【三題噺 #95】「本物」「青年」「改修」
夕日ゆうや
孤児たち
「こりゃダメだな……」
重機のエンジンを改修しようと青年がいじっていたが、頬にオイルをつけてこちらに向き直る。
「わざわざ本土から呼んだんだ。代打案はないのか?」
俺は青年を睨めつける。
「そう言われましても……」
「なおった?」
わーわーっとたくさんの子どもたちが教会から飛び出してくる。
隣に置いてあった重機がぷしゅーっと煙りを上げる。
俺たちは教会の電力を全て重機のエンジンでまかなっている。
だからこのエンジンが直らないと子どもたちが困ったことになる。
「ふむ。そういうことなら、この重機を私が買い取ります。そのお金でちゃんとした電力を買いましょう」
「そんなお金はないよ」
俺はふるふると小さく首を振る。
「もういい。他の奴に頼むよ」
俺は青年の提案を断り、報奨金を差し出す。
といってもかなり少ない。
「すいませんね」
青年はそう言い受け取り去っていく。
「明日からどうするの?」
子どもの一人リオが顔を上げてきて訊ねてくる。
「大丈夫だ。なんとかなる」
「父ちゃんが言うなら間違いないね!」
リオはケラケラと笑いながら教会に戻る。
「どこにいても、俺たちは本物の家族だ
引っ越しの計画を本格的にするか。
孤児たちと俺はもっと安い土地を探すしかない。
生きていくのにやっとで一番上の子も働きに出て支えてくれている。
十八人の子どもたちと一緒に引っ越しの準備を始める。
「さようなら」
新居に向けて教会を後にする。
俺たちは生きている。
世界から見放されようとも。
必至で生きている。
さあ、みんなも生きよう。
【三題噺 #95】「本物」「青年」「改修」 夕日ゆうや @PT03wing
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