ep18. 魔女のちんちん
「え!? お兄ちゃ、じゃなくて、お姉様だったんですか!?」
何言ってんだコイツ。お兄ちゃんだったら、女湯に来るわけないだろ。
これ、いつかどこかで見た光景なんだけど。
カヲルコは俺の事を、混浴に連れ込むヘンタイさんだと思ってたの?
「残念ながら、こいつに、ちんちんは無いのよ」
「ち、ちんちん!? そんなモノは仮想器官です故!? ここは異世界ではありませんから。あるはずがないですともっ」
こいつも拗らせてんなあ。この物語は、ちんちん発言多くない? そんなものは実在しないと言うのにな?
「この調子で、あちこちに妹や弟が居るんじゃないでしょうね?」
「ははっ。弟子やのうて、弟さんやったんかー。ちんちん無いけど」
ちんちんを連呼していいのは、幼稚園児と新妻だけだって言ってるだろ? 神聖カワサキ帝国憲法違反だよ?
「ほいでー、どうなるんやコレ? あの近衛騎士団は、何者やったっけ?」
「あの4人は、弁護士、行政書士、会計士、そして武士よ」
「武士ってなんやねん!? そんなん現代社会の士業にはあらへんで? 監督官庁はどこやねん?」
「いや、見た感じ美容師なんだけど。そう呼べって言うのよね」
「あの、バンパイヤ姉さんか」
武士の戦闘能力は未知数だが。うちには税理士も居るし、社会的には結構な武闘派集団じゃないか? 肉体的な暴力じゃなく、社会の仕組みを利用した暴力。
「王室お抱えの魔導士って、あの司法書士なの?」
「だと思うじゃない? それが王室とは無縁なのよね」
「なんで、あんなボロビルに士業が揃ってんねん」
「ボロだからこそじゃないの? 事務所に客を呼ぶ必要が、あまり無いみたいよ。美容師以外」
「そらそやな? 重要書類持って外出たないもんな。知らんけど」
「立地さえ良ければ、家賃安い方がいいって事か」
「最近は、リモートでも対応出来るようだから、立地よりもネット環境みたいね」
「ああ、無駄に太い法人回線契約してるもんな」
屋内配線まで光ファイバーだよ。50年前の建物とは思えんな。雑居ビルの回線手配なんてした事ないから、相場を知らんけど。だいたいは、個人向けと同じフレッツだと思う。でも、法人回線とはいえ、5軒で共有しているから、そんなには高く付かないんじゃないかな?
パパちゃんの事業規模次第では、大幅な値引きがあったのかも知れない。回線は定価の99.9パーセント値引きすらあるからな。定価って何? 原価すらはっきりしないんだから、回線屋なんて、いい加減なもんだよ。
「しかし、社会的に抹殺するのは簡単だろうけど。諸刃の剣じゃないか? だって、うちの領地って元々は、ロッテンマイヤーが管理してたんだろ?」
「あいつを爆破すると、うちにも誘爆するものが埋め込まれてるかもね?」
爆殺しちゃんだ。士業が揃ってるんだから、きっと可能なんだろうけど。犯行の揉み消しがね。
「探偵が、足りんな?」
「くのいちですね。ふふっ、それならここに」
カヲルコの邪気眼が湯気の向こうで光った。なあ? ご都合主義が過ぎないか? これ全部、悪魔の陰謀なんじゃないの?
「尾行調査とか、気配を消さないといけないんもんなあ。知らんけど」
「やから、こんな気配の薄っすい子になってしもたん?」
「逆に目立ってる気もするけど」
カヲルコは、探偵なんかじゃなかった。もっと、やべえ奴だった。
「闇金かいな!?」
「それは先代までです。今は、もう畳んでます」
「儲かりそうやのに。川崎やし」
「無担保ローン各社がカバのライ菌だかで破綻して、大手銀行が参画しちゃいましたからね。小さい街の金融で借りるようなのはクズしか居ませんから。川崎なら顧客は大量に居るわけですけど。リスク高いんですよ」
競馬場とかあるもんね。日曜の夕方になると、駅前の牛丼屋で、しょぼくれたのが、もそもそと並盛食ってるよ。ちなみに俺は、無担保ローン屋さんの株を、カバライ菌騒動の直前に買ってたよ。ほんと、投資の才能ないわー。運が無いと言うべきか?
「他には奴隷商もやってました。2重3重当たり前の、やべえやつ」
「派遣な? 実質同じ気もするけど」
人材派遣業も、法改正の影響なのか、大手も含めて、かなり淘汰されたと聞く。
「なあ、それって、大量に個人情報が残ってるってこと? それも特定の属性に偏ったやつ」
「そういう事です。まあ、古いものですし。役には立ちませんね」
ロッテンマイヤーが、闇金摘まんだり、日雇い派遣してたりはせんよなあ。
「まあ、難しく考えんでもええんちゃう?? くたびれたおっさんなんか、しばいたらええんや」
「そうね。事件は、弁護士に揉み消してもらいましょう」
「シンプルに悪事なんだが」
もっとこうさあ? 知能的なミステリーにならんの? ならんだろうなあ。
「ちんちん斬るか?」
「うーん、さすがにソレは弁護出来ないなあ。勝訴する要素が見当たらん」
「分かりやすく横領とかしてんじゃないの? 無けりゃ会計士の私が、捏造してもいいけど」
「内容証明とか送っても攻撃にならんだろなあ。行政書士の私は、四天王最弱だな」
夕方になって合流した近衛騎士団は、いつの間にか四天王になっていた。
おかしいな? 単体だと強いのに、集めるとポンコツだぞ? 悪事しか策が出てこない。
「ハニートラップを仕掛けるかい?」
「母さんだけ、職業が読み取れない発言するのね」
「税理士が出来る事なんて、この場合だと、会計士と変わらんよ? それより空きテナント無いの? 私も、仲間に入りたいんだけど」
「んー? 五天王? ファイブスター? 五芒星? なんか落ち着かんな、よし、美容師をクビにしよう」
「自分やんけ、それ。なんやこいつ。おもろいわあ」
何も決まらない。法に触れない範囲でいじめると言う、子供みたいな結論に着地した。船頭多くして船が沈んだ。有能な人間だけ集めてもダメだね? 殿下のファンクラブって時点で、こうしかならんか?
「テナントなら、うちのビルに来れば、ちょうど5つ空いてますけど。小さいライブハウスも開業する予定です。最上階には住居用の部屋もあります。私しか住んでませんけど」
「ええやん? あのボロビル潰してまお?」
「なるほど。敵の攻撃対象が消えれば、こっちの勝利ね?」
「なんだ、私達が結束した時点で、勝利は確定してたか」
「お互いの能力やコネを活用すれば、移転費用も抑えられるんじゃない?」
「髪を切るなら我に任せるのじゃー」
「関係ねえわー。うけるわー、こいつー」
最近は、景気も上向いて来たので、新天地で仕切り直すのも良いでしょうって事で、みんな移転に合意してくれた。ボロビルよりも最新設備の整った新築の方がいいもんね。セキュリティの確保が重要な業種ばかりだし。美容師以外。
「敷金は、うちからそっちにスライドした事に出来ないかしらね?」
「さすがに、存在しない残高は動かせないよ? 空手形とか振り出すの? 死んじゃうよ?」
「ふむ? こういう時の裏技があった気がするのだけど?」
「政略結婚ですかっ!? わ、私、お姉様となら喜んでっ!」
「だから、こいつに、ちんちんは無いって言ってるでしょ?」
また、そういう話になる。いや、しかし。ちんちんは無くても合体は可能なのでは?
「業務の合体って出来ないの?」
「あー、それなぁ! 法人化して、ごにゃっとやればいいんじゃない? 行政書士でも手伝えるよー」
「足りないのは、社会保険労務士くらいかね?」
「従業員ちょろっとしかおらんのやし、てきとーでええんちゃうの?」
「うちが元々法人格持っているので、そこに混ざってしまえば、いいのでは? 今となっては、ビル一本残っただけで、私しか居ませんし。法人格が無駄なんですよね」
「結婚出来れば、単純な気がするんだけど。なんで、姉さんは、ちんちんを持たずに生まれて来たのかしら? 時空を越えて因果律を操作出来ないの?」
「ちんちん生えてもうたら、もう姉さんちゃうやん」
ユニコーン教会の法人格に合流して、合併って事になった。新生神聖カワサキ帝国の誕生だ。代表は、協議する事もなく、当然の如く殿下が就任する事になったよ。やってる事の規模は、そこそこ大きくなっているのに、相変わらずごっこ遊びなんだよなあ。
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