交錯するラブコメ

+プッチ

私以外、全員了承済みなんだけど!

 冬の午後、空は淡く染まり始めていて、吐く息が白くなるほど冷えていた。


 駅のホームで手をこすり合わせながら、私は蒼真からのメッセージを見返す。


『駅前集合ね。今日はご飯行こう! 楽しいと思うから!』


(……何このふんわり感)


 最初は「寒いしご飯食べに行こう」って言われただけ。何人か来るらしいと聞いたのは昨日の夜。それも、「まぁまぁ、陽菜なら楽しめるって」と、いつもの調子でかわされた。


(いや、場所もメンツも何も聞いてないんだけど……)


 駅で合流した蒼真に連れられて電車を乗り継ぎ、そこそこ時間をかけてたどり着いた住宅街へ。着いたのは、整った庭とレンガの外壁が印象的な一軒家。


「え、ここ? レストランじゃないの?」


「んー、そういうジャンル?」


(曖昧すぎる!)


 住宅街のど真ん中にレストランなんてあるはずもなく。人んちっぽい門をくぐっている自分にツッコミを入れつつ、私はもやもやしたまま玄関を開けた。



(……は?)


 白を基調としたリビングに入った瞬間、視界が一気にカラフルになる。

 ツリー風に盛られたサラダ、照り焼きチキンの盛り合わせ、星型のピックが刺さったミニキッシュ、リース型に並べられたポテトサラダ。どれも手が込んでいて、それでいて取りやすく、しゃべりながらでもつまめるような軽食ばかり。テーブルの中央には、ホットプレートの上で温かさを保たれたロースト野菜の盛り合わせまであった。


 完全にクリスマス仕様じゃん。まだ12月入ったばっかだよね?


「……蒼真?」


「わあ、陽菜ちゃんだ~! 来てくれてありがと! ココアあるよ、シナモン入り~」


 元気に出迎えたのは、そっくりすぎる双子の片割れ。


「いやそうじゃなくて! 何これ!? てかここ誰の家!?」


「“ご飯行こう”って言ったよ? なに焦ってんの~」


(焦るわ! これのどこが“ご飯”の範囲内なの!?)


 部屋の中には、私以外の数人がもう集まっていた。  双子のもう片方はチーズを刺しながらツリーサラダと格闘中。  エプロン姿の女の子がテーブルセッティングを仕切っている。  ソファに座っていた男子がひとり。特に話しているわけでもないのに、周囲を静かに見渡していて、どこか落ち着いた空気をまとっている。


(……誰?)


 その横では、別の男の子が紙皿を並べていた。手際よく、淡々と。

「兄さん、それ逆さですよ」

 エプロン姿の子がさらっと注意すると、「……あ、ごめん」と照れたように返す。


(兄ってことは……家族!? ていうか、ほんとにここ誰の家!?)


 視線を交わすたびに、知らない人の多さに動揺する。

(ていうか、今ここにいる人たち、全員知り合い? 私だけポツン??)


 静かに座っていた男子は、周囲のテンションの高さに一歩引きつつ、それでもちゃんと笑っていた。

(……たぶん、この人が一番まとも)


 なんとなく空気読めるタイプっぽい。けど名前も立場もわからない。私の知ってる“ご飯行こう”じゃない。


(完全に、場違いじゃん……)


「あの、すみません。これ、何の集まり?」


 勇気を出して聞いたその瞬間――


「あー!」「あー!」


 双子が、同時に変な顔をして声を上げた。


「……え、陽菜ちゃんに何も言ってないの?」

「まーた、ひなっこの“まぁまぁ作戦”だ~!」


 ……ひなっこ? 誰? っていうかそれ蒼真のこと!? なんでそんな名前で呼ばれてんの!?

(ちょっと待って、情報量多すぎるんだけど!?)


「ちょっと! 蒼真!!」


「いやいや、集まりがあるってことは言ったでしょ?」


「“ご飯食べよう”だけで情報伝えた気になるな!!!」


「まぁまぁまぁ……ね? 美味しいから、まず食べよ?」


 こっちはまだ混乱してるのに、全員すでにココア片手に乾杯ムード。

(……なにこの空気。こっちはまだ状況理解してないんだけど!?)


 私が固まっている間にも、蒼真は「さ、座って座って!」と当然のように私の背中を押してくる。

 ココアの香り、笑い声、テーブルを囲む輪。知らない人ばかりなのに、場の空気だけはやけにあたたかい。


(……もう、こうなったら流されるしかないか)


 小さく息を吐いて、私は空いていた席に腰を下ろした。

 目の前には、ごちそうがきれいに並んだテーブル。隣には双子のどちらかが、ミニキッシュをフォークでつつきながらニコニコしている。


(……ほんと、何なのこの集まり)


 でもたぶん、きっと――今日も私は、叫ばされる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る