交錯するラブコメ
+プッチ
私以外、全員了承済みなんだけど!
冬の午後、空は淡く染まり始めていて、吐く息が白くなるほど冷えていた。
駅のホームで手をこすり合わせながら、私は蒼真からのメッセージを見返す。
『駅前集合ね。今日はご飯行こう! 楽しいと思うから!』
(……何このふんわり感)
最初は「寒いしご飯食べに行こう」って言われただけ。何人か来るらしいと聞いたのは昨日の夜。それも、「まぁまぁ、陽菜なら楽しめるって」と、いつもの調子でかわされた。
(いや、場所もメンツも何も聞いてないんだけど……)
駅で合流した蒼真に連れられて電車を乗り継ぎ、そこそこ時間をかけてたどり着いた住宅街へ。着いたのは、整った庭とレンガの外壁が印象的な一軒家。
「え、ここ? レストランじゃないの?」
「んー、そういうジャンル?」
(曖昧すぎる!)
住宅街のど真ん中にレストランなんてあるはずもなく。人んちっぽい門をくぐっている自分にツッコミを入れつつ、私はもやもやしたまま玄関を開けた。
◆
(……は?)
白を基調としたリビングに入った瞬間、視界が一気にカラフルになる。
ツリー風に盛られたサラダ、照り焼きチキンの盛り合わせ、星型のピックが刺さったミニキッシュ、リース型に並べられたポテトサラダ。どれも手が込んでいて、それでいて取りやすく、しゃべりながらでもつまめるような軽食ばかり。テーブルの中央には、ホットプレートの上で温かさを保たれたロースト野菜の盛り合わせまであった。
完全にクリスマス仕様じゃん。まだ12月入ったばっかだよね?
「……蒼真?」
「わあ、陽菜ちゃんだ~! 来てくれてありがと! ココアあるよ、シナモン入り~」
元気に出迎えたのは、そっくりすぎる双子の片割れ。
「いやそうじゃなくて! 何これ!? てかここ誰の家!?」
「“ご飯行こう”って言ったよ? なに焦ってんの~」
(焦るわ! これのどこが“ご飯”の範囲内なの!?)
部屋の中には、私以外の数人がもう集まっていた。 双子のもう片方はチーズを刺しながらツリーサラダと格闘中。 エプロン姿の女の子がテーブルセッティングを仕切っている。 ソファに座っていた男子がひとり。特に話しているわけでもないのに、周囲を静かに見渡していて、どこか落ち着いた空気をまとっている。
(……誰?)
その横では、別の男の子が紙皿を並べていた。手際よく、淡々と。
「兄さん、それ逆さですよ」
エプロン姿の子がさらっと注意すると、「……あ、ごめん」と照れたように返す。
(兄ってことは……家族!? ていうか、ほんとにここ誰の家!?)
視線を交わすたびに、知らない人の多さに動揺する。
(ていうか、今ここにいる人たち、全員知り合い? 私だけポツン??)
静かに座っていた男子は、周囲のテンションの高さに一歩引きつつ、それでもちゃんと笑っていた。
(……たぶん、この人が一番まとも)
なんとなく空気読めるタイプっぽい。けど名前も立場もわからない。私の知ってる“ご飯行こう”じゃない。
(完全に、場違いじゃん……)
「あの、すみません。これ、何の集まり?」
勇気を出して聞いたその瞬間――
「あー!」「あー!」
双子が、同時に変な顔をして声を上げた。
「……え、陽菜ちゃんに何も言ってないの?」
「まーた、ひなっこの“まぁまぁ作戦”だ~!」
……ひなっこ? 誰? っていうかそれ蒼真のこと!? なんでそんな名前で呼ばれてんの!?
(ちょっと待って、情報量多すぎるんだけど!?)
「ちょっと! 蒼真!!」
「いやいや、集まりがあるってことは言ったでしょ?」
「“ご飯食べよう”だけで情報伝えた気になるな!!!」
「まぁまぁまぁ……ね? 美味しいから、まず食べよ?」
こっちはまだ混乱してるのに、全員すでにココア片手に乾杯ムード。
(……なにこの空気。こっちはまだ状況理解してないんだけど!?)
私が固まっている間にも、蒼真は「さ、座って座って!」と当然のように私の背中を押してくる。
ココアの香り、笑い声、テーブルを囲む輪。知らない人ばかりなのに、場の空気だけはやけにあたたかい。
(……もう、こうなったら流されるしかないか)
小さく息を吐いて、私は空いていた席に腰を下ろした。
目の前には、ごちそうがきれいに並んだテーブル。隣には双子のどちらかが、ミニキッシュをフォークでつつきながらニコニコしている。
(……ほんと、何なのこの集まり)
でもたぶん、きっと――今日も私は、叫ばされる。
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