設定:第十機動隊教範/ダンジョン領域における治安維持と捜査の基礎
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■序章:ダンジョン特別措置法と第十機動隊の創設
21世紀に入り、突如として出現したダンジョンは既存の日本の法体系では対応しきれない未曽有の事態を引き起こしました。
特に、ダンジョンから出現する魔物の脅威や、その内部から得られる未知の資源「魔石」の管理は、国家の安全保障と経済に直結する喫緊の課題となりました。
この未曽有の事態に対応するため、日本政府は「ダンジョン特別措置法」を制定しました。
本法は通常の法規制では対応が困難なダンジョン内における活動全般、及びダンジョンゲート周辺を含む特定危険区域、並びにスタンピード発生時に限定して適用される特例法です。
これにより、警察権・自衛権の特例的運用、ダンジョン資源の国家管理、そして情報収集・統制の強化が可能となりました。
また、本法により探索者のライセンス登録が義務化され、ダンジョン関連情報の公開・非公開に関する規定も設けられています。
この法律の下、政府は異次元資源開発管理庁(IR-DMA)を設立し、ダンジョン問題の総合的な司令塔として位置づけました。
そして、この「ダンジョン特別措置法」に基づき、警視庁はダンジョン関連事象に特化した専門部隊として「第十機動隊」を新たに編成しました。
本教範は、第十機動隊に所属する全ての隊員がダンジョン領域における治安維持と捜査の基礎を習得し、任務を確実に遂行するための指針です。
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■第1章:異次元資源開発管理庁(IR-DMA)と連携体制
異次元資源開発管理庁(IR-DMA)は内閣府の外局として設置され、ダンジョン特別措置法に基づき、ダンジョン関連事務を横断的に調整・推進する役割を担います。
第十機動隊はIR-DMAの直接指揮下にはありませんが、その情報収集能力と調整能力は我々の任務遂行に不可欠です。
IR-DMAの主な役割:
総合的な政策企画・調整: ダンジョンに関する国家戦略の立案、関連省庁との連携調整。
情報収集・分析:
ダンジョン内外のあらゆる情報を一元的に収集・分析し、危険度評価、魔物の行動予測、資源の管理状況などをリアルタイムで各機関に提供します。
特に、映像記録ドローンなどによるダンジョン内のリアルタイム情報は第十機動隊の捜査活動において極めて重要な情報源となります。
資源管理:
ダンジョン資源の国家による一括買取制度の運用、品質評価、保管、企業への供給管理。不正取引の監視。
探索者管理:
探索者のライセンス付与、ランク認定、安全ルールの策定と指導、訓練施設の運営。
緊急時の指揮支援・調整:
大規模スタンピード発生時やダンジョン内での重大事故発生時、関係機関の活動を調整し、現場指揮官への情報提供と助言、必要な出動要請の取り次ぎを行います。
IR-DMAとの連携の要諦:
IR-DMAには警視庁第十機動隊や陸上自衛隊ダンジョン対応部隊で実戦経験を積んだ者、あるいは各組織の情報分析部門から選抜された者が多数出向しています。
これにより、各機関との綿密な情報共有や意思疎通が日常的に行われています。
しかし、異なる組織文化を持つ人材が一堂に会することで時には方針決定や指揮系統における摩擦が生じることも認識せねばなりません。
出向者はIR-DMAの一員としての責務と、自身の所属組織との連携を両立させるという独特の板挟みに直面することも少なくありません。第十機動隊員は、この状況を理解し、出向者を介した情報共有や調整に積極的に協力し、連携の円滑化に努めなければなりません。
IR-DMAは各機関からの出向者を通じて幅広い情報を集約する一方で、ダンジョンの深層情報や国家安全保障に関わる機密情報については厳格な情報統制を行っています。
我々隊員もまた、その統制下で職務を遂行する義務を負い、情報の取捨選択と共有には常に細心の注意が払われます。
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■第2章:第十機動隊の任務と治安維持活動
第十機動隊はダンジョンゲート周辺およびダンジョン内部における特定の治安維持任務を担う「警察官」として組織された専門部隊です。
我々は、自衛隊のような直接的な武力行使は行いませんが、特別措置法により危険なダンジョン環境での任務遂行に必要な権限と装備が与えられています。
主な任務と活動:
ダンジョンゲート周辺警備:
無許可立ち入り者への対応:
ライセンスを持たない者のダンジョンゲートへの接近や進入を阻止します。
探索者間のトラブルへの介入:
探索者同士の口論、暴力行為、装備の窃盗など、ゲート周辺で発生する軽微な犯罪に対し、警察官として介入し、解決を図ります。
不正取引の監視と取り締まり:
魔石やダンジョン由来の資源の不正な取引(密売、横流しなど)を監視し、発見次第、被疑者の特定と逮捕を行います。
ダンジョン内における治安維持活動:
パトロールと警戒:
IR-DMAからの情報に基づき、ダンジョン内部の特定エリアを定期的に巡回し、不審な活動や異常事態を早期に発見します。
軽微な事故・事案への初動対応:
ダンジョン内での遭難、負傷、あるいは軽微な物品の紛失など、探索者からの通報やIR-DMAからの情報を受け、現場に急行し、適切な初動対応を行います。
ルール違反者の取り締まり:
探索者ライセンスの規定やIR-DMAが定めるダンジョン内安全ルールに違反する行為を監視し、必要に応じて指導や罰則の適用を行います。
小規模スタンピードへの初期対応:
ゲート付近で発生した小規模な魔物の流出に対し、迅速に住民の避難誘導を行います。
初期の封じ込めを試み、IR-DMAや民間探索者との協力による魔物の駆除にあたります。この際、隊員の安全確保を最優先とし、必要に応じて自衛隊への増援要請を具申します。
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■第3章:ダンジョン領域における捜査活動の基礎
第十機動隊の重要な任務の一つはダンジョン内および関連する場所で発生する犯罪の捜査と被疑者逮捕です。
通常の警察捜査に加え、ダンジョン特有の環境や事象に対応した知識と技能が求められます。
主な捜査対象と活動:
ダンジョン内犯罪の捜査:
窃盗、暴行、業務上過失致死傷: IR-DMAからの映像記録ドローンなどの情報に基づき、ダンジョン内で発生したこれら犯罪の捜査を指揮し、証拠の保全、関係者の事情聴取、そして被疑者の特定と逮捕を行います。
証拠の保全と採取: ダンジョンという特殊な環境(高湿度、不安定な地形、魔物の痕跡など)下での証拠保全は極めて困難を伴います。専門的な技術と装備を用い、証拠の汚染・消失を防ぎながら慎重に採取します。
被疑者逮捕と身柄確保:
逮捕状が発付されている被疑者、あるいは現行犯で犯罪を犯した被疑者に対し、安全を確保しつつ逮捕を執行し、身柄を確保します。
対魔物武装の運用と限界:
特別措置法により我々第十機動隊員には、通常の警察官にはない限定的な対魔物武装が認められています。
これらの武装はあくまで魔物を一時的に無力化し、隊員の安全を確保しつつ職務を遂行するためのものであり、魔物の殺傷を目的とするものではありません。その運用には厳格な規則と訓練が伴います。
IR-DMAおよび他機関との連携による情報共有:
捜査活動中に入手したダンジョン内の情報(魔物の動向、地形の変化、不審者の情報など)は、IR-DMAと迅速に共有する義務があります。
検察への送致後も、検察官からの追加捜査指示に迅速に対応し、必要な情報を提供します。
容疑者送致と書類作成:
逮捕した被疑者は、速やかに検察官への送致手続きを進めます。
捜査で得られた証拠や供述を基に、正確かつ詳細な捜査報告書や調書を作成し、刑事手続きを円滑に進めます。
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■第4章:三者連携による総合的なダンジョン安全保障体制
IR-DMA、警視庁第十機動隊、陸上自衛隊ダンジョン対応部隊は、それぞれが持つ専門性と権限を最大限に活かし、「ダンジョン特別措置法」という共通の法的枠組みの下で連携します。
日常時:
IR-DMAが情報収集と調整を主導し、第十機動隊がゲート周辺の治安維持や軽微なダンジョン内事案、そして関連する捜査活動に対応します。自衛隊は警戒態勢を維持しつつ、必要に応じて訓練や情報収集に協力します。
緊急時(大規模スタンピードなど):
IR-DMAが各機関から集まる情報を統合し、政府への報告と各部隊への情報提供・調整役を担います。
第十機動隊は初期の混乱収拾と住民避難誘導に当たり、政府の命令に基づき、陸上自衛隊が最終的な魔物殲滅と国家防衛の任務を遂行します。
陸上自衛隊ダンジョン対応部隊は、IR-DMAからの詳細な報告や要請を受け、内閣総理大臣の判断と命令により即座に出動し、事後速やかに国会へ報告・承認を求めます。
この体制は日本が「ダンジョン特別措置法」を中核に据え、各機関がそれぞれの専門性を高めつつ、情報と指揮系統を密に連携させることでダンジョンという新たな脅威から国家と国民を守る、多層的な安全保障体制を確立していることを示します。
しかし、この体制はまだ始まったばかりであり、新たな脅威や予期せぬ事態への対応には常に試行錯誤が求められるでしょう。
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