三合目『私が登る理由』
「はあ・・・はあ・・・!」
「ふふ、楽しいね!」
なにこれ・・・ここ、本当に登山者がいるの?
「今の時間は・・・」
「大涌谷から、30分だね〜」
「あ・・・ありがと」
「そんじゃ、行こう〜!」
「ん・・・ねえ、本当に行こうとしてるのって・・・」
「箱根山だけど・・・どうしたの?」
「冠岳、神山の標識もあるのはなんで?」
「きつくて、その上途中で折れるかな〜って思ってこっちの道にした」
だってほら・・・と日向が携帯の画面を見せながら『右だよ〜』と、呟いた。
「今から登ろうとしてる順番は・・・冠ヶ岳、神山、そして本命の箱根山って感じ」
「さっき言った・・・きつくて途中で折れそうな道って?」
「この道」
日向が見せてくれた地図には・・・
「木しかないじゃん・・・!?」
「でしょう・・・?」
「でも、この登山道も・・・」
「ん〜まあ、そうだけど?」
そうして、私達は冠ヶ岳に・・・
「着いた〜!」
「休憩しよ?」
「うん!」ザックを下ろして、あるものを出した。「ん、なにそれ?」
「これ?」
「ローチェアだよ?」
『へ〜』と、日向が興味深そうに見ている。
「ねえ、もう一つローチェアあるから・・・あげるよ」
「・・・え、いいの?」
「うん。山に誘ってくれたお礼・・・かな」
「・・・えへへ」後ろ髪を掻きながら
『私も、お礼の代わりに・・・』と私の手を握って言う。
「その・・・ね、私・・・キャンプに興味、持ってるんだ〜」
でも、一人でキャンプするのが好きなのかな・・・?「私も、登山に興味があるんだ〜」
・・・日向は、一人で登るのが好きなのかな・・・?『・・・ねえ、日向』
『・・・あのね、ひより』
日向と、重ねて声を掛けた。
「先にいいよ、日向」
「いや、ひよりも言うことがあるんでしょう?先にいいよ〜」
う〜ん、なんかムズムズする・・・
「・・・日向はさ、山に登る時ってさ」
「うん」
「その・・・一人で登るのが好きなのかな〜って思ってね・・・あはは」
『え?』と日向は、驚いた顔をした。
「んなわけ・・・」
「・・・ごめん、日向の気も知らないで・・・」
『そうだよね・・・』と小声で呟く。
「私はね、ひよりと登るの・・・好きだよ」
「ーーえ?」
「ひよりはどうなの?登って楽しい?」
「・・・キャンプもいいけど、登山も・・・好きだよ」
「・・・ひより」
「ねえ、私。考えてたんだけど・・・日向と、いろんな山に行きたいな・・・って思った。だからね?」
「・・・富士山とか、剣岳。後は景色のいい山に登りたいな・・・って思ってるんだけど・・・」
自然と決まった答えが口から出た。
「行く!私も・・・」
「そっか・・・!」
「・・・ありがと。登山って危険な事だってわかってはいるんだけど、お母さんに『駄目』って言われて・・・」日向が後頭部を左肩に軽く乗せて『私も、同じだったな・・・最初こそは、お父さんとお母さんに猛反対されたっけ・・・』と弱々しく言った。
「・・・でも、初めてからはきつくて怪我も挫折もしたりしたけど・・・結局、登りたくなるんだ〜」
「私もね、お母さんにキャンプするの猛反対されたんだ」
「ーーそうなの?」
「うん。 お姉ちゃんに『どうしたら、お姉ちゃんみたいに趣味をしてられるの?』って言ったらね」
「ひよりのお姉さんの趣味って?」
「キャンプ・・・だった」
「ーーえ?」
『だった』って・・・
「お姉ちゃんはね、クマに襲われて・・・軽症で済んだんだけど・・・後遺症が残っちゃったんだ」
「・・・後遺症?」
「うん。『動物恐怖症』って病気」
「それって・・・」
「特定の動物に恐怖を感じる病気」
「その病気の影響で、黒くて大きなものを見ると体が動かなくなるのと、呼吸が荒くなるんだ」
「その時に、キャンプ道具を貰ったんだ・・・誕生日に」
「・・・そうなんだ」
「そこから、私はキャンプを始めたんだ」
「そっか・・・」
なんだか私達って・・・
「似た者同士・・・だね」
「全くだよ・・・でも、悪くない」
「たしかに・・・」
日向との会話は、つまらなくて早くすぎるのを待つ用な感じではなく・・・もっと聞きたいと思える。似たような、境遇だからかな?
『さってと・・・』と、日向がローチェアから立ち上がる。
「ねえ、ひより」「・・・ん?」
「こっち側に来て!」
元気な声で、私を呼ぶ。もう・・・こっちは、初登山なんだから・・・でも
「こういうのも・・・悪くないな」
「ひ〜よ〜り〜!」
「あ〜もう!わかったから・・・!」
ザックをローチェアに乗せて日向の方に歩み寄る。
「・・・わあ!」
綺麗・・・
日向の言ってた通り『来てよかった』って心の底から思える。
「・・・日向の山に登る理由が少しわかった気がする」
「ーーえ」
「だってさ、自分で苦労して登った分・・・それだけの景色が待ってるんだって」
「確かに・・・ひよりの言ってるとおり」
「んでもさ、登山する理由なんて今はなくてもさ・・・勝手についてくるものなんだよ」
「そうなの?」
「例えばね、『目標の山に行きたい』とか『山でいい思い出をたくさん作る』とか・・・そんなんでいいんだよ」無邪気に笑う彼女は『そろそろ、次の山に行こう?』と首を傾げながら言う。
「そっか・・・今は、冠ヶ岳だったね」
「少し来た道を戻るよ〜」
「え゙?」
戻るの?
「少し戻って、右に進むと次の山『神山』だよ〜」
「ローチェア片付けたら行こう!」
『ああ、そうだ』と日向はなにか思い出したかのように言った。
「今日、下山したら・・・ひよりと同じキャンプ場に行くことになってるんだ〜」
「テントとかは?」
「一応、買ったよ〜?」
「どんな形なの〜?」
「へへ、キャンプ場に着いてからの・・・お・た・の・し・み!」
「むう〜せめて、種類は?」
「それも、着いてからのお楽しみ!」
まあ・・・いいか。
「因みに『箱根山』ってね、静岡と神奈川をまたがる火山の総称らしいよ」
「そうなんだね〜」
じゃあ、今から登る『神山』って・・・
「箱根町は実質、カルデラ火山からできた所なんだって〜」
「ほへ〜箱根って、知れば知るほど奥が深い・・・」
しばらく登山道を歩って道標まで戻ってきた。
「んじゃ、ここから右だよ」
「・・・ねえ日向」
「どうしたの?」
「・・・やっぱりなんでもない」
「?」
まあ、いいか。
「足・・・疲れてきた?」
「・・・あし?」
「うん」
「そこまでは・・・」
どうして、足が痛いかって聞くんだろう・・・いつもロードバイクで乗り回してるからかな?
「・・・わぁ!」
「ちょっと・・・大丈夫?」
「うん・・・」
きちんと足元とか見ながら歩かないと・・・顔を上げた時、青い空・・・雲が横切り、そして・・・白い山が見えた。
「・・・わあ!」
「ん、どうしたの?」
「後ろ!」
「ん〜? ホントだ!」
「日向、あの白い山は?」
「富士山」
「へえ〜!」
「ちょうど、雪が積もってるんだ」
「ゆき・・・え、雪!?」
「そう。因みに富士山はね〜8月なのにもかかわらず、雪が降った年もあるらしいよ〜」
「そ、そうなんだ・・・」
「まあ、山には『登山シーズン』があるんだけど、山によっては『開山期間』っていう登る期間が決まってる山もあるんだ〜!」
「なにその気まぐれ〜」
なんかそれって・・・面白い!
「お、もう少しで山頂だね!」
「どれくらいで着くの〜?」
『ねえ』と日向は、一つ声を落として聞く。
「なぁに?」
「登山ってさ、自分のペースを守って歩くのもそうだけど・・・」
「?」
「あとどれぐらい?って気にするとさ・・・いつまで経っても着かないんだよ。だからね、あんまり考えずに登るのがいいんだ」
「そうなんだ・・・」
「お、山頂だよ!」
「山頂?」
・・・見えるの?
「・・・お菓子、食べよっか」
「ねえ、日向」
「ん、なに?」
もぐもぐと、チョコを食べながら聞く。
「どうして、登山靴の方が良いの?」
自分の登山靴を指しながら聞く。
「どうして・・・かあ」
「うん」
「・・・スニーカーで登ったとして、岩場でつま先をぶつけるとどうなると思う?」
「どうなるの?」
「血だらけになって、怪我のリスクがすごく高くなる。例えば・・・」
「・・・捻挫?」
「そう。捻挫もあるけど・・・凍傷の危険があるんだ。濡れたスニーカーで登山をすると・・・ね」
「登山に必要なものってたくさんあるんだね・・・」
『ふふ・・・あはは』と日向は笑う。なによ・・・間違えたことなんて言った覚えはないのに・・・
「ひよりがそれ言う?」
「むう・・・なんで笑うの?」
「キャンプも、お金のかかる趣味でしょ」
「あ・・・確かに」
「ふふ・・・」
「「あははは・・・!」」
こうして、誰かと笑うのって久しぶりかも・・・
「さあ、行こう!」「そうだね。山頂はすぐそこだよ!」なんか、こうして誰かと登るの・・・いいかも。
「ひより!」
「なに?」
「山頂だよ」
普段、見上げる事しかできなかった山どんな景色が待ってるんだろう・・・
『ひより?』と心配されている声で聞かれる。
「あ・・・今行く!」
確かに、山に登るのは少し怖いけど・・・その代わりに、いい景色が待ってるんだ。私の山に登る理由・・・それは、いい景色を見たいのもある・・・けど、山に登る辛さを知りたい。
「山頂に・・・着いた!」
「よくやるじゃん、ひより!」
「なによ・・・でも、ありがと」
「何に対して?」
「山に誘ってくれて」
「うん」
「楽しい趣味、見つけられたね!」
「そうだね!」
「そんじゃ、次はどこに登ろっか?」
「つぎの?」
「そう。山に登る勢いはきっと・・・これから先も無くしちゃいけないから」
「そうだね・・・」
「ひより」
「どうしたの?」
「景色・・・綺麗だね!」
「写真取ろう!」
「え・・・わかったよ、撮ろう・・・写真」
忘れられない初登山の思い出。最初はきつかったけど・・・いい景色を見れて・・・良かった
「少し休憩して、下山しよ」
「わかった」
記事編集/note
執筆者・旅に行きたい人
山登りとキャンプ @panmnzuki2024
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