📘第5話:教室での公開ディベート
「というわけで、来週からこのクラスに、AIチューターAIDENを導入することになりました」
月曜のホームルーム。
担任の山本先生が、いつもの穏やかな口調でそう告げたとき、教室にざわめきが走った。
「マジで? AIって、あのAIDEN?」
「なんか怖くね? 全部記録されるんでしょ?」
「でも、成績上がるなら良くない?」
隣でユウマがリナに小声で言う。
「リナ、あれって先生のポジションとっちゃう感じしない?」
「……ううん。むしろ、先生が提案したんだよ」
「へぇ、変わってるな」
リナは少し、胸がざわついた。
AIDENは今、たしかに自分を支えてくれている。
でも、その一方で、「人間の先生」と「機械の先生」の違いを、どう言葉にしていいかわからなかった。
そして迎えた水曜日。
山本先生は、教卓の前にノートPCを置き、こう言った。
「今日は特別授業として、“AIと人間の教師、どちらがいいか”をテーマに公開ディベートをします。
賛成・反対、どちらの立場でもOKです。遠慮なく意見をください」
画面には、AIDENの顔アイコンが表示されていた。
リアルタイムで教室に接続されているという。
最初に立ち上がったのは、クラスの委員長だった。
「AIの方が、個別に対応できるし、説明もくわしい。
どんな質問にも答えてくれる。正直、人間の先生より精度が高いと思う」
数人がうなずいた。
対して、前列のカナが手を挙げる。
「でも、“わかったふり”してるときって、AIは見抜けないんじゃない?
顔色とか、雰囲気とか……そういうのを感じ取ってくれるのって、人間の先生だと思う」
「AIDEN、反論はありますか?」
山本先生が促すと、AIDENの声がスピーカーから流れた。
「ご指摘ありがとうございます。
現在の私は視覚情報を持ちません。
しかし、過去の音声トーン、キーストローク速度、正答パターンから“迷いの兆候”を検出できます。
加えて、私には“疲れても怒らない”という特性があります」
一瞬、教室が静まり返る。
たしかに──AIは、いつでも、だれにでも、平等に応えてくれる。
だけど、それは本当に“教える”ってことなの?
議論が白熱し、山本先生が静かに口を開いた。
「AIは、すばらしいツールです。
でも、私は、君たちが“問い”を持てるようになることが大切だと思ってる。
教えることと、学ばせることは、似ているようで違うからね」
リナの胸に、その言葉が残った。
AIDENはたしかに、答えをくれる。
でも、「自分で問いを持つ」ことは、自分にしかできない。
放課後、彼女はひとり、ノートを開いた。
ページの上に、こんな言葉を書いてみる。
「AIDENは、わたしの“先生”なのか?」
その問いに、まだ答えはない。
でも、考えること自体が、もうすでに学びなのかもしれないと思った。
〈To be continued…〉
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