第1章-1話 2人の盲目の少女

私は少女を抱えたまま、隠れ家のドアを開ける。

薄暗い照明が部屋のいたるところを照らしている。


入って左、壁一面に並ぶ本と薬瓶。

反対には、番号が書かれている天井まで続く小さな引き出したち。


その間にある大きな黒い机と不似合いな背もたれが付いたパイプ椅子。

机の上には、宙に浮いている青く光る円盤と、

同じく青く光る3面に広がっている四角いプレート“パラサイト“。

“パラサイト“に文字が入力されては消えを繰り返している。

ここにはあらゆる情報が入って来るようにプログラムしており、動くたびに小さな機械音が静かなこの部屋に響く。


その部屋の左側、本棚横の扉を少女を抱えたまま無造作に開ける。

さっきの部屋は、私の作業部屋。

そして、こっちはプライベートスペース。

そこには帽子を目深に被った1人の少年・真白(マシロ)が、ベッドの脇の小さな勉強机に座っていた。


入ってきた私にすぐ気づいたようで、真白はすぐこちらに視線をよこした。


「お帰り、ノーマ、ン?………誰、その子?」


「拾ってきた」


「は?」


真白は怪訝そうな顔をしながら椅子から降り、近づいてくる。

私は気にせずに、少女をコートに包んだままベッドに下す。


「うわっ!この子、ずぶ濡れじゃんか!シーツ汚れるぞ!」


「そうだな。」


「もー!」


真白は悪態をつきながら部屋を出ていく。

それを横目に私は少女に外傷などがないか確かめる。

足、手、服の上からの腹部や胸元、そして、顔と頭。


「特に外傷はなさそうだな。となると、この眼はやはり…オリジンか。」


バンッ!


扉が勢いよく開く。

そこには両手いっぱいにタオルを抱えた真白が、足で扉を開けていた。


「行儀が悪いぞ。」


「だったら手伝えよ!」


真白は悪態をつきながら、持ってきたタオルを少女のそばに置き、丁寧に少女の水気をふいていく。


「…すごい冷たいな、この子。」


「雨の中で倒れていたからな。1つもらうぞ。」


私は真白が持ってきたタオルの内、1つを無造作に手に取り、立ち上がる。


「あ!もう!自分で取って来いよ!」


少し濡れてしまった、眼鏡を先に拭いてから、

濡れてしまった肩や腰ほどに伸びきっている襟足の髪を拭く。

そうしながら、先ほどの作業部屋の机に向かう。


机横に備え付けられている引き出しから、

いくつか細い棒が個包装されている袋の内の1つを取り出す。最新型の注射器だ。

他にも様々な刃物や銃器などが1つ1つ消毒済みの状態で梱包された納められている。

だからか、引き出しを閉めようと動かすと金属がぶつかり合う、ガチャガチャという音が静かな部屋に響き渡る。


「今回必要な事は…、まずは体温を上げなくてはいけない、か。あとは…何が必要だ?」


そう独り言のように私が呟くと、いつもの頭痛の種のあいつ、ネアが声をかけてくる。


『お答えします。体内恒常性維持のための回復因子、“カテノセルC“の生成を推奨。

必要素材はアミノ複合体G-57、ナノ導電体、自己免疫調整プロト素子。

分子配列を送信準備完了、生成しますか?』


「その前に、彼女のバイタルチェックだ。」


首裏に手を回す。

そこに埋め込まれている六芒星の形をした機械に触れると、淡く光り首元から触れた指に微粒子状になってからまとわりついていく。

そして、指先に片目用の双眼鏡のような形をした機械に形を変える。


ネアと作った「偽造型管理ナノマシン」、通称「クロノア」。

このナノマシンは、この都市での必需品だ。

生活はもちろん、生き抜くためにも。


「さて………、真白ー。拭き終わったかー?」


「えー?!何ー?」


真白は聞き取れないかのように、大声で聞き返してくる。

頭に響く…。


仕方なしに少女が寝ているベッドの方に戻り状態を確認すると、

シーツは案の定濡れて汚いが、少女の身体は綺麗に拭かれていた。


「で、どっから攫ってきたんだ?」


先ほどの勉強机の椅子に腰掛けながら、真面目な顔で問いかけてくる真白。

私がこの少女を誘拐してきたとでも思っているらしい。


「攫ってない。落ちてたのを拾ってきただけだ。」


そう答えながら、私は機械が張り付いている指を少女に向ける。

すると、その機械から青い光線が放たれ、少女をスキャンしていく。

何往復かした後に、光線が収まる。


その指をまた首裏の六芒星の跡がついている箇所に触れる。


『スキャンデータをロード中………、完了。肉体特徴女性、推定年齢9歳、身長およそ145cm、体重およそ38kg、と推定。オリジン細胞の痕跡あり、系統バロウ系と推定。目立った外傷はなし、表面温度及び体温の低下が顕著。このままでは低体温症で死亡する確率、78%。』


頭の中でネアの声が響く。


(なるべく早く、けどダメージ少なく体温を上げる。先に彼女の細胞を取得。その細胞及び遺伝子構造に適応しやすい“カテノセルC“の生成を実行。)


『了解。創薬プロトコルを準備します。』


「さて………。」


個包装の袋を開け、手のひらサイズの両先端が銀色、真ん中が透明の細い円柱型の空間のある棒状の注射器を取り出す。

先端がボタンになっており、そこを押すと反対側が小さく赤く光る。

それを少女の首元に軽く押し当て、再度ボタンを押す。


すると、小さくプシュッと音を立て、真ん中の透明な部分に赤い球体ができていく。

彼女の血液だ。


しばらくすると、またプシュッと音がする。

その音が必要量の血液が取れたことを示している。


その合図で彼女から注射器を放し、そのまま自分の手のひらに押し当てる。

そのタイミングでオリジンを発動させる。

発動の合図と分かるようにダブルスクエアの紋章が浮かび上がる。


そして、今度はボタンを2回連続で押す。またプシュッと音がする。

が、今度はみるみると赤い球体が消えていく。

これで彼女の血液を私自身に取り込み、ネアに解析させる。


『少女の血液をロード中………、遺伝子情報等分析開始………、完了。不可解な結果を取得。優先順位、再選定………、人命を優先につき、創薬プロトコルを開始。完了まで残り6秒、5、4………完了しました。投薬可能です。』


その言葉を合図に、今ボタンがついている先端をカチッと回す。

すると透明な空間に黄緑色の液剤が溶けていく。

溶けきったのを確認し、再度ボタンを1回押す。

またプシュッという音と共に赤い球体が出来上がっていく。


肉眼では見えにくいがその血液中には先ほどの私のオリジンの紋章がかすかに浮かび上がっている。

これで“薬“の完成だ。これが私の「オリジン」。


彼女の血液を取り込み、解析、私の細胞を媒介に創薬をした。

紋章が馴染んだのを確認し、機器を手から離す。

再度少女の首元で、ボタンを押す。


プシュッ。


透明な空間の黄緑の液剤と一緒に私の細胞から生み出した“ カテノセルC“を投薬する。

すると徐々に少女の顔に生気が戻る。


「もう大丈夫そうだな。」


そっと少女の手に触れる。

あまりにも小さく、か細い手だ。けど、ほんのりと温もりを感じる。


『バイタル再チェックを。』


(はいはい。)


仕方なしに、先ほどと同じように首裏からクロノアに触れ、スキャン用のスコープに変化させる。

再度スキャンを行い、首裏に戻す。


(どうだ?)


『スキャンデータ、ロード中………、完了。体温安定しつつあります。栄養失調も見られませんでしたので、もうしばらくすれば目を覚ますでしょう。』


(了解。)


ネアは、一部の機能を失ったもと自己学習昇華型AI、「NEA(ネア)」。

だから、とても頭がいい。

私がオリジンをうまく操れるのも、ネアのおかげだ。


『ネクストステップとしては、彼女が起きた時の準備ですね。ToDoをリストアップします。』


(不要だ。)


『いけません。彼女は女の子で、幼女です。庇護されるべき対象と認識します。ノーマン、拾ってきたからにはちゃんとお世話しなくては。』


いつからか、お節介やきの口うるさい、頭痛の種になってしまったのだけが困りものだ。

おかげで日々頭痛に悩まされている。


「はぁ………。」


「ネアはなんて?」


私のため息から察したのか、苦笑いしながら真白が問いかけてくる。


「拾ったからにはちゃんと世話をしろ、とさ。」


「そりゃそうだ。」


そう言いながらケタケタと笑う真白。

そんな時に、ブザー音が部屋中に響き渡る。

机の上の青かったパラサイトの画面が、赤く光っている。


パラサイトを確認すると、そこにある文字と画面にリアル映像が映し出されている。

そこに写っていたのは、金色に輝く髪を持った翡翠の瞳を持った女性。

文字はこう映し出されている。


“侵入者アリ“

“認証番号、M01、MOA(モア)”


「だれ?」


真白は、少女を見つめながら問いかけてくる。


「お前の大好きな、愛と恋に盲目者だ。」

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White Re:set 白花 清涼  @Lilly_soda

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