第十四節 虜たちの合流
「お、お邪魔してました」
──ああ、われながら間抜けすぎる。
軽く両手を上げて
冷たい目を向けた
「覗き魔さん、言い訳はあるかしら?」
「ワン!」
「人の言葉は?」
両
「ごめんなさい、立ち聞きする気はなかったの」
「まあ、そうでしょうね。
──さすがにそんな言い方しなくても。
むっとすると、
「
いきなり核心に切り込まれた。
──ああ、いつもそうだ。いつの間にかこの子は私を救いに来てくれる。お釈迦様の掌の上にいるみたい。
安堵で泣きそうになりながら経緯を語った。
「
復唱した小夜は考え込む。
「
──いい機会かも。
「玲様、あの振袖姿の女の子はなんなんですか。私、よく分からなくて」
「玲でいいわ。気を遣わないで。私もよく分からないの。アレは私が執行部に入って儀式に参加したとき、もう
表情に畏怖が
「アレは花かキノコのようなものよ。それが人の姿に擬態してるの」
「は?」
「自生地はここから少し奥に入った森の中。動くけど危害は加えてこないし、しばらくすると枯れてしまう。そういうものだったのよ」
「そんな新種の植物が」
「そう。ママの研究チームはアレも調べてるけど、なんでそうなってるのか分からないみたいね」
「東シナ海にあるワクワク島では、女の形をした実が木に
「それは空想のお話だよ。人型の根菜はときどき八百屋に並んでるけど、迦陵様ほどリアルじゃないし」
「アレが瀬戸先輩をさらってったのなら、生態を捉え直さないといけないかもね。
「だよね。そういえば小夜たちは出口を見つけられた?」
腕を組んだ小夜は首を横に振り、
「残念ながら正攻法では無理そうね。隠し通路がほかにもあれば別だけれど」
「そっか。これからどうしよう」
「祭壇に戻って
「マ!? あれはやめようよ」
「ほかに手がないなら、そこを調べるしかないと思うけど」
「玲様まで」
玲はこちらを
「灯、様はやめてって言ったでしょ」
「は、はい。あ、玲」
玲は、よろしい、という顔をする。
──威圧して言わされたんじゃ命令と一緒なんだけどなぁ。
ランセット窓から射す木漏れ日が空中の埃や真紅の絨毯を照らしていた。閉じ込められているのでなければ過ごしやすい場所だ。
灯が立ち止まると小夜と玲も倣う。
「ねえ小夜、あのふたつの扉の中はどんなだったの。ひとつは機械室だと思うけど」
礫と真理亜がブレーカーのスイッチを入れに行っていたのは、この右の裏袖廊。電気や空調を管理する部屋があるはずだ。
小夜がこちらを見て、
「ひとつは機械室、もうひとつは調理室ね。冷蔵庫もあったわよ」
「今それ言わなくても」
「あら、聞いたのは貴女じゃない?」
「そうだけどね」
──ちょっと無神経すぎじゃない?
小夜はしれっとしたものだ。
玲が不思議そうな顔で、
「冷蔵庫がどうかしたの」
「あ、いいえ」
──でも、話しておいたほうがいいかな?
「ねえ、
「よいんじゃないかしら。少しショッキングかもしれないけれど」
──いやあ、少しどころじゃないでしょ。
下手に知らせて恐慌させてはまずい。
──でも、理事長様の娘なんだから、有利な見解が得られそう。
覚悟を決めて、
「あの、玲。私たち、貴女に伝えておかなくちゃいけないことが」
重さに負けた木材がへし折れるような音が響いた。
大きくなっていく音に天井を仰ぐ。木製リブヴォールトが落ちてきた。
「うっわぁ~! 灯ちゃんたち! どいてどいてどいて~!」
小夜に右手をつかまれ、後ろに引かれる。
空気を痺れさせた振動を見やると、天井に乗った礫が下りてきていた。
一瞬前まで灯たちがいた場所に壮麗な木組み階段が出現していたのだ。
──うっそでしょ!? 隠し階段!
階段の先端にしゃがみ込んでいる礫がこちらを見上げ、
「あっぶなかった~。灯ちゃんたち、だいじょぶだった?」
「礫こそ、怪我はない?」
「うん、だいじょぶ。絶叫マシンみたいでどきどきしてるけど。でもすっごいよ、これ!」
「ちょっと礫ー、だいじょぶ!? 生きてる? 生きてるのー」
取り乱した
仰ぐと階段の上からこちらを
しゃがんだまま振り向いた礫は右手を振る。
「いえーい繭様、ボクは平気~。灯ちゃんたちとも合流だ~」
「ああ、よかったぁ」
繭は心底安堵したふうに
──あれ、これって。
危機のとき本性が出るのなら、繭の普段の振る舞いは虚勢。本来はただのいい人なのかもしれない。
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