第三十節 新世紀の雛鳥
「先生──
甘い少女の声が意識の底を揺すぶった。
眠りに遊離した心が体に定位していく。
もう十年も前から変化を止めた体──十代なかばのままの
霞んだ視界に光芒が射して、幼い面立ちの少女の像を結ぶ。
ショートボブカットの黒髪、白ブラウスのセーラーカラー、チェック柄のミニスカートが葉音と共に風に揺れている。
「
「もうみんな
「あ、そうなの。もうそんな時間か」
女生徒──夏月
その姿が、かつての自分たちと懐かしく被って、
──ああ、いつの間にか逆転しちゃったんだ。
微笑ましいような苦いような、複雑な気持ちで見つめ返す。
「すぐに行くわ。欠席した子はいない?」
「だいじょぶでーす。こんな楽しいこと、熱が三十九度あったって休んだりしませんよ」
「いや、それはさすがに休んでもらうかな。無理やりにでも」
──若さの食い付きはすごいな。
立ち上がって、お尻に付いた草のかけらをはたいた。
「榊先生、お疲れですか。ぐっすり眠ってました」
「ん、そうかも。昨日もずっと研究所にいたからなぁ」
深い眠りの中で昔の記憶をたどっていた。
まだ学生だった頃──あの原生林の中で新しい肉体に生まれ変ったときのこと。
†
十年前──
それはなかば本当のこと。
そのときには、
もぬけのからになった学院棟に戻ったときには、前庭には山岳救助隊の仮設施設があり、消防団や警察官も入り交じった多数の人々が出入りをしていた。保護された灯たちは回復を待って事情を問われることになったのだ。
アナーヒター分室が襲撃されてから七日もの時が経っていた。
救助隊がどれだけ原生林に入り込んでも行方不明者は見つかりようもなく、灯たちが体験した神秘に遭遇することもなかったそうだ。
灯たち生存者は倶舎女学院東京校へ編入されて、青森県の山中から東京西部の山中へ生活圏を移動した。
しかし、終わってなどいなかったのだ。
目覚めたとき灯の手に握らされていた、ひとつの苗木があったのだから。
ちいさな童女果樹に思える姿は迦陵様を実らせる巨木に育ち上がるだろう。自ら産み出した
あの有尾の
†
「行きましょう」
水菜の柔らかな手に引かれて
俱舎女学院東京校の広大な私有地は山地の森の中。植生こそ針葉樹を主にするものになったとはいえ、渓流を持つ豊かな森は青森校があったブナの原生林と近しい。鍾乳洞が
道はすぐ円形広場に通じる。
車輪の
十年まえ灯がこの地に植えた苗木は、アナーヒター本社から提供された液体肥料の力もあって一年を待たず大きく伸びて、翌年の春には迦陵様を実らせだした。
新たな童女果樹は
すなわち──。
十代なかばの少女と十歳ほどの童女のペアが何組も連なって、幹を取り巻いて
俱舎女学院東京校の生徒たちと迦陵様たちの交わりだ。
童女の腰を背後からつかみ幼いお尻に
ひざまずかせた童女の幼い口に膣からの隆起を咥えさせている子。
草地に座り込み童女と正面から繋がり抱き合い舌を交している子。
四つん這いにした童女の幼いお尻にまたがって腰を使っている子。
脚を開いた童女の下にひざまずいて無垢な割れ目を貪っている子。
その性交を円滑にさせているのは生徒たちの膣から生え延びた陰茎──
子供の膣に突き入る肉棒が内性器に伝える快感に、生徒たちは
立ち止まり見つめていると──。
手を放した水菜がお股を押さえて尿意をこらえるようにしだす。
「ああ、もぅだめ、あたしの
しゃがみ込んだ灯は水菜の股間を見つめる。
「いいよ、開放して」
プリーツミニスカートをからげた水菜はパンツを穿かない下腹部をあらわにする。
医療レーザー脱毛を受けた
「ああ、出てくる、出ちゃう──あぅ!」
内部から押し広げられた
快感を求めて上下する
「ふふ、元気な子ね、もうこんなに暴れてる」
灯は右手を伸ばして隆起を握った。
「きゃあ、ひぅ」
水菜は喜びに
芯がありながら柔らかな感触を柔くしごくと充足の吐息が漏れ出した。
「ほら、犯してあげて」
手を放してお尻に触れる。
童女果樹の根元には、ひとりの迦陵様がこちらを向いて立っていた。
「
水菜は恋人と再会した実感を込めてそちらに歩んでいく。
──葉月、か。私たちの頃は名前なんてつけなかったな。
立ち上がって、抱き合う水菜と葉月を見つめる。
灯がこの地に植えた苗から実った迦陵様たちは、その美しさは変わらないまま固有性を生じさせていた。クローン個体のように単一な姿ではなく、個人を認識できる異なった容姿をしていたのだ。行動様式も、一体で複数の生徒を魅了する女王の形から、ひとりの生徒に所有される恋人の形に変化していた。
その変異は、童女果樹が
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