第三十一節 間もなく生ず
少女たちの
右手は聳える
青森県の原生林も水源が豊富だったけれど、この地の流れはなお苛烈だった。
絶壁に黒々とした洞窟に入る。壁にランプの光が散点する湾曲した石階段をくだっていった。
高い天井から垂れ下がる根の膨大は地にまで達して、壁や地から延びる根とも絡まりあって瀑布のように
位置は
森に生える無数の樹木の根や菌根と地下で結ばれた様は、かつての
「重役出勤ご苦労様。お肌に響かないことはありがたいけれど、疲労はするんだし、無理はしないことね」
目の前に立つ
「それは
黒いタイトスカートのスーツを着て白衣を羽織ってはいても、学生時代のままの姿がこちらに怜悧な視線を向けていた。
ともすれば教え子たちにも勘づかれたかなと思えて、
──
と、今は心身ともに混じり合った
地下宮殿で灯と優愛がひとつになったとき、小夜は
経歴上の必要から、教師としての赴任は教員免許を取得してからになったけれど、ほぼ同一人物だから職務の引き継ぎに支障はなかった。
有尾の
「分かってはいるけれど、興奮するじゃない。七世代、二百十年以上を掛けた計画が完成を目前にしているんですもの」
──それはそのとおり。
灯の中にも引き継がれた栽培者たちの
「そのためには、まだしばらくはこれを続けなきゃだめか」
「そうね。あまり心地良いものじゃないけれど、人殺しよりはマシでしょ」
「うん、そうだけど」
ふたりの見つめる先──。
根の瀑布の中に無数の裸童女が絡め取られていた。
地上にいた迦陵様たちより果実めいて見えるのは、皆腹部を大きく膨らませているから。
優愛の受動的反抗を契機とした十年前の破局を経て、童女果樹は人間そのものを肥料とすることはなくなった。進化がより適応的な道を探すように、新たな
「
小夜が産婦人科医のように冷静に告げる。
無数の裸童女たちの脚に水が流れていた。股の合間──ちいさな
膨らんだ無数の腹部が
第二次性徴も迎えていない
根に拘束された細くしなやかな四肢がひねられて大開脚が波打ちだす。サンゴのような群体を思わせる裸童女たちの
脳裏に焼きつく花火の妖しさは
目を
すぐに常温下に置かれたアイスクリームのように形を崩して、
これが変容の実態。
新たな迦陵様たちに
生徒たちを肥料とする犠牲の連鎖は断ち切られていた。
──それは、もう新たな栽培者が生まれないことも意味するんだよね。
有尾の裸童女の目論見が完結するときは近い。
──そのとき
来たるべき栄光と破局に思いを馳せると、いつも胸裏は妖しくざわめく。その不安を圧倒して湧き起こるのは、これから世界に現れることになる超人たち──進化した人類種が築くであろう楽土の安逸だ。
灯の、優愛の、それ以前の栽培者たちの生は、その実現のためにあったのだから。
満身に充ちる至福のなかで、灯は生まれ来る超人──
童女神の末裔 伏姫 円 @nekomimizukin
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