第8話 五人目の仲間と“黒翼の教師”

試験から二日後。

アカデミアの講堂では、選抜試験の上位通過者を称える式典が開かれていた。


「今年の通過率は例年より低い。だが、上位通過者には特例で“演習外遠征”の資格を与える」


壇上で告げたのは、学園副学長にして、魔導庁の元参謀長【グレイス・リヒトフォールト】。

銀の髪と冷徹な瞳を持つ彼女の言葉に、会場はざわついた。


「遠征って……普通は高等課程の話じゃ……」


「つーか、いきなり危険地帯に放り込むとか、鬼だろ……」


ユウリたちの名は、上位十名の中に確かに刻まれていた。

そしてその横には、見覚えのない名前――「リュミエル=フェルザレード」。


その少女は、壇上の一角で静かに立っていた。

真紅の制服に、漆黒のマント。そして、顔の半分を覆う白銀の仮面。


(あの子が……?)


ユウリはその姿に、なぜか懐かしさを覚えた。

だが思い出そうとすればするほど、頭が痛む。


「おいおい……また妙な奴が加わったな」


カイがこっそりと耳打ちする。


「“仮面の転入生”だってさ。試験免除枠で途中参加だとよ。……絶対、裏があるだろ」


そのとき、重い扉が開き、一人の男が講堂に入ってきた。

全身黒ずくめ、背に大きな魔導書と黒翼のようなマントを背負った、異様な存在感。


「……失礼。着任が遅れた」


「紹介しよう。本日より、選抜遠征を指導する特任教師――ヴァルト=シュトラウスだ」


その名が告げられた瞬間、教員の一部が動揺を隠せずにいた。


「まさか、“黒翼の使徒”が戻ってくるとは……」


「伝説の元・討滅師……!」


ヴァルトは講堂の壇上に立ち、生徒たちを一瞥する。


「ルールは一つ。従え。従えぬなら、戦ってみせろ。それだけだ」


「何様のつもりだ……!」


反発する生徒もいたが、ヴァルトはただ一歩前に出ると、魔力を解き放った。


――その瞬間、空気が砕けた。


膝をつく生徒、身動きが取れない教師陣。

重圧が支配する中、ただ数人――ユウリ、セリア、カイ、リュミエルだけが、立っていた。


「……なるほど。合格だ」


ヴァルトは興味深げにユウリを見つめる。


「“魔力のない者”が、この魔圧を耐えるか。面白い」


***


その日の放課後、ユウリは学園裏の中庭で、あの仮面の少女と再び出会う。


「君が……リュミエル?」


少女は仮面の奥で微笑んだ気がした。


「正確には“リュミエル=No.7”。でも、ただの“リュミエル”でいいよ」


「その番号……」


「気になる? じゃあ、少しずつ教えてあげる。あなたが“第七塔”を探す理由と、私の番号の意味。――同じだから」


ユウリは息をのんだ。


(この子……俺の記憶と、何か関係がある)


新たな仲間――そして、謎を秘めた少女・リュミエルの加入。

ユウリたちのチームは、いよいよ“六人”となった。

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