第14話:自動ドアと見えないカーテン

🚪👁️‍🗨️「きみがいることを、そっと見守る光」


ポッドがたどり着いたのは、どこかのショッピングモールの入り口のようだった。


でも――どこかちがう。


自動ドアはあちこちにあるのに、誰もいない。

代わりに、ドアの前にはふわふわと揺れる光のカーテンが垂れ下がっていた。


「なにこれ……煙? いや、光?」


リオが近づくと、そのカーテンがそっと揺れ、ドアが“スッ”と開いた。


「わっ、ほんとに開いた!」


「なんか……呼ばれた感じがした」

アカリが、足元の床に目を向ける。


そこには、目には見えないけれど、何か“見られている”ような感覚があった。


そのとき、天井からやわらかな声が響く。


《ようこそ、“見えないカーテンの回廊”へ。

ここでは、“触れなくても気づける”という力を、

感じていただきます。》


ユリスの声と同時に、空間全体が淡い赤い光で包まれた。

それはまるで、空気に“優しい目”が生えているような、そんな感覚だった。


「これ……赤外線?」

アカリがつぶやいた。


《正解です。

赤外線は、“光”の仲間ですが、

人の目には見えません。

けれど、温度を感じるセンサーでは、

それを“感じ取る”ことができるのです。》


「ってことは、自動ドアって“人の熱”を見てるってこと?」


「つまり、“体温”がサインになるのか」


カイがポケットからスマホを取り出してかざすと、

ドアは反応しない。


「……あ、スマホじゃ開かないんだ」


「つまり、“人がそこにいる”ってことそのものを、

見えない光がキャッチしてるんだ」


ユリスの声がふわりと重なる。


《赤外線センサーは、

そこに“何がいるか”より、

“誰かがいるか”を感じるもの。

それは、姿形より先に、

“存在の気配”を読み取るテクノロジーです。》


「すごい……見えてないのに、“わかってくれてる”感じする」


アカリがそっと言った。


すると前方のドアの向こうに、別の人影が見えた。

でも、それは実体ではなく、赤外線で描かれた“体温のかたち”。


手をあげると、その人影も同じように手をあげた。

まるで、自分の“熱”が反射されているみたいだった。


「これ……体温って、私のしるしなんだ」


「言葉も顔もいらなくて、

ただ“あったかい”だけで、気づいてくれるんだね」


ユリスの声が、やさしく響いた。


《はい。

見えないものにも意味がある。

“感じる”ことは、“知る”ことよりも先に、

誰かとつながる扉を開いてくれます。》


ドアが、また静かに開いた。


風もなく、音もなく、ただ、“あなたがそこにいること”を知っているような開き方だった。


リオがポツリとつぶやいた。


「……誰かが、ちゃんと“気づいてくれる”って、

こんなに安心するんだな」

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