第十節 虜たちの作戦
「なんだか、寒くなってこない?」
五分ほど経っただろうか──足元から這いのぼる冷気に脚を閉じる。
「ああ~、ブレーカーが落ちたとき、暖房が切れたんです。うかつでした、すぐにつけてきますね」
甘い匂いが右隣から離れ、右の裏
「暖房、効いてたんだ。思ったより文化的だったんだね」
左隣で眠っていた
「演出に呑まれていたからよ。マジックショーと一緒。幻惑には計算された意図がある。設計者が真理亜様かどうかは知らないけれどね」
「設計は理事長様」
小夜の左隣で
「理事長様があんなことを?」
永遠は小夜越しにこちらを見つめる。
「儀式にはマニュアルがある。私たちは、それに忠実にすることを義務付けられているだけ。面倒な話だけれど、便宜を図ってもらえるから」
小夜が永遠を見て、
「生徒会執行部特権ね。部の予算独占、任意生徒の退学、単位の免除までなんでもござれ。そのあまぁい蜜と引き換えに、理事長様はなにを得ているのかしら」
正面をぼんやり見据えた永遠が、
「私たちの命」
「そんな。いくらなんでも」
「
「もう! なんで見つからないのよ、信じられない!」
──これは不運続きかな?
左の裏袖廊から
そばまで来た礫に、
「鍵、見つからなかった?」
礫は両手で後ろ頭に触れる。
「うん。ぜ~んぜん。保管室の中、隅から隅まで捜したけど、ひとつの鍵もないの」
「こんなの悪質よ。紗綾のやつ、繭たちを閉じ込めて楽しんでるんだわ。繭たちがなにをしたっていうのよ。せっかく隷者に取り立ててやったのに」
「まあでも、仕方ないでしょ。鍵は見つからなかったんだから、ほかの方法で脱出するなり、外に連絡を取ることね」
「ほかってなにがあるのよ。のろしでも上げろってゆーの? こんなとこで燃やしたら全員こんがりよ! この繭様に自殺しろとゆーの!」
「さすがにそんなことしろとは言わないけどぉ」
──あれ、思ったより深刻なのかも。
なんらかの悪意の関与があるなら救助も来ないかもしれないのだ。
「みんな~、大変です。エアコンが壊れていました~」
右の列柱のほうから真理亜の声が響いてきた。
とりあえず服を着ることで皆の意見は一致した。
六月下旬でも山中の気候は肌寒く、石造りの礼拝堂も冷気を
紗綾の姿は見えないまま。隠れている気配もない。再び祭壇を取り囲んだ七人を照らす八つの
繭が全員を見まわす。
「で、どうするの」
「合理的にやりましょう」
小夜が答えだす。
「まずは建物全体の造りを知ることです。何階建てで、何室あるのか。老朽化した建物ですから、
「賛成」
玲が応じる。
「ボクもそれでい~よ」
「面倒だけど仕方ないわね」
「了解」
礫、繭、永遠にも異存はない。
「がんばりましょうね」
「はい」
灯は真理亜に頷いた。
小夜がそちらを見る。
「加えて執行部の方に確認しておきたいことがあります」
「なにかしら」
「祝宴の終了は何時と見込まれていましたか」
「そうね、長くても三時間。午前中には終わる予定だったけれど」
「学院にも申告していますね」
「ええ。スケジュールを組まれているのは理事長様ですから」
「でしたら、午後になっても私たちが寮に帰らなければ人が来ますね」
「あっ、そういうことになるんだ」
「お~、小夜ちゃん、あったまい~。脱出不可能でも、待ってれば助けが来るね」
「でも、このいたずらが学院の
「企み、とは?」
「
「ご令嬢の玲様がいるにもかかわらず、ですか」
「ママは研究のためなら娘の命なんて気にしないもの。まあ、これがなんの研究なのか見当がつかないってのはあるけど」
──なんの話をしているの?
「いずれにしても行動が重要です。てっとり
小夜と玲が一階右側、灯と真理亜が一階左側、礫、繭、永遠が二階の探索を任せられ、一同は散会した。
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