双つの笛は縁(えにし)を廻りて

星月小夜歌

1:楽器ジャンカー、時任 結

 時任ときとうゆいは古物店でジャンクとなった楽器を探し蘇らせるのが趣味の女だ。

 旅行先でも古物店があれば立ち寄るような、そんな筋金入りの楽器ジャンカーだ。

 そして、時々発掘したお宝をYOUTUBEで紹介しているYoutuber、時掘ときほりタカラでもある。

 楽器はジャンク品として収集するだけにせず、演奏もしている。

 ジャンク楽器コレクションとして集めた楽器で練習し、演奏できるようになるまでが、結、あるいはタカラの楽しみだ。

 演奏ガチ勢の実力には到底及ばないが、修理依頼をして蘇った楽器での演奏動画もタカラは公開している。

 演奏の実力が足りなくても、ジャンクとして壊れかけた楽器でも、これだけの演奏が楽しくできるのだ!

 というのが、タカラのモットーだ。

 こういう趣味なので、楽器は手広く、音は出せる。

 しかし、結(タカラ)が最も好んで吹くのはフルートだ。

 結は中学校の吹奏楽部でフルートと出会い、それから今に至るまでフルートを吹き続けている。

 その当時、結の英語の教科担任であった斎宮原さいぐうばらさくらが吹奏楽部の副顧問を務めており、結は桜からフルートをよく教わっていた。

 桜はフルートが上手く、結の憧れでもあった。

 わざわざ居残りして他の部員がいなくなるまで待って、桜と二人だけでフルートを練習する、ということもしばしば結は行った。

 フルートを吹いている桜先生は、いつにも増して美しく、同じ女性であるにもかかわらず結はドキドキしてしまう。

 何度も桜先生からフルートを教わるうちに、桜先生のフルートの音色が時々もの寂しく感じることがあった。

 そんな物憂げな桜先生が、結にはどうしようもなく艶っぽく映ってしまいより一層、結は桜先生を慕うのだった。

 率直に言って、桜先生が好きで一緒にいたかったからフルートを真面目に練習した。

 という真面目に見えて真実はなんとも不真面目な動機である。  

 だが結局、中学校を卒業してからは桜先生とも会うことは無くなり、そのまま結は大人になった。

 そして大学で、雑多に楽器で遊ぶような緩いサークルに入り、結はありとあらゆる楽器と出会った。

 そしてそこで出会った仲間と古物店でジャンク楽器の宝探しをするうちに、今の結が出来上がった、というわけである。

 

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