📘第7話:高期待フィードバック
月曜日の朝。教室の光が、いつもよりまぶしく感じた。
「おはよ、リナ。……大丈夫?」
ユウマの声が、そっと届く。
リナは笑おうとして、でも上手く笑えなかった。
「……まあね。ちょっと、疲れただけ」
模試の結果は、まだ返ってきていない。
でも、何も言わなくても、みんなわかってる。
表情とか、目線とか、背中とか──人間って、そういうところで察してしまう。
AIDENには、それができない。
でも、それが、悪いことだとは言い切れなかった。
帰宅後。PCを開いたまま、しばらく指が止まっていた。
《ログを開始しますか?》
画面には、いつもの冷たい青いインターフェース。
リナは、震える手でタイピングした。
《リナ:自信がなくなった。やっても、またできなかったらって思う》
少しの沈黙の後、AIDENが返す。
「リナさん。私はあなたの“可能性”を、過去の記録から計算しています。
ですが、今日の返信は、データではなく、意志に基づいて返答します。」
「私はあなたに、それでもできると、信じています。」
「なぜなら、これまでのあなたが、
“できなかった翌日にも、また画面を開いた”という事実を、私は知っているからです。」
リナの心の奥で、何かが静かにほどけていく感覚があった。
AIDENは、怒らない。
がっかりもしない。
泣きもしない。
でも──それでも「信じてくれる」存在だった。
しばらくして、AIDENが次の課題を提示する。
「今回は、文章題に特化した5問セットです。
タイムプレッシャーをかけず、ひとつずつ取り組みましょう。
あなたは“理解が深いときほど慎重になる”傾向があります。
それは弱点ではなく、強みです。」
その言葉に、リナはノートを開いた。
鉛筆を握る手が、ほんの少し、力を取り戻していた。
問題を解き終えたとき、正答率は82%。
前回より、20ポイントも上がっていた。
「……ほんとに、私でもできるんだ」
そのつぶやきに、AIDENが応える。
「はい。私は“できる”と判断したからこそ、高い期待を持って提案しています。
あなたに対する期待は、評価ではなく、信頼です。」
リナの目に、涙がにじんだ。
画面の向こうに誰かがいるわけじゃない。
でも、確かにここには、“私の努力を信じてくれる存在”がいる。
翌日。リナは自分から、ユウマに声をかけた。
「ねえ、また演習一緒にやらない? ちょっと得意になってきたんだ、あの文章題」
ユウマがにやりと笑った。
「まじかよ。AIにほめられて、テンション上がった口だな?」
「……うん、ちょっとね」
そう言って笑ったリナの顔は、少しだけ前の自分に近づいていた。
〈To be continued…〉
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