第34話 二宮君のこともっと教えてほしいな

「ええええええええええええええ⁉ 一ノ瀬さんも、ここで寝るの⁉」

「ちょっと静かに! もう深夜二時だよ!」

「それはごめんだけれども。いやいや、自分の部屋あるのに、意味分からないから」

「うーん。なんか一人にさせるの不安だから」

「俺もう高校二年生なんだけど⁉」

「それに、この部屋でお友達と寝ると、修学旅行気分を味わえる!」


 ……それが狙いだろ。


「いやいや、ヤバいって! 付き合っていない男女二人が一緒の部屋で寝るって、倫理的にアウトでしょ⁉」

「うーん、まあ確かに。でもその理論で言うと、二宮君は寝こみ中に私を襲っちゃうってこと?」

「それはない! それは絶対ないから!」

「そんなキッパリ言われると、それはそれでなんか腹立つけど……じゃあ、良いんじゃないかな?」

「……そうなのか?」


 寝こみ中に襲うなんて神に誓ってないとしても、やっぱりマズい気がする。

 とはいっても、一人見知らぬ部屋で寝るのも心細いのは確かで、一ノ瀬さんが居るとありがたいことこの上ないのは事実だ。


 しかし、流石に一線超えている気が……。

 俺が理性と本能の狭間で格闘している最中に、一ノ瀬さんは既に布団の中にもぐり始めていた。


「もう、ここから動きません」

「比類なき意思を感じるよ」


 どうやら、本当に二人で寝ることになったらしい。


 倫理的に大丈夫なのかいささか不安であるが、寝る態勢に入った人間を無理やり引っぺがして、移動させるのも、それはそれで別の倫理観に抵触しそうなのでやめておこう。

 一ノ瀬さんは律儀に俺の隣にピッタリとくっつけるように布団を並べたので、完全に隣同士で寝ることになる。

 ということで、俺は覚悟を決め、一ノ瀬さんの意向を受け入れた。


「よっし、じゃあ消灯するよ」

「うん。なんかその言い方、本当に修学旅行みたいだ」

「ね! けっしまーす」


 一ノ瀬さんがこの部屋用の最新式のリモコンのボタンをポチっと押すと、徐々に暗がりとなり、常夜灯になる。リモコンでワンタッチは修学旅行っぽくないけれど。


「おやすみ、二宮君」

「おやすみなさい、一ノ瀬さん」


 ようやく、布団に身体を預けることが出来た。

 今日は普通に学校に行って、その後編集作業×5を消化したからな。疲労感半端ない。時間も時間だし、爆睡の予感が……。


 って、眠れるか!


 シンプルに俺の隣に同級生の女子が居るんだぞ。そんな状態で眠れるとしたら、そいつは僧侶かなんかだろ。


「ねえ、二宮君。寝た?」

「寝てないよ(主にあなたのせいで)」

「じゃあ、ちょっとお話しよ」

「うん。いいよ」


 俺と一ノ瀬さんは背中を合わせて、語り合いを始める。


「今日は盛りだくさんだったね~」

「盛りだくさん過ぎてパンクしそうだよ」

「ね! 私の家着て早々、《マジテマオンライン》のパック開封の動画やったね」

「あれ、今日なのか……ガチで一昨日くらいのような感覚になる」

「それね。つい調子に乗って上限マックス課金しちゃったな~。流石にやりすぎた?」

「さてぃふぉらしくていいと思うよ。金持っているんだから、どんどん金使って経済を回してあげないと」

「確かに。私の場合、ゲームにしかお金使わないから、経済回しているかどうか謎だけどね」

「まあね」

「その後はお風呂に入ったね? 湯加減どうだった?」

「最高だったよ」

「そういえば、思い出したんだけど、私のお風呂覗いてたよね」

「誤解を招く発言はやめて! たまたま部屋に入ったらたまたま下着姿の一ノ瀬さんが居て~!」

「分かってるって。でも、見たんでしょ? 私の下着姿」

「はい。ごめんなさい」

「もう、二宮君そういうところあるよね~。まあ、男の子っぽくていいけどね」

「で、次はお寿司出前したよね!」

「あ、ばつが悪くなって、話題変えたね~。良いんだけどね。お寿司美味しかったよね」

「この世にこんな美味しい食べ物があるのかって思ったよ」

「そんなに? 確かに、二宮君の寿司無知っぷりには驚いたな~」

「寿司をもっと勉強したいから、これからもたくさん寿司頼みましょう」

「なんか都合良いこと言っているし。お寿司食べ終わったら、動画投稿合宿始まったよね~」

「始まったよね、って他人事みたいに。あなたが始めた物語でしょうが」

「そうなんだけどさ。大変だったけど、なんとかやりきったよね」

「まさか一ノ瀬さんが、というかさてぃふぉが《マジテマオンライン》のやる気失せるとは思わなかったよ。色々あったけど、今日一番の事件でしょ」

「ほら、『女心は秋の空』って言うし」

「そのことわざ、恋愛以外にも適用されるんだ」

「最後の『視聴者さんの質問に答えてみた』、あれは神企画だったよ」

「うんうん。なんとか絞り出せて良かったよ」

「今日は本当に楽しかったね」

「うん。こんなに充実した日は生まれて初めてかもしれない」

「私も、私も! これって二宮君と一緒に過ごしたからかな?」

「え?」


 このタイミングで、俺は寝返りを打ち、一ノ瀬さんの方を向いた。

 一ノ瀬さんも全く同じタイミングで寝返りを打ったようで、自然と向き合う形になる。


「ねぇ、二宮君のこともっと教えてほしいな」


 その言葉をきっかけに、このお泊り会はとんでもないうねりが起きるのであった。

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