第13話|秘密のプレゼント探し
「咲良の誕生日、来週だよね?」
芽衣がそう言ったとき、部室の空気が一瞬だけ弾んだ。
春樹が静かにカレンダーを見て、勇人が「よし、なんかやろう!」と立ち上がる。
「でも……何を?」
葵がスマホを見ながらつぶやく。
すぐにAIアシスタントが反応する。
「相手の好み、過去のSNS投稿、購買履歴などからプレゼント候補を提示しますか?」
表示されたのは、人気のアロマキャンドル、写真集、ミニスピーカー、ハンドクリーム──
どれも“それっぽくて無難”なアイテム。
芽衣が、眉をひそめた。
「うーん……それ、誰にでも当てはまりそうなやつだね」
勇人も腕を組む。
「AIってすげぇけど、“心に残る贈り物”までは出てこないんだな」
春樹が言った。
「だったら、思い出からヒントを探してみようよ。
咲良との時間の中に、“彼女らしさ”が詰まってるかもしれない」
彼らはそれぞれ、自分のスマホの中から、咲良との写真を探しはじめた。
秋の森で落ち葉を拾う咲良。
夕暮れの校舎でカメラを構える咲良。
動物園で、小さな動物たちを静かに見つめる咲良。
芽衣がぽつりと言った。
「咲良ちゃんって、“誰かの見落とした景色”を見てる気がするんだよね。
だから写真が優しいの」
春樹の目が細くなる。
「それだ。彼女が気づいた風景を、今度はぼくらが気づいてあげよう」
その週末。
彼らは咲良がよく撮っていた“場所”を、訪ね歩いた。
古い神社の石段。誰もいない土手。商店街の隅にある花壇。
勇人が小声で言う。
「なんか……こうして歩いてると、咲良と散歩してる気分になるな」
葵が、やわらかく笑った。
「彼女は、風景に“会話”してたのかもね。だから、写真に話しかけられるような気がする」
芽衣が指をさした。
「見て、あの路地の猫……咲良ちゃん、ああいうの、絶対撮るよね!」
その夜。
彼らは咲良の誕生日に合わせて、“彼女の目線で切り取った風景”のフォトブックを手作りした。
表紙には、咲良が撮った写真。
中には、彼女が見たもの、そして仲間たちが「咲良を想って」撮った風景。
ページの隅には、手書きの言葉が添えられていた。
「きっと、君が気づいていた風景。」
「今度は、ぼくらが見つけたよ。」
誕生日当日。
放課後の部室。
包みをほどいた咲良は、しばらく何も言わなかった。
ただ、ページを一枚一枚、指先でそっとめくっていく。
「これ……」
静かに、でも確かに目に涙をためながら言った。
「私が見てたものを……君たちが見つけてくれたんだね」
春樹が、言葉を添えた。
「これは、君からもらった景色の“お返し”だよ」
咲良はうなずいた。
「こんなに嬉しいプレゼント、はじめて」
✦ aftergift:ラッピングされなかった想い
AIは、選ぶ。最適な贈り物を。
でも、“この人だけに贈りたい”という気持ちは、
数値では測れない。
贈り物とは、未来のための会話だ。
「あなたを見てきました」という、そっと差し出す肯定。
ラッピングされていなくても、
手づくりの温度が残っているもの。
それが、一番まっすぐに届く。
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