第31話 森宗のリーグ
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リーグの管理する城。その一室は王族が住んでいるのかというほど、豪華な装飾が施されていた。別に住んでいる者も趣味という訳ではない。
国によっては政府とリーグは関係が深く、それなりの威厳を求められる故、質素な印象はあまり好まれないというだけの話だ。
「一ヵ月間。全ての予定をキャンセルしろ」
黒髪の男――ルシオは森宗という国のリーグ序列第一席でありながら、国を代表し支配している。単純に強いだけではなく、政治や経済の管理にも優れている若いながら優秀な人物だ。
「承知したわ。……というか、私もそうしたいと思っていたのよ」
携帯を片手にメールで部下に指示を飛ばす。溜息交じりに茶髪を腰まで伸ばした長身の美人――ロレンサはソファに腰を降ろし、両袖机の席に着いているルシオと視線を合わせる。
「だろうな……。世界最強のテイマー、天衣ショウ。奴がカーネリアンの主力全てを相手に戦うんだぞ。仕事なんてしてられるか」
若き天才と名高いルシオは、両親がカーネリアンに殺されている。無謀にもカーネリアンという凶悪な組織に逆らった代償だ。
両親の所為でルシオ自身も戦いに巻き込まれ、昔は命を狙われる事もあったが、今は見逃してもらえている。
逆らえば次はリーグ全体が狙われるかも知れない。故に彼は両親の仇であるカーネリアンを、いつか打ち滅ぼそうと画策しているが今は目立つ事を避けていた。
「戦いから逃げてメカルテを手放すカーネリアンを嘲笑うのも良し。天衣ショウとカーネリアンが殺し合うのを観戦するのも良し。どっちに転んでも最高ね」
ルシオ同様、ロレンサもまたカーネリアンに深い恨みを持つ人物だ。
まだ二十代後半の彼女だが、二年前に旦那と息子を失っている。だから今は彼とカーネリアンを打倒するべく、各国の優秀なテイマーと裏で協力している。
残念ながら目立つ成果はまだ得られそうにないが、少しずつ勢力を増やす事には成功していた。
「現在桜帝樹には、多くの国から強者が集まっている。大胆な事にウィリアムが出入りを制限してないから、堂々と入りたい放題。これにより、どっちが勝とうが負けようが、漁夫の利を狙える訳だ」
ルシオがショウに求めるのは、カーネリアンの打破だけではない。流石にそこまで高望みはしておらず、どうにか戦力を落としてくれたら十分だと考えていた。
モンスターは技の使用で基本、体力を消費する。あくまで伝説になっている程度の知識でしかないが、特例指定モンスターの技は大量の体力を消費する事が多いらしい。
だからこそショウが時間稼ぎさえ成功すれば、それだけでメカルテの体力は大幅に削れるのではないかと期待していた。
ルシオとしては、メカルテの体力を三分の一まで追い込んでくれるのが理想だ。それならショウとカーネリアンの両方、世界の脅威を取り除ける。
そう考え、彼は抗争の日を待ち望んでいる。
「よくショウはウィリアムを止めなかったわね……。戦いに勝っても、世界中の闇ギルドとプロが命を狙ってくるのよ?」
ショウだって漁夫の利を狙う存在を危惧しているはずだと、ロレンサは考えながらテーブルに置かれた焼き菓子を手に取る。
「十中八九、カーネリアンと戦い疲弊した後ですら、逃げ切る自信があるんだろうさ」
ショウの大胆不敵というか傲慢な態度からして、ルシオは単なる勘で決めつけていた。というより、もう推測できる範囲ではないと諦めている。
「…………にわかには信じ難いけど、そうとしか思えない行動よね」
ロレンサも同意する。何故なら、今回は巫女の抱える事情を説明した上で、ショウはカーネリアンを挑発しているから。
本来なら巫女を殺せば済む話。それだけでカーネリアンからメカルテは解放される。しかしあえて、そうしない。寧ろクラリスを餌に、敵を呼び寄せるつもりだ。
つまり力によほどの自信があるのか、強制銃に対抗する術を持っているのか。どちらかだろうと、ロレンサは判断している。
「……恐らく天衣ショウは強力な魔道具を持っている。シノンは錬金術師としても天才なんだろう? 強制銃に匹敵する何かがあるんじゃないか? もしくは、より高品質な強制銃を持っているか。どちらかだろうね」
シノンがジャスパーに加わっている事から、ルシオは魔道具の開発も進んでいると踏んでいた。それほど彼は、シノンの研究成果を高く評価しており、カーネリアンに対抗できる存在だと確信している。
「…………ッ! 確かに、カーネリアンでさえ強制銃を作る事ができたのなら、シノンはそれ以上の魔道具を作れてもおかしくないわ……」
ロレンサは思い出す、イライジャの死体がジャスパーに回収されている事を。恐らく彼の懐に幹部だけが所持を許される上位の強制銃を入れていたはず。
だとすれば、強制銃を解析して対抗策を見つけた線も考えられる。いや、そうじゃないとここまで好戦的な真似はできないだろうと、ロレンサは顎に手を当て考えていた。
「カーネリアンも無策で挑む事はしないだろう。……知恵比べだな。定石なら、モンスターよりテイマーを狙う所だが……。これをショウが、どう対策するか見ものだな」
強制銃の対抗策はカーネリアンも無視できないはずと、ルシオは手元の資料を眺めていた。
どちらが勝つにせよ、戦いの後にやるべき事は山積みであり、今から準備に取り掛からねばならない。
その予定を組む為に、今後起こる被害の予測や各国が持つ戦力を確認していた。
「攻撃範囲の広い技は、味方が多い局面では難しい。カーネリアンも攻めあぐねるんじゃないの?」
集団戦だとモンスターだけではなく、味方の人間まで技に巻き込む危険がある。だから技はかなり制限されるのではないか。そうロレンサは考え、山積みの資料から数枚取って目を通し始める。
「とりあえずショウは三体以上のモンスターで、メカルテを相手に時間稼ぎを狙う。そして残りの数体を引き連れ、ひたすら逃げ続ける。これは確定だと考えていい……」
恐らくメカルテを相手に勝つ事は狙わないだろう。何せ相手にするのはメカルテ一体とは考えにくい。最低でも20体は高レベルのモンスターが援護してくると、ルシオは確信している。
「ショウは未知の技をモンスターに習得させている。そして強力無比なアビリティを持つのだろう。恐らくレベル差をひっくり返す術があるかも知れない……」
強力な魔道具を用意しても、やはり地力が必要だろう。薄らとだがルシオは期待を寄せていた、ショウが簡単に殺される訳がないと。
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