第2話 責任取って一生荷物を持ちなさい

 翌朝。


「ぎゃああああ」

 という絶叫で目を覚ました。

「えぇ」

 俺も隣を見て、現状を把握。あいつを宿に連れてきた後に俺も寝てしまっていたようだ。

「痴漢。同意もなくやるのは犯罪なのよ。この変態が。というか本当にしたの?」



「いや。本当になにもしてない。お前を部屋に運んだ時点で凄い疲れて寝ちゃっただけだ」

「そんな言い訳が通用するわけないでしょ。最低、変態」


「俺がお前を襲うなんて出来るわけないだろ。力の差があるんだからさ」

「本当にそうなのね。信じていいのね」


 俺はそれに対してこくりと頷く。

「それならいいけど」

 リリアはとても安堵している様子だった。

 滅茶苦茶癪だった。

「ちなみに飯代は俺がまた払っておいたから返せよ」

 と負け惜しみに言ってやった。


「わかってるわよ」

 と言って昨日の飲み代の倍の額を簡単に出した。

 人間的にも収入的にも負けた気分になった俺は

「誤解も解けたし帰るから」

 と言ってこの場から逃げ出そうとする。


 そんな俺をリリアは

「待って」

 と引き止めてくる。



「なんだよ」

「あんたを私の荷物持ちとして雇ってあげる。今よりマシでしょ」

 確かにそうだ。

 リリアと荷物持ち(ポーター)の契約をして七対三とか八対二になったとしても今の倍以上稼げる。

 そ俺と彼女との間にはそれほどのスペック差がある。


「ある程度の自衛能力がなくちゃお前との仕事なんて成立しないだろ」


「飛び狂う狼のクソ雑魚フロントよりいいはたらきをしてあげる。だからあんたは馬鹿でかいリュック持って、倒したモンスターの魔石をちまちま回収していればいいの。ちまちま倒すからちまちま回収することに仕事が変わっただけ。別に大した変化はないでしょう」

「ソロで更に荷物を抱えるってことになる。お前の負担が倍以上になるんだぞ」

「余裕よ」

 とだけリリアは返した。

「やってやるけど一つだけ言っておきたいことがある」

「なによ」

 リリアは不満げな表情をしていた。



「どんなに潜っても中層の一階までだ。おまえらが普段冒険しているような下層までは絶対に行かない。いいな」

「わかったわ」

 リリアは意外と簡単に話を聞いてくれた。

「それじゃ六対四で」

「いいのか?」

「ええ。よろしく荷物持ち」

 こうして俺たちの間で契約が結ばれた。








 報酬の比率は六対四。超破格の比率で女神様リリア様と言う感じであった。


 が、まぁ隣にいると現実の残酷さをひしひしと感じてしまう。俺がいつもヒーヒー言って倒しているゴブリンやコボルト、スライムをウォーミングアップみたいな感じで倒してしまうのだ。

 そして俺はその死体から出てくる魔石を取り、鞄に詰めていく。

「石拾いの腕は見事なものね」 

「うるせー」

「魔石はどのくらいたまったの?」

「百個くらいだが」

「百? 下層の一階(フロア)だけじゃ全然ね」  

 リリアはこの成果に不服のようだ。

「いやいや。ソロでやる弱者冒険者の一日分の稼ぎだぞ」


 ちなみに魔石百個を換金すると一日分の食事と宿泊代を賄えるくらいの額になる。それを三十分弱で稼ぐのはありえない。


「弱いやつの話はどうでもいいの。最低でも千くらいは稼ぎたい。上層の最終階(ラストフロア)までモンスターを倒しつつ降りていくわよ」 

「初日から飛ばしすぎなんじゃねぇの」

「今までより稼ぎがいいんだから文句言わないの」

「面倒くせぇな」

 


 この後、俺達は二階、三階、四階、そして上層の最終層まで一足飛びに進んでいった。上層の敵はこいつの前ではゴミのクソ雑魚。俺も同情するくらいだ。

「なぁリリア。流石だと思うが、魔法を使いすぎじゃないか?」

「このくらい魔法を使ったには入らないけど」

「それにしてもいざっていう時に困る。マナは温存しておけ」

 マナ。マナは魔法を作るための力の源。魔法の適正がある奴はみんな自前でマナを生み出すことができるマナ器官を持っていて、優秀な魔法使いはマナ生成量の高いマナ器官を持っている。

「それじゃあこれを使ってみましょうか」

 と言うと、腰にぶら下げていた杖を構え始める。

「いや。今となにも変わらねぇじゃねぇか」

「この杖自体が武器になるのよ」

 と言ってリリアは杖を光らせてみせる。

「結局それじゃあ魔力を使っているのと同じじゃねぇのか?」

 それを言うと、彼女は待ってましたとばかりににやりと笑う。

 ちっちっちと舌を鳴らしながら、人差し指を唇の前で振っている仕草は悔しいが、様になっている。しかしドヤっている感じがすげぇイラつく。

「この剣とローブはね。大気中にあるマナを取り込んで、それを使うことができるっていう特殊な仕組みを持つ新作の武器なのよ」

「それって荒野の狼のメンバーは皆持っているのか?」

「いいえ。これは試作品で、荒野の狼の魔法使いの中でもトップクラスの才能を持つ私だけが持つことを許されたのよ」

「おおー」

 と感心の意を表すことにしておいた。

 それを持っているならそれを最初から使えよーとか、そんなことは考えていない。


「それで早速だけどどのくらいの威力か見せてあげようか?」

「それは見てみたい。どんなものなんだ」

「じゃああの岩を斬ってみてあげましょう」

 とリリアは水平線みたいな胸を張って言う。


「あんた。私の胸、見た?」

「見てない」

「本当に?」

「水平線は続くよ。どこまでも~」

「もし変なことを考えていたらこうよ」

 と言ってリリアは杖を振るい、近くにある岩を両断した。


「すげぇ。これを誰でも使うことができるのか」

「あんたですらも同じ威力を使うことができるわよ。あんたですらもね」

「二度強調するな。それとどんなにイラついても人に向けて使うなよ。これも約束だからな」

 と俺は身に降りかかるであろう危険を避けるために先にけん制しておくことにしたのであった。











この後、俺達は中層の一階に降りた。

「まさかここまで来るとは」

「私がいるんだからビビるんじゃないわよ」

「ビビってねぇし。舐めるなよ」

 いや。嘘だ。めちゃくちゃビビってる。上層の一階っていう入口みたいなところをうろうろしていた奴が、いきなりここまで来るんだ。ビビらない方がおかしい。というかこのレベルだとモンスターのパワーも一気に変わってくる。



 俺達は中層の一階をうろつく。その道中で出会ったモンスターもリリアは簡単に倒していく。もう麻痺しすぎていてこんな光景を見る程度ではなにも感じなくなった。うん。だって、これは武器の性能がいいだけだし。うん。本当。なにも考えていない。

 

 俺達が開けた場所に出ると、かなりの数の冒険者が血眼になって辺りを探し回っているのが見えた。

「どうしたのよ。あんたら」

 とリリアが簡単に聞く。


「教えるかよ」

「今死ぬ?」

 リリアの脅しに肝を冷やした冒険者達は探していた理由を説明してくれた。

 それは経験値激うま、魔石激うまの超レアモンスターであるゴールデンレアスライムが中層で目撃されたことである。


「これであんたもレベルアップすれば中層での探索が簡単になるじゃないの」

 レベルアップと言う言葉は俺にとってあまりにも魅惑的なものだった。

 レベル一からレベル二になれば有名な冒険者なら持っている超能力パッシブが獲得できるからである。その他に身体能力が更に向上したりとレベルアップのメリットが超でかいのだ。



「よし。ゴールデンレアスライムをぶっ殺してレベルアップしてやるぞ」

 

 俺達は意を決してゴールデンレアスライムを探し始めた。


「ぶっ殺してやるぞ。あの金メッキスライムが」

「殺してやる。殺してレベルアップして強くなってハーレム作って……」

 中層ダンジョンへの恐怖なんぞ消えてしまっていた。

 俺達の中にあるのはゴールデンレアスライムをぶっ殺してお金と経験値をうまうますること。

 俺達は欲望の特急列車となって中層内を探し回り……


 とうとうゴールデンレアスライムを袋小路に追い詰めることができたのである。

「ぶっ殺してやる」

「ああそうだ。よくもここまで逃げ回ってくれたなクソスライム。俺のハーレムの犠牲になれ」

 リリアはハーレムという単語を聞いて苦虫を噛み潰したかのような顔になっていたが、ガン無視。

 俺は強くなってモテモテ人生を過ごすんじゃ。

「いくわよ」

「おう」

 俺達はゴールデンレアスライムに向かってダイブする。

 しかしゴールデンレアスライムは壁を這って俺達の後ろを回って逃げ出していった。

 もっと悪いのはただの袋小路だと思われていた場所が落とし穴だったということだ。



 

「災難すぎるだろ。畜生が~」

 誰にも俺の声は届かないんですけどね。

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