人間鹿威し

sui

人間鹿威し


 流れに乗る事の出来ない人生である。


 人が人でいる限り、人と共に暮らさなくてはならない。どれだけ孤独になろうとしても同種の存在は必ずついて回るし、除外されてしまうのは恐ろしい。


 だから輪の中に居たくて何とかそれらしく振舞おうするが結果としては失敗をする。

 何かが起き、人々がざわめき始めれば、曖昧な態度で乗り切る事が出来ず水を差す。

 周囲に同調すべく努力をしても結局しっくり来ず訳の分からない言動となって水を差す。

 せめて人として真摯かつ素直であろうとすれば、やはり水を差す。



 己と言う者は根本的に人格が固まっているようだ、まるで捨て置かれた竹か何かのように。

 風の中にこそ入れはしても、笹の葉のように自由に流れる事が出来ない。

 強く吹かれれば転がりはする。揺らぎもする。何かに酷くぶつかれば折れもするだろう。しかしどこまでも土がついてくる。


 揺れる葉達は自由でいい。

 特にふとした瞬間、見目好く踊っている姿を見ると羨ましいとも思う。

 かと言って本当にああなりたいか、そうなる為の努力が出来るかと聞かれると、時に辛そうにも見え、儚くも思え、己には無理なのだと言う結論に至る。


 結局岩の上で置いてけぼりになって、滴る水を浴びるだけ。それが溜まりに溜まり、耐えきれなくなれば跳ねてカコンカコンと鳴るばかり。


 ただ。

 それでも、音を聞いたか揺れ動くのが見えたかで不思議に思い、寄せられる人が時々は出たりするのだろう。


 カコン、カコーン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人間鹿威し sui @n-y-s-su

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ