幼馴染の部屋を覗いたら激怒されました
あっぴー
第1話 お前とは絶交だーっ!
「綿貫くんは結局来なかったわね…
糸原さん、荷物届けてあげてくれる?」
「はあーい」
面倒なことになったな…と内心溜息をついた私は糸原絢音。
今日で小学校を卒業するのだが、クラスメイトの
「ああもう…絵の具セットに習字セットに裁縫セットに上履きに、引き出しまで持っていくとか最悪…
しかも教科書までちょっと残ってるし…
あいつ置き勉してんじゃないわよ!」
腹いせにちょっと教科書の中を見てやる。
すると案の定、中に「ダークマター」だの「ブラックホール」だの、やたら黒々しく手が込んだ落書きがされていて吹き出してしまった。
裁縫箱や上履き入れに、黒字にドラゴン柄とか選んでる羊司らしいな…
いつからこんな趣味になったんだろう…
羊司とは0歳で入った保育園からの幼馴染。
1、2年生でも同じクラスで、その頃までは学童でも仲良く遊んでいて、近所のお祭りなどに連れ立って出かけることもあった。
ニコニコと可愛げのある子だった。
しかし、6年生でまた同じクラスになった時、彼の変貌に息を呑んだ。
相変わらず小柄で顔は可愛らしいが、金髪になった上に、着ているものが黒に十字架が書いてあるTシャツなり、テカテカゴテゴテしたコートになっている。
その上すっかり男子としかつるまなくなった彼には…いやまあ、この歳になれば大体みんな同性とつるむけど…とても声を掛けられなかった。
この家に来るのも久しぶりだなあ…
2年生まではよく部屋に上げてもらって、時には二人で、時には何人かのグループで、家族ごっこしたり、電車や車のおもちゃで街づくりしたりして遊んだなあ。
うちはマンションだから、一軒家で広い子供部屋があることが羨ましかったっけ。
いや、今も羨ましいけど、実感を伴っていたあの時ほど強い感情はないかなあ。
ピンポーン
ピンポピンポピンポーン
…何度押しても返事はない。
でも、考えてみたら当然のことかも。
羊司は熱を出して寝込んでいたら出て来れないだろうし、ご両親は0歳児を預けるぐらいなんだから、当然共働きだろう。
うーん、荷物を家の前に置いて行って大丈夫かな?
特に卒業証書なんて、失くしたら大変そうだけど。
せめて玄関に置いていってあげたいな
…とドアに手をかけると、
ギギギギ
…やった、開いてた!
「おじゃましまーす…ふぅ」
大量の荷物を下ろして、ようやく一息。
返事がないけど、羊司は今寝てるのかなあ。
勝手に荷物が大量に置かれてたら、びっくりしないかなあ。
ていうか…一人でヤバい状態で苦しんだりしてないよね?!
大丈夫かな?
綿貫家の構造は大体覚えている。
まずは居間のソファー
…いない。
やっぱり自分の部屋のベットで寝てるのか。
ちょっとだけ…
ちょっと様子を見ていくだけ…
そろりそろりと階段を上がり、羊司の部屋のドアノブに手をかける。
…あれっ。
どんなダークマターな部屋になってるかと思ったけど、案外普通のきちんとした部屋だなあ…
しかし、ベッドにもいないなあ
…と思ったその時。
背後にひんやりとした気配を覚えて振り返ると、悪の秘密組織みたいな格好の
…いや、よく見たら真っ黒い毛布を全身に纏っただけの羊司が、怒りに震えた顔で立っていた。
「みぃ〜た〜なぁ〜」
「うわっ! ごめん!」
「ひとの部屋を覗くなんて、お前とは絶交だーっ!」
「ごっ、ごめん!
なんでもするから許してっ!」
「えっ、なんでも?
そんなに必死になる?」
たしかに、そういえば…
何年もまともに話してない相手との絶交が、なんでこんなに恐いんだろ?
「ひとがトイレに行ってる間に上がり込んで!
うちに何しに来た!」
「が、学校の荷物を…玄関にある」
「あっ、そうか」
羊司は慌てて玄関を確認しに行った
…毛布を纏ったまま階段を降りる姿が滑稽だ。
そんなに熱を出して悪寒が酷いのかな。
「ごめん、こんなにたくさん持ってこさせといて、いきなり絶交なんて言って…」
「いやいや、こっちこそ、たしかに部屋を見たのは悪かったよ…」
「うん、それはよくないぞ。
じゃあさ…
俺の緊急事態をなんとかしてくれたら許してあげる」
「緊急事態て…何があったの?」
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