#しるしについて教えてください
雪車町地蔵@12月10日新刊発売!
某週刊誌 202■年8月14日掲載記事より抜粋
『人を食い物にするショービジネスは許されていいのか?』
先月3日、有名企業の跡取り娘が、兵庫県■■市■■■■二丁目の自宅で亡くなった。
Jグループの令嬢、スズカさん(仮名 20歳)のことである。
警察はこれについて、事件性はないと判断した。
しかし、一つの違和感から筆者が調査を行ったところ、驚くべき事実が判明した。
彼女の苦悩と、悲痛な交際関係である。
才色兼備という言葉で彩られたスズカさんの人生は、しかし灰色だった。
両親からの資金的な援助はあったものの、そこに愛情はなく、良家の令嬢であるという理由だけで、子ども同士の自然なふれあいや大人からの援助も許されなかったという。
親への想い、愛情への飢え、これが彼女の人格形成に与えた影響は計り知れない。
事実、一時期からスズカさんは独自のコミュニティーを形成する。
いわゆる、サークルの姫。
美貌と親の資産。これを醜くも欲しがる人間で、彼女の周囲は覆い隠されてしまったのだ。
交際経験は男女を問わず、100件を超えたとも噂されるが、そこに本来親が与えるべき父性愛や母性愛の欠如があったことは想像に難くない。
姫という肩書きを取り払ったとき、そこにいたのは搾取され、むさぼられるだけのか弱い少女だった。
そんな彼女に致命傷を与えた男。
あろうことかそれは、子どもに正義を伝えるべき特撮俳優のK氏。
二人が知り合った切っ掛けは、とある恋愛リアリティーショー。
彼女はそこで、K氏に対してはじめての失恋を経験。奇行に走る。
長かった髪をバッサリと切り落とし、都内にあるK氏の自宅へと押しかけたというのだ。
なにがそこまで彼女を突き動かしたのかはわからない。
判明していることは、K氏が付き合うことを了解し、その後スズカさんが遠く離れた兵庫県の自宅で亡くなったという事実だけだ。
このような経緯があったからだろう、K氏についても、警察は任意の事情聴取を行ったという。
我々も同じく、疑いを深くし、女性の死について関連性があるのではないかと当該男性が所属する事務所へと質問状を送った。
だが、返答はじつに不誠実なもので、所属俳優のプライベートに関わる事柄は回答できないというのだ。
仮にも子ども達が視聴するヒーロー番組で、花形たる正義の味方を演じた俳優が、こういった事件に関わり、性的な関係を築くなど言語道断である。
スズカさんのその後を思えば、あまりに卑劣な振る舞いとすら言えるだろう。
加えて、先に述べた恋愛リアリティーショーにおいて成立したカップルには、奇妙な行動を取るものが多々現れ、SNS上で特定のワードを繰り返し投稿したり、出演番組をドタキャンしたりと素行が乱れきっている。
あるいは、この番組自体が、そういった性的な接待の現場となっていた可能性も捨てきれない。
多くの男女と関係を形成してきたスズカさんだが、死の間際には自らの顔が鏡や水に映ることを怖れていたという証言も得られている。
否応なく両親を思い出す自分の容姿に、恐怖やそれ以上のものを覚えていたのかも知れない。
ある意味では、過激化する恋愛リアリティーショーの被害者、両親から愛情を与えられなかったネグレクトの経験者であるとも考えられる。
二度とこのような犠牲者を出さないため、ひいては社会全体を是正するためにも、筆者はこの事件について、今後も追跡調査を行っていく所存である。
続報を、お待ちいただきたい。
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※以降、この週刊誌で当該事件について触れられることはなかった。
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