第七節 童女のヒトガタに神は宿る
腕を組んで正面に立つ少女──
「遅かったですね、
なげやりな声だ。
「ごめんなさい。お寝坊しちゃって、
「別にいいですけれど。こんなよく分からない儀式、早く終わらせたいの。おふたりとも祭壇に燭台を置いてください」
「はぁい」
「あ、はい」
段を上がり、
燭台を置き、気づく。
壁の十字架の下に置かれた椅子に十歳ほどの童女が坐っていた。
フードをはずし、
「この子は」
「この子が
「でも、この子は生きて」
真理亜もフードをはずす。
「すごいでしょう。女の子のように見えますけど、人ではないんです」
「そんなこと」
人形だとしたら誇張と省略がなさすぎる。
──産毛まで生えているみたい。
今にも目を開いて「驚いた?」と微笑むはず。
歩み寄ってしゃがみ込み、ちいさな口元に
「息をしてない」
微動もしない体には気配がない。
幼い頃にしか現れない愛らしい
可憐な唇を奪いたくて、頬に手を伸ばすと、
「ほら、いつまでこの
甘ったるい
立ち上がり後ろを向くと、腰に両手を当てた少女が祭壇の前に立っていた。
長い黒髪をツインテールに結わえ、童顔を得意げにさせている。中学生みたいに小柄だから、羽織ったマントもだぶついていた。
生徒会執行部書記──二年生の
「すいません。迦陵様が良くできすぎていて、つい」
「ふん、アンタも
「まあ、まあ、まあ、まあ、繭ちゃん」
「なによっ! ひゃあん!」
真後ろに立った真理亜が繭の両乳房をつかみ込んでいた。
「そんなにイライラしちゃだーめ。繭ちゃんのおっぱいはこんなに大きいんだから、心も大きく持たなきゃね」
──ああ、そこ揉んじゃうんだ。うらやま。
繭は小柄な童顔に反してⅠカップはある
小夜のささやかな胸を触らせてもらったときも、衣服の上から乳首を探り当てただけで「
──うわっ、すごすぎ。
美爆乳を揉みしだく真理亜は、繭の
「あぅん! 変なとこ噛むなぁ、ばかぁ!」
──あの繭様をよく手玉に取れるなぁ。
「もう、真理亜、やめてったらぁ! ちょっと礫、アンタもあたしの
──ん? ひょっとして感じてる?
軽やかにやってきた礫が繭を見つめる。
「う~ん、ホントに助けてい~の?」
「な、なによ、ど~いうことよ、あたしが助けて欲しくないってゆ~の!」
「うん。だってボクとふたりのとき、早く
「ば、ばかぁ。確かに繭はそー言ったけど、見れば分かるでしょ。劣勢なの、負けそうなの、
「もう茶番はやめてもらえる?」
玲の声を受け、真理亜は繭を放す。
「ごめんなさい。繭ちゃんがあんまりにも灯ちゃんに突っかかるから、つい。ふふふ」
呪うようなウィスパーボイスに繭は「ひっ」っと身を
──あれ、ちょっと危険な感じ?
段差の下まで来た玲が組んだ腕で
「これから気絶するくらい
玲は気怠げに真理亜を見つめる。
「
「はぁい。刻限も迫っていますし、頃合いですね。皆さん集まってください」
真理亜の声は晴れやかさを取り戻していた。
八人は八つの
真理亜、小夜、玲、礫、繭──左手側にめぐらせていった視線を繭の隣──唯一の知らない子の前で止める。
綺麗な顔と体に気弱さを
──でも、永遠様に似ているかも。
右隣を横目にする。
前髪の下で愁いを湛える瞳が見えた。
三年生の永遠は人形を思わせる美少女だ。お嬢様然としていても真理亜とは正反対に影がある。口数も少なく、考えを推し量れない人だった。美術部に所属して、生徒をモデルにした人物画を描いているそうだから、隷者の子もそれで
輪になった一同を真理亜が見渡す。
「本日はよくお集まりいただきました。今月の迦陵の祝宴は、
──お祈りって?
「
真理亜は讃美歌のように詠じだす。
六人も復唱しだしたから、あわてて倣った。
「
真理亜の声に皆が続ける。
どうにか唱えられても、おぼつかない。
──こんなの、小夜や礫は
見やると、得意げな礫や、ウインクをよこす小夜と目が合った。
──あわててるの私だけ?
「
吹き抜けに朗唱と復唱が反響する。
「
──あれ? この意味ってマズいんじゃ。
「我が身、
音色の心地よさに
──私の体、淫らに整ってなんかないのにな。
眠りに落ちそうな気分を青い匂いがくすぐる。
柑橘類めいていても嗅いだことがないものだった。
好みとは遠いのに、心はすぐに支配されていく。
──どうして? なんだか気持ちいい。
涼やかな大気の中にいるように体が軽い。
「迦陵様はお答えになられました」
真理亜は確信を得たようだった。
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