第十二節 虜たちの消失
叫ぶこともできず、うずくまっていた。
退路は断たれた。
──
──
頼もしい姿を思い描けても、
──ああ、今、私は
もう隠し扉のことを知る人はいない。壁の裏に誰かが来ても仕掛けを発見できるかどうか。防音が完璧だったら
とどまっていては不利になるだけ。
──行くしかないんだよね。
意を決し、立ち上がる。照明が点いていたのは幸い。窓のない廊下に暗いまま閉じ込められていたら──そう考えると身が
右壁を見つめる。表袖廊には左右突き当たりの更衣室しかなかった。
──この裏がクローゼットの中あたりか。
右下にくだる無骨な石ブロック階段を覗き込む。眼下は明るんでいた。
──よかった、って言っていいのかな。
心を強くし、下りていこうとしたとき、
「っ、わっ!?」
足元で
「ちょっ、や」
スカートや舞い散らされるロングボブヘアを押さえていると、生暖かい風の流れはすぐに静まり、体の自由が戻ってくる。
湿り気には森の匂いが混じっていた。壁が崩れて外に通じた場所があるのかもしれない。
──行ってみよう!
狭く古めかしい石階段を右下に下り進む。突き当たると無骨な廊下が右に延びていた。表袖廊の真下にもう一本袖廊が通されている案配だ。
荒廃の中をゆっくり進んでいく。
足元に水音が跳ねる。
今にも崩れそうな石壁に穴や分岐路は見あたらない。けれど――。
──なにかの入り口!?
廊下なかばの左壁に
──怖ろしくたって脱出の手掛かりなんだ。
蛮勇を奮って歩み寄り、覗き込む。黒い鉄格子の両開き扉が
咆哮が噴き上がり、強風に包み込まれた。
「っ、あっ!」
──風はここから!?
流れが治まり、岩肌が露出した狭い開口部を凝視する。崩れ果てた石の急階段が闇に没していた。装飾と相まって
──無理だよ。これは無理。
勇気がしぼみ、腰が引けた。
──でもさ、こういうときは
棒を持ち、緩く押すと、
──嘘でしょ、動かないでよ!
耳ざわりな軋みを立てて鉄格子が動いていく。
──鍵なんてついてなかった? それとも誰かが出入りしてる? なんの目的で。
考えるほど危機感が触発され、
──なに!?
自らを抱いて一歩
地の底から足音がのぼってきた。
──いやっ!
恐怖に
水溜まりを跳ね散らかして進むと、
──行き止まり!? ううん、階段!
突き当たりの右壁に右上に向う石階段があった。
視界は揺れ、息はつまり、観察する余裕はない。
無我夢中で這いのぼると、空気が乾いていった。
──だめ、もう動けない。
早鐘のように打つ心臓を抱えて呼吸を繰り返していた。
うずくまったまま周りを見る。少し先が突き当たりになった短い廊下だ。
──戻ってきちゃったの?
錯覚しそうだったけれど、下りたのとは反対側に地下廊下を走り抜けたはず。
息が整うにつれ、冷静さが戻ってくる。
──逆側にも同じ隠し廊下があった?
もしそうなら、ここは右の裏袖廊突き当たりの壁の裏。
こちらにも灯りが
──追ってきてる?
立ち上がり、後ろを向く。階段を覗き込んで耳を澄ませた。何十秒か身を固くしていても迫る気配はない。
──気のせいだった。
力が抜け、体がよろめく。
「あっ、とと」
壁にしなだれ、息をついた。
支えを求め、壁から延びるランプロッドをつかむ。
掛けた重みで棒が九十度回転した。
「うわっ!?」
体勢を崩してぶら下がる。
ガチッと音が響き、背後に空気が流れた。
──えええ! 嘘でしょ! こっちだったの!?
振り向くと、突き当たりの壁の一部が開いてくる。
──やっぱり!
床の突起で隠し扉が
──ああもう、私の
解放の喜びに身を浸し、外へ出る。
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