第1話 アパートの住人達①

「皆さんから集めたお花代が余ったから……“喫茶白樺”で明美さんを囲んだ茶話会をしようと思うの。美穂子さん、お手伝い下さる?」


「いつもの様に女子だけですか?」


「ええ、勿論!」


「では、兄に電話します。遅くなると心配するので……」


「そっか、美穂子さんはお兄様と二人暮らしなのよね」


「ええ……」と頷きながら美穂子はデスクに置かれた黒電話の受話器を取り、ダイアルを回す。


 一方、こちらはアパートの廊下。

 台の上のピンクの公衆電話が鳴ると104号室のドアが開いて、背広姿の若いサラリーマンが電話を取る。


「はい、寿荘です」


『105号室の今木いまきですが……』


「ああ、104号室の嶋本です。お兄さんですか? ちょっと待ってて下さい」

 と受話器を置き、嶋本は105号室をノックするが返事が無い。


「まだ、お戻りでは無いようですよ」


『そうですか……』


「なにか伝言がおありですか?黒板に書いておきますよ」


『では……終業後、女子だけの茶話会があって、遅くなると……』


「分かりました」



 電話を切った美穂子は薄くため息をつく。


勝二かつじさんは誤解したりしないかしら……」


 そう、実は美穂子が一緒に住んでいるのは兄では無く、高校二年から付き合い始めた恋人の佐野勝二だ。


 二人はクラスメイト同士だったのが恋に落ち……東京の大学へ進学した勝二に合わせて美穂子も東京の会社へ就職した。

 勿論、初めのうちは二人別々に暮らしていたのだが、勝二が大学はおろかバイトへも行かない“フォーク”三昧で、挙句の果てにアパートの家賃が払えず美穂子の所へ転がり込んで来た。

 そんな勝二の事をアパートの住人には「兄の住んでいたアパートが火事で焼き出されて」と美穂子は説明していた。

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