スレ主不在

不和安

かけられたもの

0023 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 21:18:44.12 ID:a7x9LpQe

長文になる。

たぶん何も解決してないし、霊感とかない人が読んだらピンとこない話かもしれない。

ただ、俺はもう“あれ”の前に立つのは無理だと思った。


0024 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 21:20:17.88 ID:a7x9LpQe

俺は分家の出で、年末とか法事のときにだけ、本家に顔を出す。

山に囲まれた土地で、雪が積もると車が入れんくなるようなとこ。

正月は本家に集まるって決まってて、子どもの頃から親に連れられて行ってた。


その本家に、“絶対に入らない部屋”がある。

仏間とは別の、廊下の突き当たりにある六畳間。

使われてないらしくて電気もつかない。家具はほとんどなくて、窓際に鏡台だけがぽつんと置いてある。


その鏡台に、白っぽい布がかけてあるんだ。


0029 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 21:36:40.82 ID:a7x9LpQe

初めて見たのはたぶん、小学校低学年のとき。

親戚の子らがゲームしてる間に、なんとなく廊下をうろついてたら、その部屋のふすまが少し開いてて、中が見えた。

その瞬間、わけもなくゾッとした。布のかかったあの鏡台が、生きてるものみたいに感じた。


それ以来、その部屋の前を通るだけで体がこわばるようになった。


0035 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 21:55:12.39 ID:a7x9LpQe

俺がいま住んでるのは関東の方で、本家には年に一回、年末の帰省でしか行かない。

羽田から飛行機で行って、あっちの空港で親戚に車で拾ってもらう。

空港から本家まではけっこうな山道で、冬は雪もあるからけっこう大変。


それでも、親父や叔父は「年に一度は顔出さんと“向こう”が怒る」とか言ってた。

“向こう”って誰なんだって子どもの頃は思ってたけど、今はもう、深く聞かないことにしてる。


0041 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:07:01.28 ID:a7x9LpQe

年末の本家は、他県に散らばってる親戚がぽつぽつ集まる。

昔は子どもも多かったけど、今はほとんど来ない。

俺みたいな若いのが来るのも、もう珍しいらしくて、着くたびに婆さんたちから「Aさんとこの……あら、あんたBおばさんによう似とるわ」って言われる。


親戚の顔なんてよく知らないから、誰それに似てるって言われるたびにモヤモヤした。

たまに「昔のC(故人)に生き写しや」なんて言われることもあって、自分の顔が自分のもんじゃないような気持ちになる。


0042 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:08:02.10 ID:a7x9LpQe

その年の年末は、親戚の集まりも小さくて、泊まり組も3組くらいだった。

手が空いてると気まずいから、俺は雑用係みたいな感じで台所と仏間を行ったり来たりしてた。


夜、食事が落ち着いてから、おばさんに「米びつの上にあるやかん取ってきて」と言われて、奥の廊下に行った。

そのやかんがあるのが、“ひかげ”の隣の物置。


あの部屋の前を通るのが本当に嫌だった。


0049 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:15:45.88 ID:a7x9LpQe

ふすまは閉まってたけど、そのすき間から、白っぽい布の端が床に垂れてるのが見えた。

昔と変わらない。何年経っても、あの鏡台はそこにあった。


0050 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:16:13.10 ID:a7x9LpQe

……で、その時だ。


なぜかふすまが、すーっと開いた。

音もなく、風もなかったのに。

まるで、俺が通るのを待ってたみたいに。


ちょうど俺が体を斜めにすれば入れるくらいの隙間から、俺は“ひかげ”に入った。

そして、なぜか

手が勝手に動いて、鏡台にかけられてた白布の端を、ほんの少しだけ、めくってしまったんだ。


中の鏡が、意外なほど綺麗だったのを覚えてる。

掃除もされてない部屋なのに、鏡面だけが曇ってなかった。


……で、そのときだ。


0051 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:17:55.40 ID:a7x9LpQe

「……おう、おめか。」


背後から、ガサついた声がした。


びくっとして振り返ると、細っそい体に和柄の割烹着を着たばあさんが、廊下の影に立ってた。

何年も前から本家にいる親戚の“遠い”おばさんで、名前も正直よく覚えてなかった。


ただ、俺の顔を見るなり、ばあさんは真顔で言った。


「ほうか、こがぁな代になっただかねぇ……

 おめ、いくつまで生きたいんかね?」


意味がわからなかった。

黙ってると、ばあさんはさらに言った。


「生き地獄と、安らしぃ天国。どっちに早よ行きたいだかね。

 わしゃどっちでもええけど、どっちにしても──

 その口で選ぶこたぁ、できんけぇなぁ……」


0052 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:20:38.22 ID:a7x9LpQe

鏡を見て、あのばあさんにあんなことを言われたあと、俺は完全にビビってた。

そのまま布をかけ直して部屋を出たけど、手のひらがじっとり汗ばんでたのを覚えてる。


夜になって、親父と母さんが台所で茶を飲んでるタイミングがあったから、思い切って聞いてみたんだ。


「なあ、“ひかげ”の部屋ってさ……あの鏡台、誰のだったん?」


親父は茶碗を置く手を止めて、母さんと顔を見合わせた。


ちょっとだけ間があって、父さんが言った。


「その話はするな」


それだけだった。

語気は強くなかったけど、空気がピシッと固まった感じがした。


それ以上は聞けなかった。


0053 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:23:06.71 ID:a7x9LpQe

戻ってからの数日、朝起きて鏡を見たとき、

なんか“違和感がある”って思うことが増えた。


髪の分け目が逆?

いや、昨日もそうだったよな。

口元の感じが変わった?寝癖か?


──そうやって、自分で自分を納得させてた。


でもある朝、洗面所で歯を磨いてるとき、

鏡の中の自分がほんの一瞬、先にまばたきした。


ぴくっ、ていう感じで。

自分が意識するよりほんの少しだけ、目が閉じるのが早かった。


一瞬で終わったし、たまたまそうなっただけかもしれない。

でも、嫌な冷や汗が首筋を伝った。


0054 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:26:11.02 ID:a7x9LpQe

その日から、気づいたら鏡を避けるようになってた。

電車のドアのガラス、自販機のパネル、エレベーターのステンレス……

反射するものすべてが気持ち悪くなった。


部屋の姿見もクローゼットの奥にしまった。


でも、どうしても見るしかない時ってあるじゃん。

朝、顔洗ったあと。寝癖チェック。

そういうときに限って、“変な感覚”が戻ってくる。


たとえば──


鏡の中の自分が、少しだけ、嬉しそうに見えるとか。


0055 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:30:20.46 ID:a7x9LpQe

最初に夢を見たのは、正月明けて2週間くらい経った頃だったと思う。


夢の中で、俺はどこか知らない家の廊下に立ってる。

その廊下の先に、鏡台がある。

白い布がかけられてて、部屋の中は暗い。窓はない。


俺は動けない。

足が床に縫い付けられたみたいで、ただ鏡のほうを見てる。

すると、鏡台の前に“誰か”が座ってるのに気づく。


紫の着物。髪が長くて、顔は見えない。

……なのに、鏡の中だけはハッキリ映ってる。

こっちを見ながら、ゆっくりと口角を上げて、笑ってた。


目が覚めたとき、心臓がすごい音してた。


0056 本当にあった怖い名無し 2022/12/29(木) 22:35:04.83 ID:a7x9LpQe

その夢を見て以降、電車の中とかで人の視線が気になるようになった。

高校生くらいの女子が、じっと俺の顔を見てる。

会釈しかけると、びくっとして目をそらされた。


コンビニでレジに並んでたら、後ろの客が距離を取る。

たまたまかもしれないけど、連日そういうことが続いた。


で、一番ゾッとしたのは、

クラスメイトに言われた一言。


「お前ってさ……前からそんな顔だったっけ?」


0066 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 00:15:11.69 ID:w3VrXe1Q

日付変わってID変わったけど、ID:a7x9LpQeです。

続き書いてく。


0067 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 00:21:49.85 ID:w3VrXe1Q

その頃にはもう、学校にもあんまり行けなくなってた。

朝起きられないとかじゃなくて、鏡が怖くて身支度ができなかった。

制服に着替えても、洗面所の前に立つと動けなくなる。


親には「風邪っぽい」とか「課題が多い」とかごまかしてたけど、たぶんバレてたと思う。

母さんが何回か、俺の部屋のドアの前で立ち止まってた。


で、ある夜。

いつものように夕飯を断って部屋にこもってたら、母さんが入ってきた。

その顔が……泣いてるでも、怒ってるでもなくて、“困り果てた”顔だった。


「……あんた、本家で、何かした?」


0068 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 00:27:51.10 ID:w3VrXe1Q

ごまかせなかった。

俺は、あの“ひかげ”の部屋に入ったことを話した。

鏡台の布を少しだけめくったこと。

それから、あのばあさんに話しかけられたことも。


話し終えたとき、母さんは顔を両手で覆って、そのまま座り込んだ。


少しして部屋に来た親父は、俺の話を聞き終えると、しばらく黙ってた。

それから、低くて乾いた声で言った。


「……あそこには入るなって、それだけは言ってたよな?」


そのまま部屋を出て行ったかと思ったら、廊下から電話する声が聞こえた。

「……もしもし、俺や。あの鏡台のことやけど──」って、誰かに話してるのが断片的に聞こえた。

話し方で、本家のばあさんだとすぐわかった。


母さんはずっと黙ったまま、俺の部屋の隅を見つめてた。

泣きも怒りもせずに、ただ、何かを待ってるみたいに。


0069 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 00:33:19.51 ID:w3VrXe1Q

数分して、親父が部屋に戻ってきた。

無言でスマホを渡されて、「話せ」とだけ言われた。


相手は、あの本家のばあさんだった。

あのとき“ひかげ”の前で声をかけてきたばあさん。


向こうから話し出した。

でも、方言が強すぎて、ところどころしか分からなかった。


(以下、後日スマホに録音されてた通話の内容を、聞き取れた範囲で書き出す)


「……ええけ、もぉ、開けてもたもんなら、しゃあないわなぁ……」

「おめが代やて言うたがに、耳入っとらんかったかや……」

「◯◯の嫁はんの血ぃ入っとるけ、ほら、よう映るがねぇ」

(↑“◯◯”は雑音で聞き取れなかった)


「もとはあのツヤ(ちよ?)いう娘の道具でな……あんとき、下のもんとどっか逃げようとして、すぐ戻された」

「そっからちぃと、頭の方が……な。でも、鏡だけはなぁ、ずっと、大事にしとってな」


「よう話しかけとった。鏡台ん前で、じぃーっと、ずっと」

「それからや。部屋ん中で誰も入らんようになったんは」


「本家の血ぃん中で、また見える者が出てきたら、そのたんびに“出て来よる”んよ」

「せにゃならんことは、ひとつだけや。あとは“おめが選ばれた”んじゃけ」

「わしらは……もう、それを見とるしかないけんの」


全部聞いても、正直、ほとんど意味が分からなかった。

けど後で録音を何度も聞いて、俺なりにまとめた内容がこれ:


・昔、本家の娘(ツヤ(ちよ?))が使用人の男と駆け落ちしようとしたが、連れ戻された

・その後、精神を病み、鏡台の前に座って話しかけるようになった

・鏡台はツヤの嫁入り道具だった

・以降、その鏡に「何か」が宿り、本家の血筋の中から“見える者”が現れると、それが“出て来る”

・お祓いなどで封じようとすると、かえって刺激してしまう

・今の代では俺が“見えた”ことになってる


0074 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 00:39:41.80 ID:w3VrXe1Q

通話の途中で、俺は思わず聞いてしまった。

というか、口が勝手に動いた。


「……俺、このあと、どうなるんですか」


少しの間、ばあさんは黙ってた。

その沈黙のあいだ、後ろの生活音も電話のノイズも一切聞こえなくて、

まるで向こう側だけ時間が止まってるみたいだった。


それから、ばあさんが言った。


「おめが、どっちを選ぶかやろ。

 どっちでもええけど──“向こう”はもう、おめを見とるけんなぁ」


それだけ言って、通話は終わった。

スマホの画面に「通話終了」って出てるのを見たとき、すごく喉が乾いてた。


0076 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 00:45:11.55 ID:w3VrXe1Q

電話を切ったあと、親父はもう一度スマホを手に取って、再度ばあさんにかけ直した。


「……俺や。

 ほんまに、ほんまにもう手ぇないんか。

 まだ若いんぞ。まだ高校生やぞ。

 ほかに、どうにかなる方法……」


語気は荒くなかったけど、あきらめきれない必死さがにじんでた。


電話の向こうで何を言われたのかは聞こえなかった。

でも、親父はうわごとみたいに、


「……そんなこと…そんな…」


ってだけ言って、ゆっくりスマホを置いた。


0079 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 00:51:45.20 ID:w3VrXe1Q

「……俺、どうなるの?

 なんか、やばいことになるの……?」


親父は、しばらく黙って俺の顔を見てた。

それから、ゆっくりと息を吐いて言った。


「……あれはな、壊そうとしたり、あの家から出そうとすると“出る”んや。

 ワシの兄貴、昔こっそりいたずらしようとしてな。

 結局、おかしなことになって、今でも人の顔が見られん」


俺は言葉が出なかった。

親父は続けた。


「そうなる前に、布かけて、閉じて、見んようにするのが一番やったんや。

 見てもうたら……後はもう、祈るしかないんや」


声のトーンは淡々としてたけど、

それが余計に怖かった。


0080 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 00:57:09.96 ID:w3VrXe1Q

その翌日、親父と母さんに車に乗せられて、ある神社に連れて行かれた。


山の中にある小さな神社で、場所は詳しく言えないけど……少なくとも、Googleマップには登録されてないような場所だった。

駐車場もなくて、最後は舗装されてない参道を10分くらい歩かされた。


社務所もない。誰もいない。

なのに、俺たちが鳥居をくぐったとたん、奥のほうから、

白装束を着た小柄な男の人が出てきた。

親父が一言だけ何かを伝えると、その人は無言でうなずいた。


境内の隅にある、屋根だけの小さな祠の前。

そこで、お祓いは始まった。


0082 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 01:03:02.63 ID:w3VrXe1Q

祝詞がはじまってしばらくは、なんともなかった。

風もなくて、空気がやけに静かだったのを覚えてる。


でも、ある瞬間──

祓いの人が、白いヒラヒラした紙の棒(なんて名前か分からん)を俺の頭の上で振ったとき、

突然、鳥居の方から“ガタン”って大きな音がした。


みんな一斉に振り返ったけど、何もなかった。

ただ、俺の足元だけが、急にぐにゃりと揺れたような感覚があった。


目眩かと思ったけど、違う。

自分の“重さ”が一瞬だけ抜けた感じ。


その瞬間から、俺の中で何かが変わった気がした。


0085 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 01:09:00.05 ID:w3VrXe1Q

祓いが終わったあと、白装束の人から封筒を渡された。

中には、小さなお札が何枚か入ってた。


「家に帰ったら、鏡と、家の出入り口に貼ってください」って。


帰宅してすぐ、言われたとおりにやった。

洗面所の鏡、玄関、窓──

全部で十数枚あって、どれも部屋の内側に向けて、四隅をしっかり留めた。


最初はマスキングテープで止めてたけど、朝起きたら全部落ちてた。

「湿気かな」と思って、次はガムテープを使った。


……それでも、翌朝には全部、床に裏返って落ちてた。


貼った跡は残ってるのに、テープごときれいに剥がれてる。

玄関なんて、粘着面がピタッとドアにくっついてたはずなのに、

どうやって剥がしたんだよってくらい綺麗に落ちてた。


俺は何回も貼り直した。

でも、そのたびに同じことが起きた。


0086 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 01:15:37.23 ID:w3VrXe1Q

お札がどうやっても落ちるようになってから、

それまで以上に、鏡が怖くなった。


部屋の中にある鏡は全部、布をかけて背を向けさせた。

洗面台には小さいタオルをぶら下げて、顔を洗うときだけそっとずらす。


……でも、避けてるのに、向こうから“映ってくる”感じがした。

夜、スマホをいじってて、画面がふと暗くなったとき、

自分の顔が一瞬、笑ってた気がする。


そんな笑い方、してなかったのに。


0088 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 01:21:50.78 ID:w3VrXe1Q

ある晩、寝る前に部屋の中を確認してたら──

クローゼットの隙間から、あの姿見のフレームが見えてた。


確かに奥にしまったはずなのに。

動かした覚えもないのに、ほんの数センチだけ、引き出されてる。


いやな汗が出て、クローゼットを思いきり閉めた。

上からガムテを貼って、取っ手にロープもかけた。

それからは絶対に開けてない。


……でも朝起きると、ガムテが半分剥がれてる日がある。

ロープも、少し緩んでることがある。


姿見は、毎回ほんの少しずつ、外に出てきてる気がする。


0090 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 01:27:58.36 ID:w3VrXe1Q

決定的だったのは、学校を休んで家にひとりでいた日のこと。


昼過ぎ、ふと台所に立って、

流しの上にある吊り棚のガラス面に、自分の顔が映った。


……その“映ってる俺”が、目を伏せたまま動かないのに気づいた。


こっちは顔を少し横に向けてるのに、

映ってるほうは、まっすぐ下を向いたまま微動だにしない。


しかも、その口元が、にや……って、ゆっくり笑った。


それ見た瞬間、俺はその場から逃げて、部屋に引きこもった。

クローゼットの前にも本棚を置いて、

スマホのインカメすら怖くてレンズ部分にテープを貼った。


0091 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 01:33:37.58 ID:w3VrXe1Q

それから数日間、外にも出なかった。

部屋のカーテンを閉めっぱなしにして、飯もろくに食ってなかったと思う。


一度だけ、夢を見た。


あの“ひかげ”の部屋に、俺が立ってる夢だった。

でも、立ってる“俺”を、さらに少し後ろから見てる視点だった。

まるでカメラみたいに、俺の背中を見てた。


鏡台の前には、布がかけられていない。


その鏡の中で、“もうひとりの俺”が、くるりと振り返って、こっちを見て笑った。


目が覚めたら、汗びっしょりだった。

……でも一番嫌だったのは、夢の中の俺の笑い方が、ちょっとだけ心地よかったってこと。


0093 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 01:39:56.40 ID:w3VrXe1Q

……いま、これを書いてるノートパソコンの画面にも、うっすら自分の顔が映ってる。


昼間なのに、窓の外がやけに暗い。

雲のせいかと思ったけど、スマホで天気を見たら「晴れ」だった。


さっきから、キーボードを打つ手の動きと、画面に映ってる“手の動き”が、ほんのわずかにズレてる気がする。


俺の気のせいかもしれない。

でも、なんとなく、“見られてる”感じがする。

しかも、それが……俺自身じゃない何かに見られてる、みたいな感覚。


0094 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 01:45:02.34 ID:w3VrXe1Q

とりあえず、いまはクローゼットの前に本棚と椅子を重ねてる。

洗面所の鏡にも、また布をかけ直した。


玄関の鍵は2重にしてあるし、スマホのインカメにも目隠しをしてる。


なのにさっき──

ちょっとスマホを置いたとき、ロック画面に自分じゃない顔が映ってた気がする。


ほんの一瞬だったけど、眉の形が、俺じゃなかった。


0097 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 01:51:38.21 ID:w3VrXe1Q

これ、どうしたら終わるんだろう。

本家に戻ればいいのか。鏡を戻せばいいのか。

あのばあさんにもう一度会えば、何か分かるんだろうか。


でも、もう向こうからは連絡がない。

両親も何も言わなくなった。

「大丈夫か」とも、「まだ続いてるのか」とも、聞いてこない。


まるで、全部“済んだこと”みたいに扱われてる。


……だけど俺は、まだ終わってないと思ってる。


0105 本当にあった怖い名無し 2022/12/30(金) 04:44:27.01 ID\:w3VrXe1Q

最後にひとつ、書き残しておく。


たまに、俺じゃない“誰か”が、俺と同じ顔で笑ってる夢を見る。

そいつは俺のことをすごくよく知ってるみたいで、

俺が言おうとしたことを、先に言ったり、先に笑ったりする。


でもそいつ、夢の中で、いつもこう言うんだ。


「こっちのほうが、楽だよ」


……俺、そっちに行ったら、楽になるのかな。

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