幼馴染
『ずっと、好きだった。俺と付き合ってほしい』
中学の時、恭介はずっと想いを寄せていたかなに告白をした。
一瞬、驚いたように目を見開いた彼女は『私も、ずっと好きだった』と言って抱きついてきた。
当時はただ嬉しくて、幸せだった。
だから、誰かから向けられる視線に、気づかなかった。
『山内くん!今日、1年生の委員長は集合なんだって』
『青栁先輩。連絡、ありがとうございます』
当時、同じ委員会に所属していた姫名と話す機会は多かった。
委員の仕事を教えてくれる、優しい先輩。
人当たりも良く、先生からも生徒からも信頼されているすごい人。
恭介はそんな風に思っていた。
だから、かなと別れた後に彼女が話しかけてきた時は驚いた。
『あ、あのね山内くん。私ー』
あの時、姫名が何を言いかけたのかは今でもわかっていない。
言い終わる前に彼女が走り去ってしまったからだ。
ピピピ、ピピピ。電子音に、ハッと顔を上げる。
急いでスマホを取り上げると、試合の時間が迫っていた。
ユニフォームとカバンを掴み、階段を駆け降りる。
「恭介、お疲れ様」
「記録更新したなー。はい、差し入れ」
「かな、颯汰。応援ありがとう」
颯汰が差し出してくるゼリーを受け取り、カバンを担ぎ直した。
試合が終わった陸上競技場は人がまばらで、選手のほとんどは帰っていた。
「恭介、もう帰れるの?」
「おう。俺、今日は午前だけだから」
「明日もあるんだっけ?」
「明日はないよ。次は再来週」
「大変だな。頑張れよ」
「ありがとう。2人とも、今から帰る?」
「うん」
「ご飯食べて帰るか?」
「え?颯汰、いいの?」
「ん?何が?」
「……や、別に」
歯切れの悪くなったかなが背を向けて、階段を降りていく。
その後ろをゆっくりと着いていくと、中学の時よりもその背中ぎ小さく見えた。
(身長、伸びてるのかな)
ゼリーを片手に、階段を降りきると、颯汰が立ち止まった。
「あのさ、2人とも」
「ん?」
かなと恭介が振り返ると、そこには顔を赤くした颯汰がいた。
「何だよ?」
「………恋愛相談、乗ってくれない?」
颯汰が口元を押さえながら、言う。
恭介の隣にやって来たかなが、キョトンと目を丸くしている。
「……え?」
「その……この間の、デートのこと……」
尚も顔を赤くしたまま、モゴモゴと言う颯汰にかなは意地の悪い笑みを見せて、彼の肩を叩く。
「詳しく聞かせてもらおうか?確か近くにファミレスあったよね」
「ここを右に行ったとこだよ」
「よし!行くわよ!」
爛々と瞳を輝かせながら、かなが歩いていく。
顔を赤くしたまま歩き出す颯汰の肩をポンポンと軽く叩いた。
「ええ〜!!よかったじゃん!」
一向に目の合わない颯汰に、かなはニコニコと笑いかける。
恭介は黙ったまま、パスタを食べる。
「………おう」
「次はいつ会うの?」
「来月の日曜日」
「もうすぐじゃん!後2週間くらい?」
「そうだな」
「いい感じなのか?」
「んー…どうなんだろ?好かれてはいるみたいだけど」
「いやいや、嫌いだったら誘わないから!」
自信なさそうに笑う颯汰に、かなは人差し指を突きつけた。
その隣で、恭介も大きく頷く。
「そうだぞー。藍田さんも、颯汰と話したいんだと思う」
「………だったら、嬉しいんだけどな」
顔を赤くした颯汰が、少し笑う。
こんな颯汰を見るのは初めてで、かなと恭介は顔を見合わせた。
ーこの2人、なんで付き合わないんだ?
ーはなちゃんは精一杯アプローチしてるんだけど、意外にも颯汰が迷ってるの。
ー藍田さん、優しいからなー。もしかして、それで?
ー多分ね。だけど、この感じだとそろそろじゃない?
ーやっとか。後もう一押しってとこかな。
かなと恭介が目で会話している間、いつの間に食べ終わったのか颯汰はスマホを見ていた。
画面を見つめる瞳は優しいからきっとはなだろう。
(……俺も、進まなきゃな)
珍しく試行錯誤する幼馴染を見ながら、ふっと苦笑をこぼした。
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