第5話 ゲーム主人公、登場!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ショウはボンボンなだけあり、財布の中にはそれなりに金が入っていた。旅を始めた最初の街に戻り、僕は新品の服や靴を買う。そして温泉に入り、くつろぐ。




 そして今は白いシャツ、黒いズボンに着替え、サンダルを穿き、喫茶店で卵サンドを食べている最中だ。コーヒーはミルク七割、砂糖は入れない。転生前からの拘りである。




 先程から視線がチラチラと向けられていた。なんだろうイケメンがそんなに珍しいのかと、周囲を確認すると男女問わず視線を向けて来る人がいた。




「…………」




 何か悪いことをしただろうかと、少し気まずい気持ちになりながらも、仕方がないと割り切る。




 昔から怒られる事には慣れている。何か悪い事をしたらなら、ごめんなさいと謝ればいいのだ。仮に暴力を振るってくる様なら、素直に逃げようと腹を括る。




「――あ、あの!」



 横から声が聞こえた。随分と可愛らしい声で、女だと分かる。



「……どうかした?」



 卵サンドをモグモグと食べながら、僕は横に視線を向けた。



「えっと、天衣ショウ、さん、ですよね?」



 オドオドした様子で、桜色の髪を腰まで伸ばした少女――アイリは尋ねる。



「そうだけど……」



 僕は素直に肯定する。隠す理由もないからだ。



「やっぱり!」



 凄く目をキラキラさせ、嬉しそうに笑うアイリ。ポチポチと携帯のボタンを連打して、長い文章を書いている様子。



「…………」




 ゲームだと掲示板機能があった。どうせネット民と会話しているのだろうと、僕は思いつつ「そういう君は、もしかして尾神アイリ?」と尋ねた。




 白いブラウス。赤い上着。赤いスカート。こういう自分の美貌に注目を集めようと派手な服装を好むのは、アイリの特徴だとゲームでも説明されていた。




「な……! え……⁉ そうですけど何で⁉ 何で私の名前を知っているんですか⁉ まだ私、駆け出しなのに……!?」



 アイリは狼狽し半歩下がる。やはり第一部のゲーム主人公で間違いないらしい。



「僕と同学年で君を知らない人はいないよ。成績優秀な上に、群を抜いて美人な訳だしね……。男なら皆、君に憧れて噂が絶えない訳だし」



 ゲームの紹介文通り、僕は語り、再度卵サンドを食べ始める。内心では正直テンション爆上がりだが、あえて素っ気ない態度を取るのは、ショウというキャラを演じる為だ。




 一々女に舞い上がっていたら、流石に違和感だろう。完璧に演じてクールキャラになるつもりもないが、キャラ崩壊を起こす気もないのだ。




 だって中身が別人とか、気持ちが悪いと思われるかも知れないから。それに転生系の小説は幾つか読んだ事はあるけど、転生者だって周囲にバラす展開は、個人的にあまり好きではなかった。




 何故だろう。主人公の若き天才っぽさが失われてしまうからだろうか。



 まぁ、とにかく僕は最低限中身が別人だと思われない様に、あまりキャラは変えない様にしたいと考えている。



「…………ッ! えっと……⁉ その……! いきなり褒められると、どう反応して分からないと言いますか! いや! まぁ! 事実なんですけどね!? 事実なんですけど!」




 アイリは顔を真っ赤にして、何か喜んでいる様子。「えっと……。憧れって本当なんですかね? 男子の間で、私が人気あるって本当なんですか……?」とアイリはボソボソと言いながら、妙に馴れ馴れしく、僕の服を横から引っ張ってくる。




「そりゃあ人気に決まっているでしょ……。ただアイリは女に嫌われているから、あまり表立って男達は近づけないけど……。すげー気が強い女のグループとかに、白い目で見られるからね……」




 卵サンドを食べ終わると、僕はコーヒーを飲み始める。この一ヵ月間、自分の食事は果物だけで、かなり適当だった所為で、ただの卵サンドやコーヒーが尋常じゃなく美味く感じてしまう。コーヒーは三杯目だし、卵サンドも3人前も食べてしまった。




「…………。なるほど……! おかしいとは思っていたんですよ! 私ほどの美少女が告白の一つすらされないので! 高嶺の花すぎて口説けないにしても、妙に男子から避けられていたので! これで納得しました! やはりあの女達ですかぁ~」




 腕組みし、なるほどなるほどと、アイリは頷く。心当たりがあるのだろう。随分と納得した様子だ。



 ゲームだと彼女は周囲に避けられていると感じていた。ユーザー視点だと、寧ろ自分から距離を置いてただけなのだが、彼女に自覚はない。




 僕の見立てでは恐らく、アイリというキャラは凡人に興味がないのだ。その癖、人一倍寂しがり屋で孤独を感じやすい。



 だから興味もない人達とも仲良くなろうとして、でも興味がないから本当に親しくなれなくて距離を置く。そんな所だろう。




 彼女は自分が天才過ぎて孤独なんだと、ゲームでも独白していたが、僕は違うと思う。他人に興味がない癖に、自分には興味を持ってもらおうとしてしまう。それが彼女が孤独である理由だ。




 よくいる、〈他人嫌いの寂しがり屋〉という奴だろう。そりゃあネット掲示板に入り浸りにもなるわなと、僕はパクパクと卵サンドを口に運んでいく。




「高嶺の花すぎて口説けないとか、それも間違ってないと思うよ」



 店員のお兄さんに注文しながら、僕は話を続ける。



「……へ?」


 驚いた様に声を上げるアイリ。



「ほら、優秀なテイマーってだけで将来は金持ち確定だし、その上に美人で明るくて性格もいいから、自分なんて相手にされる訳ないと思うのは普通でしょ」




 僕は注文を終えて隣の椅子を引き、「座ったら?」と言う。「…………」顔を真っ赤にしたアイリが無言でオドオドしつつ、椅子に座る。




 明らかに狼狽えている。そういえばゲームでも彼女は、テイマー以外の事で褒められ慣れていなかった。



 確か学園だと女子からはウザがられていた。



 アイリは才色兼備で性格も良いが、ナルシストで自慢話が多い。天真爛漫でハイテンションで意識高い系すぎて、駄目な人の気持ちが分からない。付き合う気もない癖に、モテようと気さくな態度。理屈っぽくて、共感より先に正論パンチをしたがる。友達少なすぎてネット民とレスバしまくる陰キャ。




 女から嫌われる要素がてんこ盛り主人公だと、ゲーム会社の社長もケタケタ笑っていた。そう考えると、アイリが褒められ慣れていないのは当然かも知れない。



 彼女は今もモジモジと体を揺らし、耳まで赤く染めて恥ずかしがっている。



「……もしかして私を口説いています?」



 数秒の沈黙の後、アイリは肩を竦め、恐る恐る声を振り絞る。



「…………? いや、ごめん。好みじゃない」




 僕は首を傾げ、本音を言った。ゲーム通りの説明をしただけで別に口説いている訳じゃないのだ。ただ思った事をペラペラ喋っているだけ。他意はない。



 そりゃあゲーム主人公に会えたのは、凄く嬉しいし内心では舞い上がってはいるけど、別にアイリは最推しではない。



 どちらかと言えば、妹のシノンが断然好きだった。昔から僕は白髪美形キャラは男女問わず好きになってしまう。どれだけ性格に難があっても、シノンの方が可愛い。




「な……!?」



 ショックを受け、固まるアイリ。周囲の人達は会話を盗み聞きしていたのだろう。笑いを堪え切れず、吹き出す人がチラホラいた。



 とりあえずアイリがコミュ障なお陰で、会話の主導権は握れている。少しこの世界の話を聞き出そう。ゲーム知識と擦り合わせて、細かい立ち回りを決める必要がある。





――――――――

〈あとがき〉


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 モチベが上がります!!



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