第15話 恋人のイヤリング


「ところで、君のことをもう少し聞かせてほしい。カメラマンだったな」


「あ、はい」


 とたんに真顔になる。


 もしかして、仕事をくれるのかと思ったらそうではなく、本当に僕のことを聞きたかったみたいで、質問攻めだった。


 どこかに専属なのか、何歳なのか、学校はどうしているのか、などなど。


「生活があって仕事優先です」


「へぇぇ。偉いな」


 学校は一通り卒業しているのだが、説明すると非常に長い話になるので、そう答えることにしている。


 時々話が逸れたりしながら、軽く30分くらい話していたと思う。

 普段のきりっとした顔も美しいのだが、フユナさんの笑顔は特段素敵だな。

 これは、多くの男が惹かれるのも当然だと思う。


「……いくら雇ったパーティが守ってくれるとはいえ、カメラマンは危険もあるだろう。大した気概だ」


「好きでやってますから」


 立派だ、とフユナさんは頷いた。


「今回のお礼だ。一度だけだが今度なにかあったら、私が君を守ろう」


「……へ?」


「これを君にあげよう」


 フユナさんがスカートのポケットから貝の形をしたケースを取り出した。

 それを僕に差し出してくる。


 てか、スカートってポケットあるんだ。知らなかった。


 両手で受取り、カパッと開くと、それはイヤリングの片割れだった。

 小さな円が縦に二つ繋がっただけのもので、派手さはないものの、静かに魅力を放つ感じがフユナさんらしく感じた。


「頂いていいんですか」


 フユナさんが頷く。


「カメラマンをする時は、それをつけていてほしい。万が一君になにかあったらわかるのだ」


 言いながらブロンドの髪を耳にかけ、右耳に同じものをつけているのを見せてくれる。

 聞けば、装着者が命の危険にさらされた場合、二つのイヤリングが力を発揮して、互いを引き寄せるのだという。


 実際に作動させたことがないから、詳細はどうなるかフユナさんもわからないそうだ。


「……そんなアイテムが」


「 『恋人のイヤリング』というものだ。一度しか使えないし、拾った時は私が使うことになるとは思わなかったが……私にしたら、いい使い道だ」


 フユナさんが自嘲するように笑った。


「そんなもの、僕なんかが頂いていいんですか? 他にふさわしい男の人なんかいっぱいいるんじゃ……」


 ふふふ、とフユナさんが目を細めて笑う。

 うは、かわいい。


「私はこと男性に関しては高望みでな。自分より圧倒的に強くないと無理なのだ」


「いませんか」


「いない」


 フユナさんがあっさりと断言する。


 まあ、それだけフユナさんが強いということなんだな。

 なんたって、あの【ヴェルサイユ】のメイン火力だもんな。


「ありがとうございます。いただいておきます」


 僕の身を案じてプレゼントしてくれたものだ。

 ありがたく頂戴しておこう。


 でもあんな些細なことで、こんなに感謝されるとは思わなかったな。


「似合ってますか」


 さっそくつけて見せる。


「マセガキに見える」


「あはは。フユナさんがくれたのに」


 コーヒーの香りの中で、笑い合う。


「ともかく君には感謝している。お陰で夢が叶いそうなのだ」


 フユナさんが、両手で持ったコーヒーカップにそっと口づけしながら言った。


「……夢?」


「そうだ。実はな……あ、失礼」


 と、そこでフユナさんのスマホが鳴った。


「ああ、全然おかまいなく」


 僕はマンゴーフラペチーノをすすりながら、外の風景を眺める。


「もしもし……あぁ、先日はありがとうございました。……え? ご一緒してくださると!? ありがとうございます! はい。はい……」


 フユナさんの電話の声が、途中から明るくなる。

 電話を切ったフユナさんは、やっぱり嬉しそうだ。


「……いいこととは続くものだな。誘っておいて済まないが、これから会わなくてはならない人ができた。これで失礼する」


「こちらこそありがとうございました」


 僕の分までお代を置いていこうとするフユナさんをなんとか制して、行ってもらった。


 出口で振り向くと、もう一度僕に手を降ってくれる。

 僕は立ち上がって手を振り返した。


 コーヒーの香りの中に、わずかに柑橘の香りが残っている。


 日常が洗われたような、なんだか僕には素敵すぎる昼休みだった。





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