第2話 弓弦葉の一族

 弓弦葉家とは代々術師として栄えてきた一族である。妖祓いを生業として、日々術の腕を磨き、根ざす土地を守る。危険も多いがなくてはならない役割でもある。


 志月が生まれたのは、その術師一族の中でも妖に対する穏健派の弓弦葉一族本家である。


 * * *


 いい匂いのこぼれる食卓に、徐々に朝餉の準備が整っていく。先程何やら2人で話しをしに行っていた父と兄も食卓に現れ家族がそろう。


 父がおもむろに声をかけた

「皆、知っていると思うが、今日は弓弦葉一族の分家も含め周辺の術師一族の会合がある。多くの客人が来るため無礼がないように。特に志月、よく考えて行動すること」


 父の話にムッとした顔で志月が返す

「分かってるよ。もう!子供じゃないのに」


「そうやって、父様に文句をいっている内は子供なんじゃないかしら」


 姉の言葉にますます不機嫌そうな顔をする志月。

しかし思うところがあるのか、言い負かされる事が分かっているのか、姉には言い返さずにご飯をかき込んでいく。


「おいおい志月、喉に詰まるぞ。咲月も程々にな」


 苦笑しながら兄が声をかけた


「もう!兄様は志月に甘いんだから!」


 悠月は再度苦笑しながらも

 甘いのはお前のほうだろう。なんだかんだ言って、志月の世話を焼いているの知っているんだからな。

 と思いつつ口に出さないあたりに、悠月の懸命さがあった。


* * *


 温かな日差しが差し込むお昼頃。

 ガヤガヤと人の声が増えて会合の客人たちが集まってきた様だ。


 志月にとって会合には、あまり良い記憶がない。

 なぜなら……


「弓弦葉本家の次女様はまだ、霊力操作が満足に出来ないとか」


「じゃじゃ馬っぷりは、年々研きがかかっているみたいだがね」


「幼い頃は霊力にも恵まれているため大層期待していたが、あれではどうにもなるまい」


「上のご兄弟お二人はあれほど優秀なのにねぇ。操作も満足に出来ない上、霊力も高いとくれば……暴走なんてしないといいわよねぇ……」


 ガヤガヤとざわめく声の中、明らかにこちらを意識した視線と言葉が混じる。


 今日も近隣の妖について情報交換する声に

 志月を貶める声が混じるのだ。


志月は目を伏せる。

 「……知ってる。」

 兄や姉が優秀な術師で弓弦葉の誉れだって事も、自分が期待外れだって事も、ずっと前から知ってる。


志月の表情は伺えなかった




* * *


 どうせ家にいても嫌な話ばかり気になってしまうのである。時間の無駄だし、鍛錬でもしていた方がマシであると、志月は修行道具をもって駆け出しながら、見かけた兄に声をかける。


「兄さん!お山の方の修行場いってくる!」


「えっ…今日は会合だって朝父上が言ってただろ!?流石に不味いだろう」  


 すました顔で志月は

「構わないでしょ。兄さんたちが入ればお客様の対応は出来るし。考えなしの妹はお山でおとなしくしておきます。」


 そう言い残すと軽やかに家の外へ駆け出した。


「まったく、その行動が考えなしだろう。後で父上へ怒られても知らないからな」


 困った様な表情をしつつ、会合の客が志月に対して失礼な発言をする事を知っている悠月は、そっと呟くのみで本気では止める気はないのであった。




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【術師のつまづき帳】 


第一幕 志月、姉と修行をする  


(志月八歳)


姉「いい、志月。結界は結界用の印に霊力を流して行う術よ。印に流す霊力によって結界の強度や範囲が決まるの。わかった? 」


志月「わかった!」


姉「まずは印を空中に書く練習ね。霊力を流さなくていから印の形を空中に書いてみて!」


練習中………


姉「志月うまいじゃない!志月は結界の才能があるのかも!さぁそれじゃ霊力を流して印を書いてみましょう。まずは的を囲むように結界を張ってみるわよ」


 的に向けて印を書く 爆発

 的に向けて印を書く 爆発

 的に向けて印を書く 的爆散


姉「」


志月「あれ?爆発の印だっけ?」


姉「いい、志月。あなたは、けして人に向けて結界を張ったらだめよ」


(志月は首をかしげながら )


志月「はーい!」


 * * *


第二幕 志月、兄と修行をする


(志月十歳)


兄「今日は符術の鍛錬をするぞ! 志月符術とはどんな術だ? 」


志月「はい!まずは霊力を込めて符を書きます!」


兄「うんうん、いいぞ! 」


志月「そしたら完成した符をえい! とやって霊力がばー! となって色々な術が出てきます! 」


兄「う、うん? 本当に分かっているのか、志月」


志月「分かっているモン!それに実践の方が得意だって近接術でも言われたし!」


兄「まぁ確かに志月は実践の方が向いているか…… 、よし、志月。まずは符を的に当てる練習からだ! 今日準備したのは威力の低い符だから安心しろよ。」


 志月「はい!」


 符を投げる、的の手前で爆発する

 符を投げる、近くの木が爆散する

 符を投げる、通りかかった使用人が爆散しそうになる(兄が守りました)


 兄「」


 志月「次! 次はうまくいくはず!」


 兄「まぁ、人には得意、不得意があるからな。志月、符の修行は兄ちゃんがいる時にやろうな」



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