第3話 現世転生犬

「俺の言葉がわかるのか…おっと、驚かないでくれよ?」

柴犬だった。

男の人?おじさん?の声が犬の方から聞こえてきた。

「ぼうず、この辺に住んでるのか?」

公園で友達と遊んだ帰り、しゃべる犬の声に驚いてしまい、聞こえないフリをする間もなく、声が聞こえているのがバレてしまった。

「俺は今は犬だけど、前は人間だったんだ。」

犬が横を歩きながらついてくる。

「トラックにはねられて死んでしまったんだ。それから、気がつくと鬱蒼とした森の中で目を覚ましたってワケだ。」

知らない犬が家までついてくるのは嫌なので、家まで遠回りして帰っていくことにしたが、よほどおしゃべりをしたいのか、ついてきてしまった。

「で、森だと思ってたのはそこの林で、俺も人間だったのに犬になってたんだ。」

急に犬はついてくるのを止め、道路の端で座り込んだ。

つい、犬を気にして振り向いてしまった。

「確か、この辺だったかな。俺、ここで死んだんだ。」

足を止めて、少し話を聞くことにした。

「ぼうずくらいの歳の女の子がさ、轢かれそうになっていたから、つい飛び込んで助けちまったんだ。」

「この近くに同い歳くらいの女の子住んでないか? 赤いカッパ着て、赤い長靴の女の子。」

心当たりは、たくさんある。どの子のことを言っているのかはわからないけど、この辺で交通事故で死んだ女の子は聞いたことがない。

きっと心当たりの誰かが、人間だった頃のこの犬に助けられたんだろう。

「もし知ってるなら、女の子に会わせてくれないか? もしかしたら、自分の身代わりで俺を死なせたことで、苦しんでいるかもしれない。」

「俺が犬に生まれ変わって楽しくやってると知ったら、きっと元気になってくれるに違いない。」

伏し目がちに犬に頼まれた。しかし、知らない犬の頼み事は面倒くさかったので、考えてみる、とだけ言ってその場を離れた。


次の日、犬のいた通りを避けて公園に向かおうとしたが、家の近くに

「今日は相談があるんだ。」

「女の子のこともそうなんだが、俺にはもう一人、いや二人会いたい人がいるんだ。」

道をふさぐように犬が話しかけてくる。

「俺が死んだ頃、妻のお腹に赤ちゃんがいたんだ。出産予定日が近くてもうそろそろ産まれるって頃だったんだ。」

「あれから何ヶ月も経っているし、もう産まれているはずなんだ。」

「無事産まれているか心配だ。それに、無事産まれていたとしても、母親だけで随分苦労をかけてしまっているんだろうなあ。」

「俺は元人間だから、野良犬としてはうまく生きられない。それにこう見えても爺さん犬なんだ。」

「元の家族の居場所を見つけるまででいい。少しでも長く生きるために、屋根のある住処を貸してくれないか?」

仕方なく、昔家で飼ってたらしい犬小屋で住まわせてやることにした。


「そういえば、俺には別に子どもはいなかった気がするし、結婚もしていなかった。」

ん?

「そもそも女の子をかばってもいなかった。トラックで死んだのは本当だ。それはそれとして、これからもよろしくな。」

犬が、こちらを見てニヤニヤ笑っているように見えた。汚らしいので追い出した。

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