転生拒否

綴野よしいち

第1話:死ねない僕


 ——僕は、死にたくない。


 いや、違う。

 僕は、“消えたくない”んだ。


 人は死ねば、魂は次の生を迎えるという。

 前世の記憶を持たずに、新しい誰かとして生まれ変わる。

 でもそれはつまり、僕が僕であることの終わりだ。

 たとえ体が滅びなくても、心が別のものに塗り替えられるなら、それはもう「僕の死」に等しい。


 良い人間は、きっと来世に恵まれる。

 立派に生きた者は、光に導かれるのだろう。

 けれど僕は、そんなものはいらない。


 「立派に生きて、誰かのために尽くして、そして報われる」

 そんな人生を送ったとして、そこに“今の僕”は、もういない。


 ——恐ろしい。

 こんなにも明確に死を意識したのは、初めてだった。

 自分の心が、自分の思考が、自分の存在が、跡形もなく消えるその瞬間を。

 僕は、どうしても耐えられない。


 だから僕は決めたんだ。

 地獄に堕ちるって。


 どんなに苦しんでもいい。

 どれだけ痛みに呻いても構わない。

 叫びながら焼かれても、沈みながら凍えても、それでもいい。


 地獄にいる限り、“僕”は、“僕”のままでいられる。


 僕は——転生なんて、絶対に、拒否する。

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