『AIとスパイク』~ChatGPTは、勝ち方を教えてくれた。でも、勝つ理由は自分で決める。~

Algo Lighter アルゴライター

プロローグ

 スマートフォンの画面に「ChatGPT」の文字が浮かんだとき、桜井陽菜は半信半疑だった。


 県立秋月高校の排球部は、今や形だけの存在だった。部員は最低限、勝率は最悪、顧問はほぼ不在。昨年度は一勝十四敗。体育館の隅で誰かがつぶやいた「うちって、AIとかに頼った方が強くなるんじゃない?」という冗談が、陽菜の胸の奥に奇妙な違和感として残った。


 彼女は元エースでもなければ、プレイヤーですらない。マネージャーとしての経験も浅く、そもそもバレーのルールさえ完璧に理解していなかった。ただ——「このまま終わるのは、嫌だった」。その気持ちだけが彼女を動かした。


 ある夜、クラスメイトが話していた「なんでも答えてくれるAI、やばいよ」との言葉を思い出し、試しにアプリを起動してみた。見た目はどこにでもあるチャット画面。だが、その入力欄に向き合うと、自分が無数の問いの入口に立っているような感覚に襲われた。


 〈県立秋月高校排球部を強くするには、どうしたらいい?〉


 そう打ち込んだ数秒後、返ってきた返答は想像以上に的確で、そして冷静だった。


 ——まず、目標を定義してください。

 ——次に、課題を定量的に把握しましょう。

 ——可能なら、過去の練習データや試合記録を提供してください。


 質問のあとに、また質問。答えは返ってくるけれど、それは同時に“次の問い”を促すようだった。


 AIは魔法ではない。けれど、問い続ける勇気があれば、少なくとも孤独からは救ってくれる。


 スマホの画面を見つめながら、陽菜は気づいた。

 ——私はこのAIと、チームを、変えてみたいと思っている。


 それが、桜井陽菜と“Byte”の、20の記録の始まりだった。


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