第3話:「音のかがやきトンネル」🎧🌈
ポッドがゆっくり止まったその先に、虹色の渦を巻いた長いトンネルが見えた。
その中は静かで、だけどどこかざわざわしているような、不思議な空気が流れている。
「……ねえ、音楽が聴こえる」
アカリがポツリとつぶやいた。
たしかに。
よく耳をすませると、低くくぐもった音が、トンネルの奥から響いてくる。
ポン、ポン、ポポン……
まるで誰かが遠くで太鼓をたたいているみたいな、そんなリズム。
「なんかさ、耳じゃなくて、体で聴いてる感じしない?」
リオが胸に手を当てた。
「わかる。空気が、ドンドンって振動してるみたい」
カイはお腹をおさえながら笑った。
《これは、“音のかがやきトンネル”です。
音というのは、空気の波。
目に見えないけれど、わたしたちのまわりを押したり引いたりしながら伝わっていくんです。》
ユリスの声がひびくと、トンネルの壁に色とりどりの波が走った。
赤、青、黄色。
まるで光の川が、ゆっくり脈打っているようだった。
《それぞれの音には、“色”と“速さ”があると考えてください。
低い音はゆっくり大きな波。
高い音は、小さくて速い波。
音は空気の中を“ドミノ倒し”のように進むのです。》
「じゃあ、音って“空気のささやき”ってこと?」
カイが首をかしげた。
「ちょっとロマンチックすぎじゃない?」
アカリが笑いながら返す。
「でも、わたしたちが声を出すときも、空気を押してるんだよね?」
リオが言った。
「ということは、さっきの“音楽”も、空気が演奏してたってことか……!」
そのとき、トンネルの奥から突風が吹き抜けた。
同時に、足元に小さなビー玉のような粒子が現れる。
「これ……なに?」
リオがしゃがみ込むと、粒はくるくる回りながら、何かのリズムにあわせて列になった。
1つが前に動くと、次の1つも押されて、次も、次も……
ドミノのように、連鎖していく。
「わっ、これ……“音の波”そのものなんだ!」
アカリが声を上げた。
《その通り。
音は、“空気のドミノ”です。
粒たちは前に進んでいるようで、実は“その場で揺れている”だけ。
けれど、その振動は遠くまで伝わる。
だから、声は何メートルも先の人に届くのです。》
「自分の声が、空気を“動かしてる”って思うと、ちょっとすごいね」
リオが言った。
「じゃあさ、イヤホンで音漏れするときって、あの空気のドミノが漏れてるってこと?」
カイが思いつきで言うと、ユリスの光がくすっと笑うように揺れた。
《その通り。
イヤホンの音も、空気を押して伝えている。
だから、“漏れる音”もまた、小さな波として世界に広がるのです。》
「……世界に、届いてるんだ。自分の声も、音楽も。」
アカリがそっと、手のひらをトンネルの壁にあてる。
壁は、彼女の呼吸に合わせて、やわらかくふるえた。
その瞬間――
トンネル全体が、光の波でいっぱいになった。
色とりどりの音が、ぶつかり、混ざり、重なって、まるで虹色のシンフォニーのように広がっていく。
「きれい……」
リオが、心からの声でつぶやいた。
「これが、“音”なんだね」
《はい。
きみが発した音も、誰かが歌った音も、
すべては“空気のさざ波”として、この世界をゆらしている。
見えないけれど、確かに届いている。》
ポッドの乗り口が開く。
3人は、少し名残惜しそうにトンネルをふりかえった。
その向こうでは、まだ音の光が、やさしく波を描いていた。
「ねえ」
リオが静かに言った。
「“届く”って、すごいことだね。
声でも、音でも、ちゃんと誰かに届いてるって」
アカリも、カイもうなずいた。
そして、3人はポッドに乗り込む。
音のあとに残るのは、静けさじゃない。
たしかな“つながり”だった。
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