1986年公開の映画「一筋の幸福」に登場する四十代・筋骨隆々のスキンヘッド鉱員・ヨルガノ——周りに知っている人が誰もいないそのキャラクターに憧れ続け、三度の抽選を経てついにVRMMOを手にした20代の主人公。その導入だけで、この作品の方向性が全部伝わってくる。
「プレイヤーネーム:ヨルガノ 該当プレイヤー:0人」という一行が象徴するように、この作品の最大の魅力は「誰も知らないキャラクターへのひたむきな愛」だ。メジャーな作品の人気キャラにすがるでもなく、かっこいい能力を求めるでもなく、ただ「映画の中のあの生活を再現したい」という純粋な動機だけでここまで突っ走れる主人公が愛おしい。
ゲーム設計の巧みさも光る。版権キャラのアバターをそのまま使えるVRMMO「ロスジオン・ロールプレイ」という舞台は、様々なキャラクターのロールプレイヤーが混在する異文化交流街を生み出し、出会う人物ごとに全く異なるコンセプトとバックボーンを持っているという構造が、387話・164万字という長大なストーリーの引き出しの豊かさを支えている。
マックスが映画の相棒犬とは違って自由奔放で甘えん坊に育った、という「IFルート」の解釈も秀逸だ。再現ではなくロールプレイ。その余白の設定が、物語に窮屈さを与えていない。
テイマーでペットと農業と鉱山仕事を愛する筋骨隆々のおじさんが、ただ静かに理想の生活を送ろうとしているだけなのに、なぜか毎回巻き込まれていく——そのギャップが癖になる作品だ。
第1話(チュートリアル回)のキャラクター設定が最高に好きだ。
主人公が「なりきりたい」と憧れるのは、1986年公開の映画「一筋の幸福」に登場する四十代・筋骨隆々のスキンヘッド坑夫ヨルガノ。周囲に知ってる人が誰もおらず、三度目の抽選でようやく入手したVRMMOでその姿になれると喜ぶ様子が微笑ましい。
「プレイヤーネーム:ヨルガノ 該当プレイヤー:0人」——この一行で、どれだけニッチな愛好家なのかが伝わってくる。
スターターモンスターは本来「鉱員っぽい職業」を選びたかったが、映画のパートナー犬マックスを再現するためにテイマー職一択。抽選のガチャで奇跡的にウルフを引き、茶色に染めて「マックス」と命名する過程が、愛情と計算のバランスで読んでいて気持ちいい。
巨漢キャラがちっちゃい子ウルフに「おいで」と呼びかけ、「キャン!」と飛びついてくる対比だけで心が温まる。のんびりとした理想追求型VRMMOとして、序盤から読み続ける理由が十分に用意されている。