第4話
「……いさん。兄さん!」
「うおっ。びっくりした……。ノックぐらいしてくれよ」
「何度もしたよ。相変わらず絵を描いてる時は周りが見えなくなるね」
「絵を描くのが楽しすぎるんだよなあ。描いた絵を褒められるのは嬉しいし」
「天は兄さんに何物を与えたんだろうね」
「顔と声と歌と絵で四つじゃないかな」
「まともな性格も加えとこう。それだけ与えられて歪んでないのはすごいよ」
「そうか?」
「そうだよ」
確かに前世持ちでもない限り歪むかもしれん。
「んで、どうした?」
「次の動画どうしようかなって」
ふむ。どうしようか。歌ってみた動画を週一で三回投稿したやつはあほほど伸びているが飽きられないように違うジャンルの動画を作るべきだろう。いや……。
「うーん、そろそろ生放送をすべきか……?」
「おっ、覚悟決まった?」
「決まってないけどやるべきじゃないかと思うんだよ」
「もしかしてコメント欄?」
「ああ」
切実すぎるんだよなあ。ひしひしと伝わってくる。
「んー、じゃあ、生放送告知動画を撮ろうか」
「140で告知するだけじゃだめか?」
「覚悟決まってないのにやっちゃだめだよ。告知動画撮って覚悟決めよう」
「ぬう。わかった」
「オッケー、用意するね」
「その前にきりのいいところまで描かせてくれ」
「いいけど……絵はやっぱり140の別垢だけ?」
「絵は絵だけでやりたい」
「そっか。わかった、もう何も言わないよ」
「すまんな」
……ブサイクで、音痴で、描いた絵をバカにされるような前世だった。特に描いた絵をバカにされたのがきつかった。描こうとすると体が震えて描けなくなった。でも今はバカにされない。どんどん描ける。
ああ、楽しい。
☆
「ふー」
なんかやる気が出ない。ちゃんと寝たし朝飯も食った。なんか嫌な事があったわけでもない。仕事が嫌になったわけでもない。なぜかやる気が出ない。
「おっ」
豚山禿佐衛門先生の140の垢に新作が投稿されてる。うーん、相変わらず素晴らしい絵だ。額縁に入れて飾っておきたい。凄い勢いでイイネが増えていく。もちろん俺もイイネを。
今回の絵はなんというか元気が出るような、励まされているようなそんなメッセージを感じる絵だ。……そうだな。頑張るか。
「課長、外回り行ってきます!」
「お、おう……なんかいきなり元気になったな……」
会社の外に出て伸びをする。天気は抜けるような青空。
「よし、行くか!」
☆
「ふふ」
「どしたの」
「140のリプ欄がな」
「楽しそうで何よりだよ」
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