転生の果て、滅びゆく世界で君を救いたい ―月が照らす救済譚―
そうだ涅槃、行こう
プロローグ『光ってない?』
――それは、夢だったのか。
それとも、誰かの記憶か。
いや、もしかしたら“未来”だったのかもしれない。
世界は、一瞬で壊れた。
“神も仏もいない世界”の結末だった。
欲望が積み重ねたカルマは、限界を超えた。
――大地震。火山噴火。大津波。洪水。都市崩壊。
国は裂け、家族は離れ、隣人は隣人を殺した。
女も、子供も、守られることはなかった。
“弱者”という言葉すら消えた世界に、絶望だけが静かに積もっていった。
空には、血のような月が浮かんでいた。
それは、地獄の始まりだった。
*
そんな世界の片隅。
崩れた街角で、一人の少女が泣いていた。
「おかあさん……どこ……?」
声は掠れ、顔は泥と血で汚れている。
震える指は、瓦礫の隙間に埋もれたままだった。
そのときだった。
小さな手に、黄金の光が降り注いだ。
まばゆい金色が、崩れた都市の闇を貫いた。
人々が振り返る。
そこに立っていたのは――“彼”だった。
誰も、はっきりとは見ていない。
ただ、“光”があった。
神のような。
仏のような。
異世界の使者のような。
あらゆる宗教と国家が、その姿に涙した。
キリスト教徒は「救世主」と呼び、
仏教徒は「転輪聖王」と称え、
ヒンドゥー教徒は「降臨ヴィシュヌ」と拝み、
科学者たちすら「物理法則の彼岸」と震えた。
だが、誰にも彼の名はわからなかった。
彼は、ただ静かに少女の前に膝をつき、
掌を、その額にそっとかざした。
黄金の波紋が広がる。
光が傷を癒やし、折れた骨を繋ぎ、少女の呼吸が戻っていく。
「……っ……おかあ……さん……」
小さな唇が震えた、その瞬間――
世界のどこかで、誰かの“願い”が目覚めた。
*
その日から、“奇跡”は始まった。
ある者はSNSでこうつぶやいた。
『#光ってない?』
一枚の写真が拡散された。
少女を抱き上げる“黄金の人影”――涙を流すように、ただ微笑んでいた。
それをきっかけに、世界は変わり始めた。
善き願いは、神を呼んだ。
悪しき願いは、鬼を生んだ。
物質世界と精神世界が交差を始め、
“願い”が現実に影響を持ち始めた。
焦土の中、
純白の盾を掲げた者が現れ、
「光を届けたい」と願った少女に青い光が灯り、
紅蓮の刀を持つ女神が、業火を断ち切った。
だが同時に。
「奪いたい」「滅ぼしたい」と願う者の元には、
鬼神、悪魔、呪詛の軍勢が現れた。
それは天罰ではない。
積み重ねた因果の清算――
カルマの“返り咲き”。
第三次世界大戦の火種は、もう誰の手にも負えなかった。
核兵器でも、AIでもない。
“願い”こそが、世界を動かし始めていた。
*
炎に包まれた都市の片隅で、
一人の青年が焼けた地面に膝をついていた。
手には、血に濡れた経文。
口元には、穏やかな微笑み。
「……アァ……この痛みも、供養だァ……」
その声は願いのようで、どこか陶酔していた。
彼の背後に、黒い光の曼荼羅が咲いていた。
*
この物語は、“願い”が形を持ち始めた時代に生まれた。
誰かの手で記録され、誰かの心で綴られ、そして、君の目に届いた。
崩壊したこの世界で。
無力だった少年が、“光”と出会い、やがて“願いの曼荼羅”を完成させるまでの物語。
それは、“誰かのために願う”物語。
君がこの物語を開くとき――
君の願いもまた、曼荼羅の一部となる。
――まだ、光ってないか? 君の世界は。
#光ってない?
……その問いは、朝になっても胸に残っていた。
そして、あの日――佐倉灯夜の“願い”は、目を覚ました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます