『俺達のグレートなキャンプ33 巨大オムレツ(100kg)クッキング』

海山純平

第33話 巨大オムレツ(100kg)クッキング

俺達のグレートなキャンプ33 巨大オムレツ(100kg)クッキング


第1章 奇抜なキャンプの始まり

五月のさわやかな風が吹き抜ける富士五湖近くのキャンプ場。澄んだ青空の下、一台のワゴン車が砂利を踏みしめながら入ってきた。

「着いたぞー!」と運転席から飛び出してきたのは石川だった。両手を大きく広げ、深呼吸をする。「うおー!最高の週末キャンプ日和じゃねぇか!」

後部座席からゆっくりと降りてきた富山は、疲れた表情で車の荷物を確認しながら首を振る。「石川、今回も何か企んでるでしょ。さっきからニヤニヤが止まらないじゃない」

「いやー、今回はマジですげえことを思いついたんだ!」石川はポケットからスマホを取り出し、何かを見せようとする。

助手席から元気よく降りてきた千葉が石川に駆け寄る。「何?何?今回のグレートキャンプは何やるの?」千葉の目は好奇心でキラキラと輝いていた。

「まずはテント設営だろ」と富山は実用的な方向に話を持っていこうとする。

「いや、待て待て!」石川が両手を振る。「今回のキャンプのメインイベントを先に発表させてくれ!」

富山は大きなため息をつく。「どうせまた突拍子もないことでしょ」

「正解!」石川が胸を張る。「今回のグレートキャンプのテーマは…」

石川はドラムロールをイメージした効果音を口で鳴らしながら、「ジャジャーン!巨大オムレツ100kg調理だぁぁぁ!」

「え?」富山の顔が引きつる。

「おおー!」千葉は目を輝かせる。「100kgのオムレツ!?すげえじゃん!」

「だろ?だろ?」石川は千葉とハイタッチをする。「この前ネットで見たんだよ。スペインでは何百人もの村人が集まって巨大パエリア作るんだってさ。それにインスパイアされて、俺たちも巨大料理に挑戦してみようと思ってな!」

富山は頭を抱える。「待って待って、100kgって...どうやって作るの?そもそも材料は?」

「全部計算済みだ!」石川はスマホを見せる。「卵は300個、じゃがいも30kg、玉ねぎ15kg、ベーコン15kg、チーズ10kg、バター5kg、牛乳10リットル、調味料諸々...」

「それ全部持ってきたの?」富山が驚く。

「もちろん!」石川は誇らしげに車の荷台を指さす。「後ろに全部積んである!」

富山がワゴン車の後ろを確認すると、確かに大量の食材が詰まった保冷ボックスが積み重なっていた。

「あのさ…」富山が眉をひそめる。「でも、どうやって調理するの?そんな大きなフライパンなんてないでしょ?」

石川はニヤリと笑う。「それがだな…」

第2章 巨大調理の重労働

キャンプ場の一角、石川たちのサイトには既にテントが三つ設営されていた。石川はテントの横に広げた青いブルーシートの上で、なにやら作業をしていた。

「みんな集まれー!」石川が大声で呼ぶ。

富山と千葉がブルーシートの周りに集まる。そこには奇妙な円形の金属製のものが置かれていた。

「これは…」千葉が首をかしげる。

「衛星放送のパラボラアンテナ?」富山が疑問を投げかける。

「違うよ!」石川が得意げに笑う。「これは俺が特注した巨大鉄板だ!直径1.5メートル、厚さ1.5センチの特殊コーティング鉄板!」

「えぇっ!?」富山が驚く。「これ持ってきたの?どうやって?」

「この鉄板は八つに分かれるんだ」石川は鉄板の継ぎ目を指差す。「組み立て式にしてあるから、車に積んで持ってこれた。下には強力な五つのガスバーナーを置いて熱する」

「さすが石川!」千葉が感心する。「考えることが違うよな!」

「でも、それを使って本当に100kgのオムレツが作れるの?」富山は不安げに尋ねる。

「大丈夫だって!」石川は胸を叩く。「ちゃんと計算してある。まずは鉄板の下にブロックを置いて高さを調整して、その下にバーナーを設置する。そして材料を順番に投入していく。最後はみんなで巨大ヘラを使って一気にひっくり返す!」

「ひっくり返すの!?」富山が驚く。「無理でしょ!100kgだよ?」

「だから特製の巨大ヘラも作ったんだよ!」石川は長さ2メートルほどの特大の木製ヘラを取り出す。「これを使えば三人がかりでひっくり返せるはず!」

「すげぇ!」千葉は目を輝かせる。「石川、アイデアも行動力も凄すぎる!」

富山は半ば諦めた表情で首を振る。「もう…止められないのね」

「さぁ、材料の下ごしらえを始めるぞ!」石川は指揮を執る。「千葉、玉ねぎとじゃがいもの皮むき担当!富山、卵割り担当!一人100個ずつだ!」

「一人100個!?」富山が叫ぶ。

「よーし、任せろ!」千葉は両手の拳を握りしめる。

周りのキャンプ場の人々が、何やら大がかりな準備をしている三人組に興味津々の視線を向けていた。


「はぁ…はぁ…」富山は肩で息をしながら、50個目の卵を割った。「もう、腕が上がらないよ…」

巨大なバケツの前に座り込み、次々と卵を割り続ける富山。既に彼女の腕は筋肉痛で震え始めていた。右手に持った卵を割るたびに、小さな殻が指に食い込み、わずかに血が滲んでいる。それでも彼女は黙々と作業を続けた。

「まだ半分か…」富山はため息をつく。

一方、千葉はキャンプサイトの隅で山のように積まれたじゃがいもと格闘していた。両手には皮むき器を握り、額には汗が滝のように流れ落ちている。

「13kg...やっと半分近く…」千葉は目を潤ませながら呟く。指には既に水ぶくれができ始め、手首は繰り返し動作で痛みを訴えていた。彼の横には既に小山のようになったじゃがいもの皮の山があった。

「次は玉ねぎか…」千葉は既に涙目になっている。彼は勇気を出して最初の玉ねぎに包丁を入れると、即座に目が染みはじめた。「うっ…くっ…」千葉は涙を流しながらも作業を続ける。

最も大変なのは石川だった。彼は一人で15kgのベーコンを1cm角に切る作業に取り組んでいた。

「まさか、こんなに時間がかかるとは…」石川は腕の痛みに耐えながら、無限に続くベーコン切りを続けた。腕の筋肉は既に悲鳴を上げ、包丁を握る手に力が入らなくなっていた。それでも彼は諦めない。「これぞ…グレートキャンプ…だ…!」

三時間後、三人はぐったりと地面に倒れ込んでいた。

「む、無理…もう動けない…」富山は天を仰ぎ、両腕をだらりと投げ出す。「300個も割ると、卵の黄身と白身が分離してるのか分からなくなってくるよ…」

「俺の指…もう感覚ない…」千葉は腫れ上がった指を見せる。「でも…玉ねぎとじゃがいも、全部むけたぞ!」

「よし!」石川は疲労困憊の表情ながらも立ち上がる。「これが本当の挑戦の始まりだ!鉄板を組み立てるぞ!」

三人は重い鉄板のパーツを運び、組み立て始めた。各パーツは20kgほどあり、運ぶだけで息が切れる。

「こっちのネジ…回して…」石川は呼吸を整えながら指示を出す。

「重い…」富山は腕の力が入らず、ネジを落としてしまう。「ごめん、もう一回…」

一枚一枚組み立てていく作業は、既に疲労困憊の三人には過酷すぎる労働だった。何度もネジを落とし、何度も力尽きて座り込み、それでも三人は諦めなかった。

「よし!完成だ!」石川は額の汗を拭う。完成した巨大鉄板は、太陽の光を反射して眩しいほどだ。

「次はバーナーの設置だ…」石川はふらつく足で重いガスバーナーを運び始める。

第3章 狂宴の調理タイム

「卵、全部割りましたー!」富山が大きなバケツを見せる。中には黄色い液体がたっぷりと入っている。彼女の両腕には赤い跡がつき、関節が腫れていた。

「玉ねぎとじゃがいもも完了!」千葉も報告する。山盛りになった野菜の横で、千葉は涙と汗でぐしょぐしょになっていた。「玉ねぎ、めっちゃ辛かった…指が…指が…」彼は自分の指を見て、既に感覚がなくなっていることに気づく。

「よし、準備完了だな!」石川は燃え上がるガスバーナーの炎を調整しながら言う。「まずはバターを溶かして…」

石川は5kgのバターを鉄板の上に放り投げた。バターは熱で溶け始め、香ばしい香りが辺りに広がる。

「うわぁ、いい匂い!」千葉が笑顔で言う。疲労で朦朧とした意識の中、バターの香りだけが彼を現実に引き戻していた。

「次に、玉ねぎとじゃがいもを炒めるぞ!」石川は大量の野菜を鉄板に投入する。「千葉、かき混ぜるの手伝って!」

石川は巨大ヘラを持ち、野菜をかき混ぜ始める。ヘラは想像以上に重く、石川の腕はすぐに悲鳴を上げた。

「うっ…重い…」石川はヘラを持ったまま腕を震わせる。「千葉、助けてくれ…」

千葉は急いでヘラに手を添える。二人がかりで野菜をかき混ぜ始めるが、その重労働ぶりに二人とも口から「はぁ、はぁ」と荒い息を漏らす。

「こ、これは…予想以上に…きついな…」石川は既に限界を感じていた。

「でも…やるしかない…よな!」千葉は歯を食いしばる。

シュワシュワという音と共に、野菜から水分が出て、鉄板の上でダンスを踊るように跳ねる。二人の顔に熱い油が飛び散り、小さな悲鳴が上がった。

「アチッ!熱っ!」千葉が顔を押さえる。

「これが…グレートキャンプの…洗礼だ…!」石川は目に入った油をこすりながらも諦めない。

周りのキャンプ場の人々が徐々に集まってきた。

「あのー、何作ってるんですか?」若いカップルが興味深そうに尋ねる。

「100kgの巨大オムレツですよ!」千葉が誇らしげに答える。その声は疲労で少し裏返っていた。

「え?100kg?」カップルはびっくりした表情を見せる。「すごい…大丈夫ですか?顔真っ赤ですよ」

「大丈夫…です…」石川は汗だくになりながら答える。

次々と野菜が透明になり、ベーコンも投入される。15kgのベーコンを一気に鉄板に落とした瞬間、猛烈な油の飛び散りが三人を襲った。

「うわああ!」三人は同時に叫ぶ。

富山は急いでタオルを取りに走るが、足がもつれて転びそうになる。疲労で筋肉が言うことを聞かなくなっていた。

「ベーコンが…暴れてる…!」石川は必死にヘラを動かす。その動作は既に鈍く、不規則になっていた。「千葉、右側を…頼む…!」

千葉は無言で頷き、全身の力を振り絞ってヘラを動かす。彼の顔は既に真っ赤で、髪は汗でびっしょりと濡れていた。

「見てください、あの人たち、すごい頑張ってる…」周りの観客からの声が聞こえる。

「これは…料理というより…格闘技だな…」別の見物人が呟いた。

ようやくベーコンが落ち着き、鉄板一面に広がったところで、石川は次の指示を出す。

「よし…次は…卵だ…!」石川は息も絶え絶えに言う。

富山が30kgの卵液の入ったバケツを持ってくるが、あまりの重さに足がガクガクと震える。

「こ、これ…一人じゃ…無理…」富山は悲鳴に近い声を上げる。

「俺が…手伝う…!」石川は富山のもとに駆け寄る。千葉も急いで駆けつけ、三人がかりでバケツを持ち上げる。

「せーの…!」石川の掛け声で、三人は力を振り絞ってバケツを傾ける。黄色い卵の海が鉄板に流れ込む。

「うわあ…」三人は感嘆の声を上げる。

しかし、予想外のことが起きた。卵液が予想以上に流動的で、鉄板の端からあふれ出し始めたのだ。

「あ、やばい!」石川が叫ぶ。「端から流れ出てる!」

「言ったでしょ!」富山が慌てる。「どうするの?」

「大丈夫、大丈夫!」石川は落ち着いた風を装いながらも、明らかに焦っている。「千葉、予備のアルミホイルを持ってきて!鉄板の周りを囲うんだ!」

千葉は急いでアルミホイルを取りに走る。足が痺れて何度もつまずきながらも、彼は必死にアルミホイルを持って戻ってきた。

その間にも、卵液は徐々に広がり、鉄板の下のブロックまで流れてきた。

「あ、バーナーに卵が…!」富山が指をさす。

「うわっ!」石川が驚く。一部の卵液がバーナーに触れ、炎が不安定になり始めた。

周りのキャンパーたちが心配そうな顔をする。中には子供の手を引いて離れていく家族もいる。

「みんな落ち着いて!」石川は大声で言う。「ちょっとしたハプニングだけど、これも含めてグレートなキャンプ体験だ!」

石川の顔は疲労と熱で真っ赤に染まり、声は既にかすれていた。それでも彼の目は異様な輝きを放っている。疲労の極限が生み出す一種のハイテンション状態だった。

第4章 キャンプ場の人々との狂乱の共闘

「こりゃあ大変なことになってるな」髭面の中年男性が近づいてきた。「俺、隣のサイトの山田だけど、手伝おうか?」

「ありがとうございます!」石川が目を輝かせる。「実は100kgのオムレツを作ろうとしたんですが、ちょっと計算が甘くて…」

「なるほど」山田さんは頷く。「なら、こうしよう。俺たちのサイトの鉄板も持ってきて、卵液を分散させよう」

「それいいですね!」千葉が賛同する。彼の声は高く裏返り、普段とは明らかに違うテンションだった。疲労の極みが生み出した一種の錯乱状態。「鉄板メンバー!アッセンブル!」突然、千葉はスーパーヒーロー映画のような台詞を叫んだ。

富山は千葉を心配そうに見る。「千葉、大丈夫?ちょっと変だよ…」

「俺は…最高に元気だぜ!」千葉は不自然な笑顔を浮かべる。「これが…グレートキャンプの真髄…!」

山田さんは自分のキャンプサイトに戻り、仲間を連れてくる。彼らは中型の鉄板を何枚か持ってきた。

「あの、私たちも手伝えますか?」先ほどのカップルも申し出る。「小さいけど、鉄板持ってます」

「ありがとう!」石川は感謝の意を示す。彼の目は既に焦点が合っておらず、笑顔が引きつっていた。「みんな…オムレツ仲間だ…!」

次々とキャンプ場の人々が集まり、それぞれの鉄板を持ち寄る。石川たちの巨大鉄板の周りに小さな鉄板が並び、溢れ出る卵液を受け止めていく。

「まるで…オムレツの惑星系だ…!」千葉は気が遠くなりそうな疲労の中、哲学的な発言を始めた。「中心に太陽のような巨大オムレツがあって、周りを惑星のように小さなオムレツが取り巻いている…なんて素晴らしい宇宙だ…!」

富山は千葉の額に手を当てる。「熱あるんじゃない?」

「俺の心は…燃えてるんだ…!」千葉は熱に浮かされたように叫ぶ。

石川も既に普通の状態ではなかった。彼は巨大ヘラを持ち、まるで指揮者のように振り回す。「みんな!チーズを投入するぞ!10kgのチーズの雨を降らせろ!」

周りのキャンパーたちは半ば呆れ、半ば感心しながらも、この狂乱の調理ショーに参加していく。

「オムレツ祭りだ!」山田さんが声を上げる。「俺たちのサイトからビールも持ってくるぞ!」

「いいねえ!」石川が叫ぶ。「これぞ…グレートキャンプの醍醐味…!」

こうして、一つの巨大オムレツを作る計画は、複数の鉄板で作る「巨大オムレツ祭り」へと変貌を遂げた。キャンプ場全体が一つの大きな祭りの場と化し、様々なサイズのオムレツが次々と完成していく。

石川、千葉、富山の三人は、もはや疲労の極限を超え、ある種の多幸感に包まれていた。汗びっしょりの服、真っ赤な顔、震える手足。それでも彼らの目は異様な輝きを放っていた。

「みんな!いよいよ…完成だ!」石川が叫ぶ。既に彼の声はかすれ、言葉が時々途切れる。「ここから…ひっくり返す…作業に入る…!」

第5章 完成!グレートオムレツフィーバー

「せーの!」石川、千葉、富山、そして山田さんの四人がかりで巨大ヘラを持ち、オムレツの端に滑り込ませる。

「重い…!」富山が悲鳴を上げる。

「ここだ…!」石川は全身を震わせながら力を込める。「いっちにっ、さんっ…!」

四人の力が合わさり、巨大オムレツがゆっくりと持ち上がる。鉄板の上で半分に折り畳まれた巨大オムレツの姿に、周りから歓声が上がる。

「やった…!」石川が叫ぶ。「これが…俺たちの…グレートオムレツだ…!」

中央の巨大オムレツに続き、周りの小さな鉄板のオムレツも次々と完成していく。キャンプ場全体がチーズと卵の香りに包まれ、みんなの顔に笑顔が戻ってきた。

「さあ、みんな!」石川は力の限り声を張り上げる。「いただきます!」

疲労困憊の三人は、地面に座り込むようにして、自分たちが作った巨大オムレツの一部を取り分けてもらう。

富山が最初の一口を口に運ぶ。「んん…!」彼女の目が大きく見開かれる。「美味しい…!こんなに…美味しいなんて…!」

千葉も一口食べる。「うわぁ…!」千葉の目に涙が溢れる。「こ、これは…天国の味…!」疲労で増幅された感覚が、オムレツの味を何倍にも感じさせていた。

石川はゆっくりとフォークを口に運ぶ。卵の黄色い部分がとろりと溶け出し、チーズが糸を引く。口に入れた瞬間、石川の表情が和らぐ。「これこそ…グレートキャンプの…真髄だ…」

キャンプ場全体でオムレツを頬張る人々。黄金色に輝くオムレツの断面からは、溶けたチーズがトロリと流れ出し、じゃがいもとベーコンの食感が絶妙に口の中で広がる。

「うまい!こんなうまいオムレツ食べたことない!」山田さんが叫ぶ。

「疲れた体に染み渡る…」別のキャンパーも感激の声を上げる。

石川、千葉、富山の三人は、もはや喋る力もなく、ただ黙々とオムレツを口に運び続ける。この上ない満足感と達成感が、彼らの極限の疲労を少しずつ癒していく。

「石川…」富山が小さな声で呼びかける。「今回のキャンプ、最高だよ…」

千葉も疲れた顔で笑顔を作る。「うん…本当に…グレートだった…」

石川は満足げに頷く。「次回は…」

「次回なんてまだ考えないで!」富山が急いで遮る。「まずは今を楽しもう!」

三人は笑い合い、再び口いっぱいにオムレツを頬張る。黄金色の卵と溶けたチーズが口の中で踊り、ベーコンの塩気とじゃがいもの甘みが絶妙なハーモニーを奏でる。

キャンプ場には、夕日が美しく差し込み始めていた。疲労と満足感で満たされた三人の姿を、夕陽が優しく照らしている。

「また…グレートなキャンプになったな…」石川は最後の一口を堪能しながら呟いた。


帰り道、ワゴン車の中で石川と千葉は熟睡していた。運転席の富山は、後部座席で寝息を立てる二人を見て小さく微笑む。

「疲れたけど…やっぱり楽しかったな」富山は独り言を呟きながら、次の信号で右折する。「次は…何を思いつくんだろう」

富山の頭の中には、既に次回のグレートキャンプに対する期待が、静かに、しかし確実に芽生え始めていた。

第6章 翌朝の惨状と予想外の展開

「うっ…」

石川は目を覚まし、テントの中で全身の痛みに呻いた。腕、背中、足、あらゆる場所が悲鳴を上げている。昨夜の狂乱のオムレツ調理祭りの代償だ。

「起きられねぇ…」石川は天井を見つめ、鈍い痛みをこらえる。「でも…あれは最高だった…」

テントのファスナーが開く音がして、千葉の顔が覗いた。

「おはよう、石川!」千葉の声は明るいが、その動きは明らかに鈍い。「みんな起きてる?」

「千葉…お前、よく動けるな…」石川は呻きながら体を起こそうとする。

「いや、正直キツいよ…」千葉は苦笑する。彼の腕には昨日のベーコン油の飛沫による小さな火傷の跡が数カ所ある。「でも、富山が何か言ってたよ。緊急事態らしい」

「え?緊急事態?」

石川はなんとか体を起こし、ゆっくりとテントから這い出る。外は既に朝の日差しで明るく、爽やかな風が吹いていた。富山はテーブルの前で、何かを見つめて立ち尽くしていた。

「富山…何があった?」石川が声をかける。

富山は振り返り、驚きの表情を見せる。「石川、見て…」

彼女が指さす方向に目をやると、昨日の巨大オムレツ調理をした場所に、10人ほどのキャンパーが集まっていた。よく見ると、彼らは昨日の残りのオムレツを写真に撮り、笑顔で会話している。

「なんだ?」石川は首をかしげる。

「ほら、これ…」富山はスマホを差し出す。

スマホの画面には、SNSのハッシュタグ検索結果が表示されていた。『#巨大オムレツ祭り』『#グレートキャンプ』というタグで、大量の投稿が流れている。どれも昨日の彼らのオムレツ祭りの写真や動画だ。

「えっ!?」石川は目を見開く。「これ、バズってるじゃん!」

「そうなの!」富山は半ば呆れ、半ば感心したように言う。「昨日の狂乱劇、みんなSNSにアップしてて、今朝になったら隣のキャンプ場からも人が見に来てるよ」

千葉がスマホを覗き込む。「うわ、すごい!コメント欄見て!『次回のグレートキャンプも教えてください』『参加したかった』って書いてある!」

石川の顔に徐々に笑みが広がる。「まさか…俺たちのグレートキャンプが…人気者に…?」

「山田さんが言ってたよ」富山が付け加える。「周辺のキャンプ場のオーナーが、次回のグレートキャンプをこの辺でやってくれないかって」

「マジで?」石川は痛みも忘れて立ち上がる。「これは…これは…」

「どうするの?」富山は心配そうに尋ねる。「まさか本当に定期的にやるつもり?私の腕、まだ痛いんだけど…」

石川は二人を見回し、満面の笑みを浮かべる。「決まってるじゃん!これぞグレートキャンプの真髄だ!次回は…」

「次回は何をするつもりなの…?」富山は既に覚悟を決めたような表情になる。

「次回は…」石川の目が輝く。「巨大バーベキュー山!肉100kg、野菜50kg、一度に焼き上げる超絶BBQコンボだ!」

「またかよ!」富山は頭を抱える。

「やったー!」千葉は興奮して飛び跳ねる。「次はBBQか!最高じゃん!」

石川は痛む体を引きずりながらも、昨日の鉄板の跡地に向かって歩き出す。その目は既に次回のグレートキャンプの構想で輝いている。

「みんな…」石川は小さく呟く。「これからも…俺たちのグレートなキャンプは続くんだ…!」

富山は遠くから石川を見つめ、あきれた表情を浮かべながらも、小さく微笑む。「あいつ、本当に懲りないよね…」

千葉はそんな富山の肩を叩く。「でも楽しいじゃん!それに…」

「それに?」

「それに富山の腕、すごいムキムキになってたよ」千葉がニヤリと笑う。「卵300個割った成果だね」

「もう!」富山は千葉を軽く叩く。「次回はあなたに卵割り係やってもらうからね!」

三人は笑いあい、朝の爽やかな風の中、次なるグレートキャンプへの期待と恐怖が入り混じった気持ちで、新たな一日を迎えるのだった。

(おわり)

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『俺達のグレートなキャンプ33 巨大オムレツ(100kg)クッキング』 海山純平 @umiyama117

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