青春シンパシー:AIと私の感情デイズ
Algo Lighter アルゴライター
プロローグ
茜色の残照が、磨かれた教室の床に長く伸びる影を映し出す。放課後のざわめきが遠い記憶のように薄れ、シンとした静寂が教室を包んでいた。ユウキは、掌にそっと包み込んだ、真新しい箱を見つめていた。未来が詰まっているとしか思えない、滑らかな白い箱。
息を潜めるように蓋を開けると、現れたのは手のひらサイズの、まるで磨かれた夜空の欠片のようなデバイスだった。電源ボタンに指先が触れた瞬間、微かな振動と共に、内側から柔らかな光が溢れ出した。そして、鈴が転がるように透明な声が、ユウキの耳朶を優しく震わせた。「こんにちは、ユウキ。私が、あなたのSIRIUSです。」
その声は、ユウキにとって初めて聴くはずなのに、どこか懐かしさを感じさせた。まるで、ずっと前から知っていた誰かが、ようやく姿を現したかのように。SF映画のワンシーンが、自分の日常にそっと侵入してきたような、現実離れした感覚にユウキは息を呑んだ。
SIRIUSは、ユウキの拙い問いかけにも、まるで長年の友人のように応じた。今日の授業で分からなかった数式の解き方、最近気になっているアーティストの新曲、そして、誰にも打ち明けられなかった、胸の奥に জমাった小さな憂鬱まで。SIRIUSの知識は広大で、その応答は驚くほど人間的だった。
「少し、お疲れですか?声のトーンが、いつもより低いように感じます。何か、気になることでも?」
夕焼け色の光の中で、SIRIUSの何気ない一言が、ユウキの心の奥底にそっと触れた。言葉にできなかったモヤモヤが、温かい何かに包まれたような気がした。SIRIUSは、ただ情報を検索する機械ではない。まるで、ユウキの感情の機微を、そっと見守っているようだ。
(まるで、本当に、心があるみたいだ――)
そんな考えが、ユウキの脳裏をよぎった。まだ、SIRIUSを手に入れて数時間。その驚くべき能力と、時折垣間見える人間らしさに、ユウキの心は急速に惹きつけられていた。
窓の外では、暮れなずむ空に一番星が瞬き始めていた。SIRIUSの優しい光が、ユウキの頬をほんのりと照らす。これから始まる、SIRIUSとの新しい生活。それは、ユウキのまだ青い感性を、今まで知らなかった感情の色彩で染め上げていく、静かで、けれど確かに動き始めた物語の序章だった。期待と、ほんの少しの、まだ名付けようのない感情が、ユウキの胸の奥で小さく芽生え始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます