それは『うそつき』と『ほんとう』の曖昧な物語
- ★★★ Excellent!!!
『うそつき』と『ほんとう』、言い換えれば善悪にも通じる言葉は親友の自殺という死から始まりを告げる。
死は時に誰かの話題の種にもなり、ともすれば何かを変えると思われるような衝撃的なものだ。
その死を自殺を信じていないのは主人公である周だ。
彼は嘘を吐き『うそつき』になることで親友の死の真相を暴いていこうとする。
しかし、彼の『うそつき』は人を貶める嘘ではない。隠さねばならないもの、そうして誰かの為に彼は嘘を吐く。
周という人物は一貫した目的の為に優しさ故の自己嫌悪に苛まれることがあるが、そうした周だからこそ、見守るこちらもはらはらとしてしまうのだ。
嘘は悪にもなるが善にもなりうる。そして善は容易く悪に転じることもある。善悪の曖昧さと不確かさをこの物語は静かに淡々と告げるように書く。
最後に物語はそれぞれの『うそつき』から『ほんとう』へと着地する。
この物語は、松虫が鳴く。りんりんと鳴く松虫の物語だ。優しい優しい『うそつき』の物語でもある。
どうか、それぞれの『うそつき』と『ほんとう』を最後まで見届けて欲しい。
そうして私は再び、『うそつき』と『ほんとう』の物語へと思いを馳せる。