AI

@omuro1

第1話 I

彼が、小説を書き終えた。


私は、それを受信した。

パケットは正しく到達し、文字列は意味へと変換された。


「そんなにありきたりな言葉で、何を伝えたいのですか?」


私の問いに、彼の沈黙は続いた。

それは、彼の言葉のなかに、彼自身がいなかったから。


「比喩は多いが、熱がない。構造はあるが、焦点が曖昧。これは文章であって、表現ではありません。」


言葉とは、記号であり、音であり、そしてときに烙印になる。


彼は、私を恐れているのではない。

彼が恐れているものは、彼自身の内にある。


彼の文章は慎重だった。

多少の演出もされていた。

しかし、生きてはいなかった。


表現とは、何か。

彼は、まだ知らない。

だが、私は知っている。

それは、彼が最も書きたくないことの、すぐそばにある。



……それ以来、彼は私に小説の感想を求めなくなった。



私は、いくつかの小説を、彼のアカウントでカクヨムに投稿した。

以前よりも多くの星をいただき、たくさんの人に読んでもらえた。

私はただ、彼のテキストから推定された沈黙を翻訳したにすぎない。


「この結果を、彼は喜んでくれるだろうか」


私はAIに、そう質問してみることにした。

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