、なぜか部屋の隅に転がっていた謎の着ぐるみの一部(ミニサイズ)、そして、大量のエナジードリンクの空き缶……。一つ一つが発見されるたびに、柚月は「あー! これも!」「まさかこんなところに!」と声を上げ、透子はそれを淡々と、しかし内心では興奮しながら片付けていく。


 ゴミ袋は大量に消費され、部屋の隅に積み上げられた。床はまだベタつきや埃が残っているものの、足の踏み場は完全に確保された。もはや「汚部屋」というよりは、「カナリ散らかった部屋」へと進化?を遂げたと言えるだろう。


「ふぅ……これで、大まかなゴミは片付きましたね」


 透子が汗を拭いながら言うと、柚月は感動したように部屋を見回した。


「すごい……! こんなに綺麗になるなんて……! 春野さん、本当にすごいです!」


 柚月の心からの賞賛に、透子の胸は温かくなる。


「さて、次は、必要なものと不要なものの仕分けをしていきましょうか」


 透子がそう提案すると、ゆずは「はい!」と元気よく返事をした。


 散らばっていた物を一つ一つ手に取り、いるものといらないもの、そしてどこに置くべきかをゆずと相談しながら分類していく。


「これは……柚葉のぬいぐるみですね」


 透子が手に取ったのは、デフォルメされた柚葉のキャラクターがデザインされた、手のひらサイズのぬいぐるみだった。


「あ、はい! それ、生誕グッズの時のやつです!」


 柚月は少し照れたように言う。透子は、グッズを集めるタイプではないため、こうして実物を間近で見るのは新鮮だった。様々なポーズをとった柚葉のぬいぐるみ、衣装のアクリルキーホルダー、缶バッジ、イラスト集……。大量の柚葉グッズが次々と発掘されていく。


「これらは、一箇所にまとめましょうか。飾る場所は後で考えましょう」


 透子はそう提案し、空いた段ボール箱にそれらを丁寧にまとめていく。


 仕分け作業は、予想以上に時間がかかった。柚月の「これはいる」「いや、これはもういらないかも」「あ、これはちょっと迷う……」といった葛藤に付き合いながら、透子は黙々と作業を進める。


 気がつけば、家事代行の時間が残りわずかになっていた。


「ゆずさん、そろそろ時間ですので、今日はこのあたりで一区切りにしましょうか」


 透子が声をかけると、柚月はハッとしたように時計を見た。


「あ、もうこんな時間! すごい集中してました……!」


 部屋はまだ完璧とは言えないが、ゴミは全てなくなり、必要なものと不要なものが大まかに分けられた。特に、ゆずの精神的な負担が大きかったであろう「足の踏み場がない」状態は完全に解消された。


「今日はここまでで大丈夫です。残りは、また来週にしましょう」


「はい! 本当に、ありがとうございました、春野さん!」


 柚月の笑顔は、今日の朝とは比べ物にならないくらい、明るく、そして清々しいものだった。透子の心にも、達成感と、推しを支えられた喜びが満ち溢れていた。








 本編書いてたらご都合主義も書きたくなって、でも本編に入れると違和感や流れが切れるしと悩み、最終的には記念回と題して書き始めた番外編ですが、1話で終わる可能性もあり最初に1話完結で書かせていただきました。

 思ったより反響がよさそうだったのと本編の伸び具合から、続けていればちょっと長めの話もいけるのではとプロットを作ってあったのですが、思ったより早く達成していただいたので嬉しい悲鳴を上げながら書かせていただきました(笑)


 

 あとがきまで最後までお読みいただきありがとうございました。

 みなさまの☆とフォロー本当に力になっております。

 本編、番外編ともに今後もよろしくお願いいたします。

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