第20話

 あたしの家族はちょっと変だ。

 あたしの家族っていうか、パパ、だけかもだけど。


 パパは、ママの言いなりだ。


 ママが笑ってって言ったら笑う。

 ママが泣いてって言ったら泣く。


 そんなレベルでママの言いなり。

 言いなりって言っていいのかも分かんないくらい。

 実は人間そっくりのロボットなんだよって言われた方が、まだ納得できるくらいの人だった。


 最優先はママだけど、あたしの言うことも聞いてくれる。

 何も言わなかったら黙ったまま、直立不動で部屋の隅に立っている。


 どこのパパもそうなのかと思ってた。

 でも、遊びに行ったおうちであたしを迎えてくれた友達のパパは、ママに言われなくてもいろんなことをしてた。

 誰に言われなくても「よく来たね」って笑って、「お菓子食べる?」ってお茶とお菓子を持ってきてくれて、一緒に遊んでくれたりもして。


 無表情で部屋の隅に立ちっぱなしなんて時間は一瞬もなくて、あたしはパパの休みの日に友達を家に呼ばないって決めた。


「ねえママ。なんでうちのパパは何か言わないと動いてくれないの?」

「ん~? むかぁし、ちょっと頑張らせすぎちゃったんだよねぇ」

「ふぅん」


 心の病気とか、そういうやつなんだろうか。


 昔の話をするときのママは、ちょっと苦手。

 あたしのこと、見てるのに見てないみたいな目をするから。

 小学校の図書室から『学校の怪談』って怖いお話の本を借りて帰った時もおんなじ目をしてたけど。なんなんだろう。


「ゆーちゃん、学校楽しい?」

「うん、楽しいよ」

「好きな子とか、嫌いな子とかいる?」

「ん~……さきちゃんは好き。嫌いな子は、いないかな」

「そっかそっかあ」


 ママはうんうんとうなずいて、ご飯の用意をしにキッチンへ行った。エプロンをしながら、ぼそっとつぶやく。


「嫌いな子ができても、呪ったらダメだよ」

「え? なに?」


 何を言われたのかと考えた瞬間、ズキッと頭が痛くなった。


 わすれている。あたしは。だいじななにかを。


「ううん。ずぅっとあたしの可愛いゆーちゃんでいてね。大好きだよ」

「変なママ。あたしも大好きだよ」

「んふふ」


 あたしの家族はちょっと変だ。

 パパも、やっぱりママも、ちょっと変。


 そして、あたしも。


(ママの後ろにいる裸のおじいさんは、誰なんだろうなあ)


 目が合うといつも『シーッ』って言うみたいに口の前に指を立てるおじいさん。その顔に見覚えがある気がするのも、なんだか気持ちが悪かった。




【呪い呪われ回る矢印・完】

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