第二楽章[二人で歩く旅の支度]

「いらっしゃいま…あっ!お帰りなさいです!」

「え…えぇただいま」

「戻ったよ」

〈有末はあの後、メルディと共に冒険家ギルドに依頼達成の報告へ向かった、そんな二人を受付穣は元気良く迎える〉

「魔調石ってこれでいいのよね?」

魔調石って案外柔らかかったわね、この木の棒ヤリでも簡単に採れたし

「はいです!ではお二人とも依頼達成なのです!これが報酬です!」

「ありがたくいただくわ…」

なるほど、異世界ここでのお金はエルって単位なのね

「ありがとうシャルスさん、後お願いがあるんだ」

「なんです?」

〈報酬を受け取ると、メルディは受付穣に話しかける〉

「僕、この人とパーティ組みたいんだ」


ー第二楽章[二人で歩く旅の支度]ー


「なるほどです!アリスさんもいいです?」

「…えぇ、どうせ他にすることもないし」

……としても…メルディ、少し警戒はしておきましょうか

「分かりました!パーティ名は何にするです?」

「パーティ名…何か案はあるかしら?」

「そうだね…有末の職業ってなに?」

「職業?あぁジョブのことね、アイス・コンダクターよ」

いきなりどうしたのかしら、あっでもパーティを組むなら聞くべきね

「僕はフレイム・パフォーマー…ならさ[ムージカ]は入れよう」

ムージカ…?あぁ、名前にも付いていたわねそれなら

「……[Ogni Giornoオニジオルノ]もいれましょう」

「なにそれ?」

〈聞き慣れない単語を聞き、メルディは有末に意味を問う〉

「毎日って意味、私の名前睦師がそうだから、ムージカはあなたの名前ムジックでもあるしね?」

合わせれば良い感じになりそうだし…

「良い案でしょう?」

Ogni Giorno・MUSICA毎日が音楽…か、いい名前だね」

「お決まりです?」

〈名前が粗方決まったタイミングに、丁度良く受付穣に有末たちは話しかけられる〉

「えぇ、Ogni Giorno・MUSICAオニジオルノムージカでお願いするわ」

「了解です!ではパーティ登録にあたって一つ注意があるです!」

〈名前を聞いた受付穣は、少し目付きを変え二人に話す〉

注意?トラブル関係の話かしら

「“互いを尊重し、互いを認めあう”です!お二人は男女のデュオみたいですし!」

〈有末は受付穣の目に少し身構えたが、言葉を聞くと目を丸く開き驚いてしまう〉

「「…女ね…だそうよメルディ/…男か…だってさ有末」」

「「………」」

「フフッ…当たり前よ、この有末をなめないでちょうだい!」

「うん、当たり前…僕もそう思うよ!」

「よかったです、要らぬ心配だったです──


─またのご利用待ってるです!」

〈扉を開け、外に出る二人の背を大きな声で見送る〉

「ふぅ…さて、早速宿屋に行きましょうか?」

「うん、あそこの広場を右に行けばあるはず」

「んぁ~、疲れたわねぇ…早くお風呂に浸かりたいわぁ」

「あ…そうだ、先に有末の服を買おう」

「服?……あぁそうしましょうか」

〈改めて自身の服装を確認すると、刺繍は解れ、裾は切れ、穴が数個空いていた〉

「それだと洞窟は危険だろうしね──


─ここが服屋[テイルコルトン]」

〈メルディに付いていくと、こじんまりとした一つの店に着く〉

服屋と聞いていたけど…想像より

「意外と簡素ね」

「見てくれはね、中はすごいよ…」

「いらっしゃ~い」

「……おぉ」

「ね?僕の行きつけなんだ」

〈ドアを開くとベルの心地良い音と共に、美しい服が並ぶ店内が二人を迎える〉

「えぇ…どこみても服ね、ちょっと奥見てくるわね!」

〈店内を見ると、メルディの言葉を聞かずに奥へと有末は足早に進んでいった〉

「…ミスリルさん、有末に…あの人に合う服を。予算はこれぐらいで」

「3000エルね~、少々お待ち~」

〈メルディは有末が奥へと向かった隙に、店員のミスリルに有末の見繕いを依頼する〉

ん?なに話してるのかしら

「メルディ?あなたも服、なにか買うの?」

「あぁ、僕の服は大事な形見だからね。それに昨日治してもらったばっかりだからさ」

「ふーん……はっ!見なさいメルディ!この服!」

〈メルディの理由を聞いた有末は突然、会話を切り、棚に展示されていたとある服に飛びつく〉

「えーっと確か…ドーリー服だっけ?」

日本あっちではあまり売ってなくって、うっ……」

〈値段を見た有末は、なにも言わずに棚から離れていく〉

5,000エル…いつかの物ね、この値段は

「お客様~お話し中失礼~」

あら、店員さん?急になんなのかしら…

「見繕い出来ました?」

「見繕い?」

「ハイハイ~あなたはこっち~」

「え?ちょっとなによ?」

「まあまあ、とりあえず行ってきな──


─これって…」

〈店員の指示に従い奥へ進むと、一際目立つ水色を基調としたドーリー服が置かれていた〉

「かわいいでしょ~?」

「かわいいけど……これって高いんじゃ」

「なんと3,000エルのところ、アリスちゃんかわいいから700エルに負けたげよう!」

確かに私が可愛いのはそうだけど

「……そんなことして良いの?何%オフよ…」

「アッハハ!良いの良いの~テイルコルトンここってあたいの店だし~」

〈店員は有末の不安に大きく笑って返す〉

「あなた…店長だったのね、これを着れば良いの?」

「そうだよ~、あたいピック!めっかわでしょ!」

「えぇ、とっても……着替えるから個室、借りるわよ───


──着替えたけど…かなりフリフリしてるわね」

〈着替え終わった有末は個室に備わっていた姿鏡で自身の姿を確認する〉

コンダクターが前衛だったときに汚れちゃいそうだわ

「うん……可愛いわ、私!」

そろそろ出ましょうか、メルディを待たせるのは気が引けちゃうし

「お、着替えた終わっ……た?」

「……なによ?」

〈個室の仕切りカーテンを開き出てきた有末の姿をみると、メルディは言葉が詰まってしまう〉

急に黙っちゃって…

「いや…似合ってるよ有末」

「あらそう?まぁ当然よね、私だもの!」

「じゃあこれ買います。3,000エルでしたよね?」

「え?ちょっとメルディ!これは私の服よ、自分で買うわ!」

〈突然料金を支払おうとするメルディを、大きな声で制止する〉

さすがに奢って貰うのは私のプライドが許さないわ!

「良いの、僕が買いたいから買うから」

「あらぁ~良い彼氏さんじゃん?甘えちゃいなよ~」

……良い彼氏ねぇ、出会ったばかりなのだけれど

「…彼氏ではないわ、ま~っ今回は?甘えてあげるけど?」

「じゃ、これでお願いします」

「ハイハイ~3,000エルお預かり~じゃ2,300エルのお釣りで~す」

「……あれ?」

〈提示した金額より遥かに安い会計にメルディは動きを止めてしまう〉

あら、もしかして聞いてなかったの?

「さっき負けて貰ったのよ、メルディ」

「僕の時はそんなことなかったのに……」

「アッハハ!修復は100エルだから良いでしょ~──


─あっりがっとね~!」

〈店を出る二人の背中から、見送りの声が大きく聞こえる〉

「良いお店だったわね」

こんな綺麗な服が買えるなんてラッキーだったわ!

「他にも買うものあるから付いてきて」

「えぇ…まだあるの?早くお風呂に入りたいのだけど…」

「武器を買わなくちゃ、今回の洞窟は魔物がいなかったから良かったけど…」

「私の木の棒ヤリに文句でもあるの?」

「文句しかないから買いに行くの」

「ム~…嘘つき──


─ここが武器屋[バルトリス]、コンダクターとパフォーマー用の専門店」

「…ほんとに私が買える武器あるの?」

「コンダクターは母数が少ないから比較的安いんだ」

〈服屋同様メルディに付いていくと、服屋とは打って変わって敷居の高そうな店に着く〉

「…らっしゃい」

「…なんか怖いんだけど…」

〈店に入るとカウンターの奥には、見てくれが美しかったお店の店主とは思えない屈強な男が座っていた〉

「こんなんでも腕は確かだよ、ねルフルさん」

「…ヘイヘイ、んでなにを見に来たんや?」

「コンダクター用の武器を見に来た」

「コンダクター用?自分はパフォーマーやろ」

「隣がコンダクターでね、冒険家になったばっかだからさ」

「…属性は?」

属性……たぶんコンダクターの前に付くやつよね?

「属性はアイスよ」

「アイス・コンダクターなんて珍しいやんけ…待っとき」

〈そう言うとルフルは店の奥の扉に消えていった、暫しの静寂が店内を包んでいると、再度扉が開き中から到底武器とは思えない棒とリングをもったルフルが出てきた〉

意外と早かったわね、種類が少ないのかしら

「これがアイス用や」

「失礼するわね……指輪とこれは…指揮棒?」

「魔調石はアイス特化に削ってあるさかい……合わへんかったら持ってき」

「魔調石?魔調石って私たちが取ってきたあれよね、武器に使う物なの?」

「えーっとこの世界には魔波マハって言うのがあってね」

「魔波…当たったらバフとデバフを帳消しとか?」

「魔波っていうのは生物から出てる魔素の総称だよ」

はぇ…って魔素の総称なら

「普通に魔素って言えば良いじゃない!なんで一捻りいれちゃったの!?」

「……魔素が波を打つように、その生物の周りを回っとるんや」

「あぁ~…」

なるほど、それで魔波……意外とシンプルなネーミングなのね

「魔調石はなんのために武器に付けるの?…やっぱカッコいいから?」

「魔調石があると魔波の波長を変えやすくなって、威力や射程を細かく狙えるようになるんだよ」

「へぇ…案外優秀なのね、なら指揮棒の方を貰おうかしら」

指輪よりかは視覚的に撃てそうだし

「あいよ……800エルや」

800…まぁまぁするのね、いや…武器なら妥当なのかしら

「これでお願い、壊れたら来るわね」

「200の釣りや、修理なら200でやったる」

「ありがと、ならいつかの準備をしといてね」

「また来るから、それまでにその強面どうにかしてね」

「余計な世話やクソガキ……──


─もう宿屋に行くわよね?」

〈武器屋を出てすぐに、有末はメルディに向かって質問する〉

「さすがに行く…ってそんなジト目で見ないでよ」

「服だけって聞いたのに…」

「明日は討伐依頼とかも行きたいからさ」

「ム~…」

なんか明日はドタバタしそうね

「反対側だから少し歩くよ」

「はいは~い……──


─おぉ~」

なによ想像してた宿屋よりも大きいじゃない……

「ここが宿屋[ヴォイソン]、部屋はもう取ってあるから先行ってて」

「えぇ…早めに来てよね、一人だと持て余しちゃうし」

「分かったよ、2-7室ね」

「了解よ、先お風呂いただくから…覗かないでよ?」

「はいは~い、覗かないよ~」

いい加減な返事ね──


─早速お風呂に入ろうかしら……

「明日は討伐依頼…私の初戦闘になるわね…」

ならしっかり休息しないとね!

「……フゥ~…お風呂は良いわねぇ~」

〈部屋に入った有末は、汚れてしまった制服を脱ぎシャワーを浴びていた〉

たくさん歩いたから癒されるわ~

「結局ほぼ成り行きでパーティになっちゃったわね…」

〈タオルで胸辺りから太ももにかけてを隠しつつ、髪をまとめ浴槽に足をいれる〉

体も洗ったし、そろそろ浸かろうかしら

「アッ!……つぅ、なによこの温度…」

…あの時は動揺してはいって言っちゃったし


『ねぇ有末、二人で…パーティ組まない?』

『は…はい……?』

『うん、じゃあ決まり』

『……え!?ちょっと待ってよ!』

『早く行こう?魔調石なら後で渡すからさ』

『ありがとう…ってそう言うことじゃなくて!』


「まぁでもなんか嫌ではないのよね…むしろ嬉しかった…」

まるで昔何処かであったみたいな感覚、まさかあの子が……

「いや、そうなわけ無いか……」

異世界に夢を見すぎているわね、しっかりしないと。にしてもあの大怪我ですぐに起き上がったり、すぐにパーティに誘ってくるなんて

「不思議な子よね、メルディは」

特にあの瞳、時々前髪の隙間から見える白い右目。目を合わせていると吸い込まれそうな、金と白のオッドアイ

「まるで全てを知っていて…全てが退屈で…」

全てに興味が無いような……虚ろな…

「……のぼせちゃうし、もう少ししたら出ましょうか──


─あら、もどってたのね」

「明日の朝食を増やしといてって言うだけだったからさ」

〈お風呂から出た有末を向かえたのは、荷造りをしているメルディだった〉

「受け付けにも話したし、明日は早めに出ようか」

「分かったわ、なにか持ってくものは?」

「武器と……お金ぐらい?」

「武器と~…お金と~…身分証とかいらないの?」

「ギルドカードがあるけど…お金かかっちゃうし」

「なるほどねぇ~…」

まぁそれはおいといて

「それよりも…大きいベットね!……ど~~ん!」

〈有末は助走をつけ勢い良くベットにダイブする。すると大きく反発し、何度かベットの上で体が跳ねる〉

く~…!こんなの飛び込んでくれと言ってるようなもんじゃない!しかもフッカフカよ!

「行儀悪いよ有末」

「良いのよ~、んん~…今日は色々買ったわねぇ」

初給料もらったときもこうやって、姉さん達とたくさんお店回ったっけ…

「……僕もお風呂を出たらすぐ寝ようかな」

「えぇ…じゃあ先寝てるわ、おやすみなさい……」

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Ogni Giorno・MUSICA‼ レイル @tetogozi0413

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